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第5話 露店を巡って

 結局ついてくる彼女に強く文句も言えず、とうとう鍛冶屋の前まで来てしまった。


「おっちゃん、新しい防具が欲しいんだ。見せてくれ」


「ユー……ウチに置いてあるものを言ってみろ」


「剣に、ナイフに……金属系の武器は大体置いてるよな」


「そうだな。で、お前が着ている防具は何で出来てる?」


「布と……革だな」


「ここまで聞いて、ウチに革防具の在庫があると思うか?」


「おっちゃんならやれば出来る」


「無茶言うな。金属ならともかく、革なんぞマトモに扱った事すらない」


 すげなく断られてしまった。


「そこをなんとか……」


「無理なものは無理だ」


「せめて店の紹介とか……」


「他の店の事なんぞ知らん」


「おっちゃんのボッチ」


「出禁にしてもいいんだぞ?」


「出直してきます」


 このままでは防具どころか、武器の購入先すら失いかねないので大人しく引き下がることとした。


「防具、手に入りませんでしたね」


「まあ、こうなるよな……」


 正直、店に入る前から何となく予感はあった。


 とはいえ、他に知っている店も無いので真っ直ぐ来てしまったが……どうしたものか。


「私の知っているお店、行きますか?」


「どこか行きつけがあるのか?」


「ええ。私が装備を整える時に行ったお店があって、防具は一通り扱っていたと思うの」


 彼女は上にローブを羽織っているが、隙間から映る金属は軽装ながらもしっかりとした装備が整っていた。


 今すぐにでも戦いに挑めそうな、臨戦態勢。


 違いは剣の有無程度だろう。


「というか、今日はクエストでもやるつもりなのか?」


「いえ、今日はお休みですけど……どうして?」


「なぜって……重いし、動きにくいだろう。なんでもない日に着るものじゃないし」


「そうなの!?」


「そうだよ……違和感無かった?」


「今まで冒険者をちゃんと見たことが無かったので……」


 装備は一流、されど経験はまるで無し。


 あまりにもちぐはぐな彼女の姿が、どうにも不安だ。


「とりあえず、あんたの装備を……あれ、名前聞いてなかったな。ユウトだ」


「そうでしたね、私は『アイ』です。ユー……、えっと?」


「……ユーでいい。後、敬語もいらない」


 またしても本名を伝えるのに失敗した。異世界人にとって、ユウトというのは発音しずらいのだろうか?


「ではユー、冒険者の休日らしい服装を教えて?」


 ……知らない。


 自分が着ているのは露店でまとめ売りされてた安物だし、シルバーとそんな話をしたことは無い。


 特に女性もののともなるとあまり適当に選ぶわけにも行かないような気がする……。


 改めてちゃんと正解が何かと聞かれると、どうにもよく分からない。


 とりあえず、露店に行けばいいか。


***


 露店に着くころには昼を僅かに過ぎた時間という事もあり、あっちこっちから食欲を誘う香りが漂ってきた。


 アイもきょろきょろとあちこちの店を見て、その度に足を止めるのでテンポが会わない。


 俺も服を売っている店を探しているはずが、香りに釣られてどうしても食べ物に視線が向いてしまう。


「……ホットドッグ食うか」


「え? あ、うん」


 独り言のつもりが、アイに聞こえていたらしい。


 ここで『自分の分だけ買うつもりで……』などと言いだすほど捨てた人間ではない。


 素直に二つ買ったホットドッグの片方を差し出す。


「ありがとう……なんだか、塩っ気が強いのね?」


「そうか? ここらの料理なんてみんなこんなもんだと思うけどな」


「まあ、たまには悪くないと思うわ」


 ぼちぼちの評価を得た。


 俺は好きなんだけどな、これ。


 食べ物に目を惑わされないようになると、服を扱う店はすぐに見つかった。


 女性向けの服も取り扱っているらしく、色とりどりの色合いが目を引く。


「そちらのお嬢さま、お洋服はいかがですか?」


 店員のお姉さんも人のよさそうな笑顔で手招きをする。


「ほら、好きなの選べよ」


「え、でもどれがいいか……」


「店員に聞いてみたらどうだ?」


 俺は良く分からんし。


「お兄さんもこちらへどうぞ。一緒に考えてあげてください」


「え、いやその……」


「もちろんアドバイスもいたしますので」


 笑顔からは謎の圧が放たれている。背を向けたら殺されるヤツだ。


 一瞬にして服の内側から冷や汗が流れる。この辺、涼しいなあ。


 動物的本能に従い、気が付くと首を縦に振って中に連れ込まれていった。


 冒険者より強いお姉さん、何者……?


