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第13話 囚われの身

 …………。


 回らない頭を再起動するようにして、全身に意識を向ける。


 身体は痛むが、動かせないほどの激痛ではない。


 少なくとも生きているし、致命傷はなさそうだ。


 地面は少しざらついて埃っぽい。踏み固められた土の上に寝そべっている。


 瞳を開くが、真っ暗で何も見えない。少なくとも屋外ではないらしい。


 手探りで周囲を確かめると、三面を石に囲われている。


 残る一面は木製の柵のようだ。


 それなりに頑丈で、素手でどうにか出来そうな雰囲気ではない。


 ようやく、自分が牢屋に囚われていることに気付いた。


 看守はいるのか、それとも別の所にいるのかは分からない。


 柵を叩いて音を出してみるが、反応は無かった。


「くそっ、どういう目的だ……?」


 捕まえた以上、何かしらの目的があると思うのだが……、今の所俺を捕まえたであろう相手は姿もない。


 暗闇で出来ることがあるはずもなく、人を待つことしかできない。


 ――コツ、コツ……


 やがて、石段を下りるような音が聞こえてきた。


 地面に耳を当てて聞き耳をした感覚から察するに、人数は恐らく二名。


 途中で音が一つに減っているのは、誰かを待機させているのだろうか。


 やがて、照明が辺りを照らす。


 眩しさに目を閉じていると、片方の足音が目の前で止まった。


「おい、起きろ」


 柵を叩く騒音に体を起こすと、随分と太い男が立っていた。


「どちら様でしょう……?」


「それはこちらのセリフだ! 俺の執務室をあんなにメチャクチャにしやがって」


 地団駄を踏みながら怒鳴り散らす男は、この建物では相当に偉い人らしい。


「何が目的で倉庫のリストを探しに来た! 一緒に来た人間はどこにいる!」


「さて、何のことでしょう?」


 何故かは知らないが、目の前の男は随分と落ち着かない様子だ。


 見ていて逆に冷静になっている自分がいる。


「くそっ、生意気な野郎だ。ぶっ殺してやりたい」


 そして、これまた何故かすぐに命の危機は訪れないらしい。


 おしゃべりな奴だ。


「ここってどこなんですか?」


「あ? 言われて正直に答える馬鹿がどこにいると思ってるんだ?」


 流石にダメか。


「お腹空いたんで食べ物ください」


「なめてんのか!」


 柵を蹴り飛ばして檄を飛ばす男は、はち切れそうなほど血管を顔に浮かべて怒鳴っていた。


 正直柵があるから言えるだけで、面と向かっている時にここまで言う自信は無い。


 そういう意味では柵に助けられている。


「あー、食べないと餓死してしまいそうだー。死んじゃうよー」


「…………ッ!」


 男はもう一度柵に蹴りを加えて立ち去っていく。


 ……とりあえずこれですぐにどうこうなることはないだろう。


 わざわざ食料を出しておいて、すぐに殺す理由も無いしな。


 そう間が立たないうちに、今度は痩せた男が降りてきた。


 皿に薄いシチューとパンを載せ、柵の隙間から差し入れる。


「ありがとう」


 何となく礼を言ってみたが、男は一瞥するだけで去っていった。


 パンは武器かと見紛う程に固く、シチューに浸さなければとても食べる気がしなかった。


 シチューは完全に冷めており、口当たりは最悪だ。


 肝心の味も風味が飛んでしまい、何を飲んでいるのが良く分からなくなる。


 まあ、無いよりはマシだろうか。


 皿を外に放り出して、硬い床に横になる。


 流石に眠るには時間がかかった。


***


 ――翌日。……恐らくは、朝。


 流石に地下までは鐘の音も聞こえないのではっきりとはしないのだが、体感的にはいつもの朝とそう変わらない時間のような気がする。


 誰もいない無人の監獄は血の気の通わない冷たさを表すように寒く、ぞくぞくした寒気と共に目が開いた。


 昨日、太い男が言っていたことを反芻する。


 ――何が目的で倉庫のリストを探しに来た! 一緒に来た人間はどこにいる!


