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第7話 ゴブリン掃討戦

 ギルドの広間に冒険者たちが整列し、ロイドさんの啓示を受ける。


 とは言えほとんど定型的なもので、既に聞いたやることの確認でしかない。


 ゴブリンが築いた集落の正面に一般冒険者を並べて配置し、散発的な戦闘をする。


 負傷した場合は退いて交代する。


 そうしてゴブリンが前線に集中し、両端の戦力が少なくなってきた頃に、その隙間を突く形で精鋭冒険者たちが一気に包囲して殲滅する。


 当然俺は一般冒険者なので、真っ正面でゴブリンと戦う訳だが……、今日は朝早くから召集を掛けられていることもあり、何だか頭がボーッとしている。


 こんな調子ではいけないと頬を叩いて気合を入れていると、ちょうど集合地点を示されて訓示が終わるところだった。


 一番槍を目指す必要は無いので、のんびりと王都の門を抜ける。


 何人かギルドで見かけた顔はあるが、全員パーティーを組んでいて、和やかに談笑している。


 気付くと周りは皆誰かしら話し相手がおり、一人で歩いているのは俺だけだった。


 シルバーも今日はパーティーを組んでいるだろうからうかつに絡みにはいけないし、アイは姿が見えない。


 ……別に寂しくはない。


 今日は風が弱く、日が照るところに立っていると薄着でいたくなるほどの陽光だ。


 集合地点には着いたときにはまだ人が少なかったが、後からぽつぽつと増えてきた。


 ある程度人数が集まったら始める……とのことだったが、流石にまだ人が少なすぎるようだ。


 少しずつ集結していく冒険者の装備は人によりけりで、剣や弓といったよく見るものからメイスやダガーといった変わり種、宝石がはめ込まれた杖などの独特なものも見える。


 あの宝石、まさか本物だったりするのだろうか……?


