屋敷での仕事
メイドの朝は早い。日が昇る少し前に起き、暖炉の火をつける為に外に薪を取りに行く。まだ日が出てない所為かエリザは身震いをした。昨日教えて貰った場所まで行き、薪を4、5本持った。ついでに顔を洗う為桶を汲みに井戸に立ち寄った。噂の井戸とは違いその後に掘られた新しい井戸らしい。薪を地面に置き、冷え込んだ体を無理矢理動かし、深い井戸から水を組む。井戸の底の水は冷たく一瞬顔を洗うのに躊躇する、しかしまだやることがあるのでこうしてはいられない、体が芯から冷えるのを感じながら顔を濯ぐ。タオルで顔を拭き終わると丁度朝日昇って来ている所だった。
部屋に戻り、服を着替える。新しく支給された服はまだ硬いしかし一切の汚れが見当たらない。昨日まで着ていた前の屋敷服は使い古され、ヨレヨレだった。
黒いワンピースに腕を通す、少し大きめの服にエリザは何処か高揚感を感じた。次はエプロンを付けるのだが、エリザはこれが大の苦手だった。何度つけても緩くなりずり落ちてきて、よく先輩に怒られていた。メイド長に見つかると厄介だった。それを理由に仕事を押し付けられたり、怒りの吐口にされていた散々だった。幸いエリザは前者の方が多かった。
紐を腰に巻きつき、エプロンを固定した。今回は新品だったこともあるかも知れないが上手く行った様な気がする。嬉しくなり、その場で一回転する。ワンピースがひらりと舞う。鏡に映る少女は何処か嬉しそうな顔をしていた。満足するまで続けると次は髪に取り掛かる。乱雑に切った髪を、櫛で一つにまとめる。適当に切った所為か髪が纏まりづらく、エプロンの次に苦手だ。やっとのことで髪整えキャップに仕まう。カーテンを開け、ベットを整えているとと鐘が鳴り響き、屋敷の至る所でドアが開く音が聞こえ始める。エリザはもう一度鏡で身だしなみを整えて部屋を出た。
食堂に着くとエリザは辺りを見渡し、セリアを探す。昨日とほぼ同じにセリアは座っており、もう既にご飯を食べ始めていた。
「セリアおはよう、早いね」
「朝早くに見回りがあったから、エリザも早く食べなよ」
セリアはそう言って、椅子をトントンと鳴らす、エリザはそれに答え椅子に座った。食事は昨日と同じは黒パン、ポタージュ、粥だ。
「今日の働きと、この一皿に感謝を。明日も無事に務めを果たせますように」
「わざわざやるなんて律儀だな」
「う〜ん、慣れかな?家族でいた時もやってたし…」
セリアは前の屋敷でいる時からこういう言葉を積極的には言っていなかった。育ってきた環境の違いというのだろうか。
「ぼんやりとしてないで早く食べな?もうすぐ鐘鳴るから」
エリザは急いでパンを口に入れ、粥で飲み干す。エリザが飲み干している間にもセリアは食べ終え片付けに行ってしまった。それを追いかける様にエリザも片付けに向かった。
* * *
「それじゃあ、晩御飯の時に」
セリアと少し話、昨日と同じ食糧庫に向かう。深呼吸を何度もし息を整える。暗い廊下が余計息を苦しなる様に感じる。(正直これからどうなるかわからない、でもジェイさんと真摯に向き合うしかない…)
「あれ、エリザお姉ちゃん?」
明るく幼い声が後ろから響く。振り返ると昨日と同じ様にアメリアが立っていた。
「アメリアちゃんおはよう、呼び方変えたの?」
「そう!エリザお姉ちゃんはあたしよりお姉ちゃんだからね」
そう言いながら、アメリアはドアを開き、中に入っていった。エリザもそれに続く様に中に入ろうとしたが、昨日より足取りが重く感じた。
「二人共遅かったね」
ジェイは昨日と変わらずの態度で、そこに待っていた
「すみません、食事に時間が掛かってしまって…」
「仕方ないよ、ほぼ初日だからね基本的にアメリアより早く来たら大丈夫だから。でも、身だしなみは整えないと」
ジェイはエリザを指差して小さく笑った。指を刺された場所を見ると、エプロンが半分ずり落ちていた。
「あ、え、すみません…こういうの苦手で」
「いいよ、いいよこっち来て結んであげるから」
ジェイの言葉にエリザは目を丸くした。
目の前の善意に戸惑う、がいつまでジェイを待たせる訳にはいかない。
「こういうの苦手なんだ」
「はい…」
「前の屋敷でもこうだったら大変だっただろう?」
自分の後ろにいるジェイの声が首に掛かる。エプロンを結ぶ為にしゃがんでいるのだろう。自分より高いはずのジェイの顔が首元にあるのならそれしかない。
「はい、よく怒られたりして大変でした」
(昨日のこと気にしてないのかな…?)
まるで昨日のことなど無かったように雑談をするジェイに不信感を抱く。
「ジェイさん」
「どうしたの?」
「あの、昨日の、いえ何でもないです」
この雰囲気を壊すのが怖く、言い出すのを口籠もる。
「まぁどうでもいいけど…はいできたよ」
背中を軽く押され、よろける。背中を触ると、綺麗に結ばれたエプロンがあった。
「さぁ食糧を運ぶよ、エリザは大変だと思うけど頑張れ」
そう言ってジェイは二つ程の木箱を持ち、食糧庫の奥へと進む。
床に置いてある二つ程の小さな木箱を持つが、重く膝がガクガクと震える。中に入っているのは、林檎だろうか木箱の隙間から真っ赤に熟した赤覗いている。これより大きな木箱を二つ軽々と持ち運ぶジェイに尊敬と恐怖を感じる。ジェイの持つ木箱からも真っ赤な果実が覗いている。
ジェイを見ていると、小さい木箱を持つアメリアが軽快な足取りで後ろからエリザを抜き出す。アメリアの木箱には、使用人が普段食べている黒いパンが隙間から見える。この屋敷で一番幼いアメリアには軽い物が渡されたらしい。周りをぐるりと見ながら重い木箱を震えながら運んだ。