 侵入の目的と、ポプラの所在。


 質問していることは至って当然の内容なのだが、何か違和感がある……。


 そう考えていると、部屋に灯りが点いた。


 足音が反響して聞こえる。床に耳を当てないと人数までは分からなそうだ。


「おはよう、よく眠れたかな?」


 やってきたのは太い男だった。今回はそばに山刀を持った男を連れている。


「そろそろ出して欲しいんですが」


「そう焦らずとも今日は出られるさ……ここからは」


 山刀を持った男は懐から鍵を取り出し、閂を外す。


 そうして檻を出ると、太い男が道を先導する。


 奇妙な言い回しが脳に引っかかりながらも、山刀の男に促されてついて行く。


 檻は自分が入っていた他にもいくつかあるが、どれも空っぽで人はいない。


 時折奇妙なひっかき傷がある程度だ。


 階段を上がったところで、部屋に入る。


 中には古ぼけた武器がいくつか転がっていた。


 所々に錆びや欠けが見られる当たり、あまり丁寧に扱われてはいないようだ。


「好きなものを持っていけ」


「武器までくれるんですか?」


「別に無くても良いなら、それでも構わんがね」


 怪しい雰囲気に眉をひそめながら、武器を一通り確認する。


 どれも古いながらも簡単に折れない程度は期待出来そうなので、最も使い慣れた剣に近い形の一本を選ぶ。


「そういえば、俺が使っていたナイフは戻ってこないんですか?」


「……おい、返してやれ」


 山刀の男が別室に向かい、見慣れたナイフを持って帰ってくる。


 財布を失った今、一番高いのはこのナイフのような気がする。


 スられないように、今度は服の裏にでも隠しておくか……。


「で、これはどこに連れていかれてるんですか?」


「着けば分かる」


 そうして再度連れ出されると、見慣れた景色があった。


 忍び込もうとしていた倉庫の地下に、あんな牢屋があったとは。


 晴れ晴れとした空を感慨深げに眺めていると、肩を小突かれる。


「おい、とっとと来い」


「え、出入口ってあっちじゃ……」


「人んち勝手に入って無罪放免だと思ったか? それともここで首刎ねて、頭だけ外に放り出してやろうか」


 山刀の男が一歩前へ進み、武器をチラつかせる。


 ……大人しく従う他なさそうだ。


 建物の隙間を縫うようにすり抜け、方向感覚が分からなくなるほどに入り組んだ道を歩かされる。


 目隠しされていないのをこれ幸いと言わんばかりにどこを通ったか覚えようとしたものの……途中から完全に諦めてしまった。


 そうして連れてこられた先は、広間を円形に囲む人間の集団だった。


 人間は鉄柵に群がるように集まっており、俺の顔を見ると口々にはやし立てている。


「ここでお前にはある相手と戦ってもらう。相手を倒したら帰っても良いが、そうでない場合は死ぬまで戦ってもらう」


 相手の姿はここからではよく見えないが、拒否権が無いのは分かっていた。 


 観衆をかき分けるようにしてグラウンドへと降りる。


 グラウンドはバスケットコート二面程度の広さがあり、外側の鉄柵が場違いな高級感のある造りであったことから察するに、かつては誰かの庭であったのかもしれない。


 反対側には背の低い、凶悪な目つきをした背の低い男が立っていた。


 首には趣味の悪い首輪が着いている。


 牙を剥き、こちらを睨み付けるその姿は今にも襲いかかろうとする雰囲気であったが、俺と同時に入ってきた男の顔を見るばかりで動こうとはしない。


「さて、我が商会きっての傭兵『カラス』へ挑むはなんと銅級のこそ泥冒険者!どれほど持たせてくれるのか、見ものです!」


 どこからか歌い上げるように、実況の声が反響する。


 ……倒して帰れるものなら帰ってみろ、と言うことか。



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