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イセカイ×イサカイ=腐れ外道  作者: 里中葉月
一章 【初陣】
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『追及』

 「……おい、今すぐこの茶番をやめろ。そして俺に謝れ! 今ならまだ許してやる!」

散々侮辱されて冷静さを失った男はそう言うと、再び剣に手を掛ける。

ところが、その様子を見てもなお、越喜来は笑ったままだった。


 「嫌だね。僕は他人に謝るのが嫌いなんだ。大体、お前だってみんなを騙してたじゃないか。これでおあいこだよ」

越喜来は自身に向けられた殺意を気にもとめずに、あっけらかんとしている。

(ふざけやがって! こいつだけは、絶対に殺す!)

侮辱するようなその態度に、男はとうとう我慢の限界を迎えたらしい。剣を握る力を強め、そのまま一気に引き抜き斬りかかろうとする。

と、そのタイミングに合わせるかのように、越喜来が唐突に口を開いた。


 「それにお前には、まだ"隠し事が残ってる"しね」

その瞬間、先程と同じく店内に銃声が響いた。越喜来の言葉が、矢印を描いて男へ飛んでいく。

それが体に突き刺さると同時に、ギクリ。と音が聞こえてきそうなほど、男は大げさに反応した。

図星、であった。


 (まだ隠し事をしてる? でも、もう隠すことなんて無いんじゃないの?)

後ろで越喜来の言葉をを聞いていたリリーは、訳がわからないと言った顔をしている。

それとは対照的に、男は額から汗を流して硬直していた。


 「は、はあ? 俺がこれ以上何を隠すっていうんだ? 言いがかりもほどほどにしろよ!」

言葉をつまらせながら、動揺を必死に隠そうとする。

しかし、それは越喜来の前には全く持って無意味だった。

「誤魔化しても無駄だよ。お前が何を隠しているのかなんて、とっくに見当がついている」

男が動揺していることを察した越喜来が、その隙を狙って男に言う。


 「さっき言ったように、お前に援助を打ち切る権限はない。でも、このままお前のいうことを聞き続けていたら、"どのみちこの村には援助が来なくなる"んだ。違う?」

同時に、銃声。越喜来の容赦ない言葉が、男を貫く。

「何だって? こいつが援助を打ち切れないのなら、うちの村は安全なはずだろう!」

横で聞いていたマスターが驚いて問いかけるが、越喜来はそれを無視する。


 「くっ……し、証拠はどこにあるんだ? 無いんだろ!? 証拠がなきゃ話にならねぇ。さっきのといい、今のといい、どれもこれもお前の憶測に過ぎねぇじゃねぇか!」

男は越喜来の言葉を受け一瞬口ごもったが、すぐに大声で反論を始めた。

「ああ、証拠はないよ。でも、そう考えた根拠なら、説明できる」

その反論に対し平然と答えた越喜来は、何かを思い出すように目を閉じて上を向くと、たたみかけるように説明を始めた。


 「初めにマスターから話を聞いた時から、僕は『冒険者を街に回せ』というお前の要求に違和感を覚えていたんだ。ただ酒を飲んでワガママに過ごしたいだけなら、そんな要求する必要がない」

「そこで、僕はこの村について考えてみた。リリーに引きずられながらこの村にたどり着いたとき、ここにはこの酒場以外特に"収入源になりそうな施設が見当たらなかった"」

「この村は、酒場に来た冒険者の仲介料と、彼らによる消費以外ではほとんど利益を生むことができないんだ。ということに、僕は気がついた」

「そこから冒険者が消えたら? もはやこの村は何の価値も生み出さなくなる。そんな無価値な村に援助を施す街なんて、恐らくどこにも存在しない」

「つまり、"ここから冒険者を消す"お前の行為自体が、村を潰すことに繋がっていたんだ」



 越喜来は、男が口を挟む余地がないよう早口でまくしたて、一息ついてさらに言葉を続けた。

「今度は嘘じゃないんだけどね? さっきの名簿に、防衛隊の昇格条件が書いてあったんだ」

それを聞いた男が、慌てて手元の書類を確認する。そこには確かに、簡易ながら防衛隊の評価基準についての説明が載っていた。

「『防衛した期間と、その対象となる街の規模によって評価は決まるのです』だってさ。早く昇格したいなら、出来るだけ大きい街を守った方が楽らしい」

そこまで話し終わると、越喜来は顔を男の方へ戻し目を開いた。


 「これらの情報をまとめると、お前は自分の昇格のために、この村を潰して"隣街の領地を広げようとしていた"としか思えないんだ」

その言葉に再度銃声が響くと、男は完全に黙ってしまった。

「これも図星、かな?」

越喜来は男の様子を見てそう呟き、ゆっくりと男の方へ歩き出した。


 「ま、待て……まだ、まだ証拠がない!だから、これは違うんだ。そうだ、こんな説得力のない意見が通るわけない!」

男は怯えた声でそう叫ぶと、一歩後ずさりをした。混乱しているのか、虚ろに証拠、証拠とばかり繰り返している。


 「いや? お前のその分かり易い反応は、単純な証拠よりも説得力を持ってると思うよ?」

そう言って越喜来は男を指さす。男は焦りから色を失い、立っているのもやっとの状態だった。

その姿を無感情に見つめると、越喜来は止めとばかりに男を責め立て始めた。

「善良な市民を騙して、自分のために利用したわけだ」

「お前の昇格を実現するために、何人が被害を被ることになるんだろうね」

「私利私欲を理由に他人を巻き込む。それって最低なことだと思わない?」

じっくりと、逃げ場を奪うように、男の罪を批判していく。


 「お前、生きてる価値ないよ」

そして最後に一言、無表情で呟いた。

銃声が響く。

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