詩 彼女がアイドルになりたいって言う
「アイドルになりたいな」
「え?」
登校中、彼女が急に言い出したので、俺はびっくりする。
彼女は軽く頬を膨らませると、
「そんなに驚くことないじゃないの」
と文句を言う。
「悪い。だってお前、アイドルって…」
彼女の全身を眺め、確かになれないこともないなと納得する。
今、アイドルブームだから、彼女もなれるかもしれないと、目を輝かせる。
「応援してやるよ」
「ありがとう。実は…」
彼女はカバンを開けると、俺に雑誌を見せてくる。
そこには、「アイドル募集」と書かれており、黄色い付箋が貼ってあった。
「もう応募しちゃったんだ」
「え!? もう!?」
「駄目かな?」
窺うような上目遣いに、俺はくらりとやられる。
畜生、卑怯くさい。
それに、水くさいじゃないか。
俺に事後報告するなんて、と怒った表情を作る。
「俺に何で言わなかったんだよ?」
「だって、恥ずかしいもの。…でも、今更だけど、どう思う?」
「どうって…」
俺は顔を赤くし、早口で言う。
「お前ならなれるよ。頑張れ」
「うん!! 頑張る」
彼女は本当に嬉しいようで、俺の袖を摘んでくる。
「あのね、特技を披露するのはピアノにしようと思って」
「あ、いいかも!! お前、すごいもん」
俺が彼女の手を繋いでやると、握り返してくる。
照れくさそうにしたのだが、はっとする。
「あのさ、水着審査はあるのか?」
「さあ? 分からない。それがどうかした?」
「どうかって、お前…」
俺は彼女の頬を引っ張る。
「何? どうしたの?」
「お前が気にしないならいい」
そう言いつつ、雑誌を速読する。
とりあえず水着審査は書いてないので、良かったと安堵する。
他の人間の前で、彼女の水着姿なんか、見せてたまるか。
それだったら、俺が独占してやる。
それが、彼氏ってものだろう?
「あ、先生が立っている。隠さなきゃ」
彼女がカバンに雑誌をしまう。
とりあえず、アイドルの話は終わりだった。
あー、俺の馬鹿。
応援したいのか、やめさせたいのか、訳が分からなくなってきた。
「また後でな」
「うん。皆には内緒だよ」
唇に人差し指を立てる姿が、可愛い過ぎる。
本当に合格したらどうなるのだろうか。
ドキドキしながら、校門を通って行くのだった。