***


「ではお嬢さまはこちらでお洋服を選んでください。試着はこちらで出来ますので」


 お姉さんに言われるがままついてくる。


 どうやら露天のすぐ裏が自分の店になっているらしく、展示されているよりも多くの服が置かれていた。


 男女を問わず様々な服が綺麗に置かれており、服に興味が無くとも自然とあちこちに視線が向いてしまう。


 どこかでお香を焚いているのか、さっぱりとして自然な香りに呼吸が整う。


 弛緩した空気はアイも心地よさを感じているらしく、店員との談笑を楽しんでいる。


 最初は装備と経験の差が気になったが、街を歩いている時に目線が落ち着かなかった様子から、露店すら見たことが無いのではないだろうか。


 表通りだけを見ても、王都の露店商売は異常と言ってもいいほど充実している。


 全く触れずにいられるとしたら、王都に最近来たばかりか、あるいは露店を必要としない生活を送るかだろうか……。


「お嬢さんのお着換えが終わりましたよ」


 ボーっとしていると、お姉さんの声で意識が戻ってくる。


 正面のカーテンが開き、シンプルな花柄のワンピースを着たアイがその場で一回転し、俺の顔を覗き込むように伺う。


「どうでしょうか……?」


 回った時にスカートが花が開くように膨らみ、より一層可愛らしい。


「おお…………」


「服はシンプルですが、この生地が良くて、触り心地が良いんです」


「……いいと思う。それにするか?」


 何とかそう絞り出し、余計な感想が出る前に帰ろうとするが――


「では、次のお洋服を準備しますね」


 そうはお姉さんが卸さなかった。


 アイも素直に頷いて、再度カーテンを閉める。


 これは、しばらくかかりそうだ。


 服の生地よりも、椅子の座り心地が何とかならないものだろうか……。


 結局、服を両手で数え切れなくなりそうなほどの試着をして店を出た。


「荷物は私が持つよ」


「でも、結構な量があるぞ」


「この後ユーの装備を買いに行くのに、たくさん買ったのは私だもの。持たせて」


 お互いに荷物を取り合っていたが、最終的にアイの勢いに押されて半分ほどを預けることに。


「それで、アイの行ったことのある店はここから遠いのか?」


「そこまで遠くは無いよ。ただ、坂を上った所だから行くのは大変だけど」


「坂?」


 もちろん王都を端から端まで歩いたわけでは無いので、知らない通りも多くあるが……坂の上に行ったことは無かった。


 あまり店があると聞いていなかったので、わざわざ坂を登って探すことも無いだろうと思っていたのだが……意外と知られていないだけなのかもしれない。


「こんなところ来たこと無かったよ。詳しいんだな」


「まあ、王都にはそれなりに長くいるからね」


「王都に住んでる人には有名な店なのか?」


「どうだろう……私も人から聞いただけで、そう何度も行ったわけじゃないから」


 俺が良く通っている鍛冶屋みたいに、隠れた名店みたいなタイプだろうか?


 そうして会話する間にも坂を登り切り、落ち着いた通りを抜ける。


 ごみや汚れ一つない石の敷かれた道路や荘厳な建築物の風格から、なんとなく近寄りがたいような気配すら感じる。


 元々王都は中世ヨーロッパをイメージさせる家々が建っていたが、坂を登ってからはギリシャ様式が混ざったような独特な印象を受ける。


「さ、着いたよ」


「着いたって……これは……」


 言われて指差す先を見る。


 教会のように巨大な訳では無いが、存在感のある建物。


 宝石店と言われた方が信じられそうだ。


 明らかに冒険者への装備を取り扱っているようには見えない。


「本当に防具が売ってるんだろうな……」


「まあまあ、入れば分かるよ」


 そう言って先行して扉を開き、奥へと入っていく。


「おい、待てって……!」


 遅れて間が空くのが不安で、後を追って扉の中へと入っていった。



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