 服装などからして恐らく魔法使いの類だとは思うのだが、あちこちに装飾が目立ち、どう見ても安物ではない。


 ……魔法使いってあんなに金かかるのかなあ。


 夢が遠のく気配にめまいを起こしていると、遠くから太鼓の音が聞こえてきた。


 ――開戦の合図だ。


 剣戟の音が辺りに響き、弓矢が風切り音を奏でる旋律。


 メインボーカルはゴブリンの鳴き声。


 振り回す鉈を二度、三度と剣で受け、跳ね上げて空いた胴を横に薙ぐ。


 斜め前から飛び出してきたゴブリンが振り下ろした石鎚を飛び退いて避け、手元を斬りつける。


 武器を取り落としたところを見て、追撃を加える。


 一人一人は決して強くないのだが、いかんせん数が多い。


 太陽はすでに天辺を越え、暖かかった気温は暑さを僅かに思い起こすレベルに変わっていた。


 その上剣を振り回しているわけで、どうしても身体が水分を求める。


「水……持ってくれば良かった……」


 今更気付いたところで後の祭り。


 食糧は飲み物を含めて各自の持ち分なので、水も忘れた俺は強制的に脱水と戦うことになる。


 お昼ご飯を忘れなかったのが唯一の救いだろうか。


 輪番制で先に休憩している後ろの冒険者たちから、美味しそうな香りが空腹を刺激する。


 半ば八つ当たり気味に手近なゴブリンを切り捨てる。


 これで視界に入るゴブリンは全て無くなった。


 朝から続く脱力感は消えないが、一旦休みに出来そうだ。


 食事の終わっている冒険者と交代し、木陰に座り込む。


 あらかじめ買っておいた薄い肉と野菜を挟んだハンバーガーを一口頬張る。


「美味い……が、しょっぱい」


 露天で買っただけに、例によってやや塩っ気の強い味付けだ。


 ……水が欲しい。


 なんでもいいから、液体が無いか……と持ち物を漁ると、ポーションが出てきた。


 インチキな露天商が売っていた、薄口ポーション。


 露天では日陰だったので気付かなかったが、日の光に当てると明らかに色が薄い。


「……飲んじまうか」


 元々マトモな効果の無い荷物だったもの。


 栓を開けると僅かに薬草の香りがする。


 想像通り、青汁の風味が口に広がるのだが、水っぽい分味が薄く、余計にマズい。


「……まあ、飲み物が無いよりマシか」


 このまま一呼吸置かせて貰おうと思っていると、掘っ建て小屋の奥から増援のゴブリンがやってくる。


「いつまで続くんだ……!?」


 名も知らぬ冒険者の叫び声に共感できる、そう思うほどにゴブリンの勢いは失せることなく、いつまでも仲間がやってくる。


 一区切りつけば精鋭が突入する話だったが、終わらない戦闘のせいで突入する隙がないのだろう、それらしい姿は無い。


 さっき替わってもらった冒険者が増援のゴブリンに囲まれている。


 とっさに割って入り、助けたものの頭を殴られたらしく、目を回してしまった。


 踏まれない場所に下がらせて、前線へと戻る。


 これは、思ったよりも厳しいかもしれない……。


 無限とも思えるほど沸いて出てくるゴブリンに比べ、冒険者側に増援は無い。


 辺りは獣と血の臭さで鼻がほとんど効かない。


 ゴブリンたちはこの臭いを追って来ていることに気付いたが、今更どうにかなるはずもなく、ひたすらに目の前の敵を切ることが限界だ。


 屋根の上に動くものが見えたので追うと、ゴブリンが冒険者から奪った弓を持っている。


 狙いは後衛の魔法使いだ。


「弓! 狙われてるぞ!」


 とっさにそう叫ぶのが限界だった。


 ゴブリンは精密に魔法使いの胴体へ矢を撃ち抜く。


 後衛で最も火力を出していた魔法使いが攻撃を受けたことに、慌てて遠距離攻撃の出来る冒険者がゴブリンを討つが、手遅れだ。


 こちら側の火力が不足し、少しずつ押されていく。


 弓矢が尽き、増援を呼ぶと言って離れた冒険者は未だに戻らない。


 もう少しで終わるはず、と自分に言い聞かせていると本当にゴブリンが出てこなくなった。


 冒険者たちも戸惑いながら周囲を見渡すが、立っているのは人間だけだ。


 歓声が挙がろうとしていた。


 しかし、その声は喉元で悲鳴へと変わってしまった。


 家屋の合間からさっきまで戦っていた相手の倍以上の身長を持つ、大きなゴブリンが二体現れた。


 木の幹のような腕を藁を積んだ倉庫に突っ込み、中から金棒を引っこ抜く。


 もう一体は腰に吊るしている二刀の剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。


 一方で、こちらは一瞬とはいえ戦闘を終えて空気が緩んでしまっていた。


 とっさに動ける人間は少なかった。


 横薙ぎに振り回す金棒を剣を盾にして受けるが、勢いが強すぎて体が飛ばされる。


 掘っ建て小屋にぶつかって止まらなかったら、命が危なかったかもしれない。


「あれはただのゴブリンじゃねぇ……ホブゴブリンだ!」


 誰かがそう叫んだのが聞こえた。


 ホブゴブリン。ゴブリンの上位種として、より高い筋力と知能を持っているのが特徴。


 体格に見合った大物を武器に選ぶことが多く、特に二刀のホブゴブリンが持っている剣は出来の良さから察するに、冒険者向けの両手剣をどこからか奪ったのだろう。


 偶然もっとも前に立っていた俺を二体は睨み付ける。


 負けじと構えて威圧するが、元々一体すら目に余る相手。


 二体同時に襲いかかってこられては、恐らくなにも出来ない。


 どうしたものかと悩んでいると、一歩歩くたびに騒がしい金属音と共に聞きなれた声がやって来た。


「ユー! お前、とんでもないものに喧嘩売ったな!」


――シルバーたちのパーティーが応援に来てくれたのだ。



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