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失敗

ジェイの話が、言葉が途切れる。

どうして聞いて口に出てしまったのか、後悔しても遅い。言葉はもうジェイさんの耳に入ってしまっただろうか。

エリザはしばらく口をぱくぱくとさせ、言葉を取り消そうと必死にしたが諦めてエリザはジェイの返事を待つ


二人の間に先ほどより重く苦しい沈黙が落ちる。風が吹き抜け、思わずエリザは身震いした。春とはいえ、夕方の風はまだ肌寒い。寒さと沈黙が後悔を後押しする


しばらくして、ジェイが静かに口を開いた。

「……どうして、そう思ったの?」

その声は、今日聞いた中で一番低く、無機質で、身を切り離すようだった

淡い青色の瞳が、まっすぐエリザを見つめている。怒っているのか、悲しんでいるのか――判断がつかない。

でもその目の奥に、一瞬、光が揺らめいたように見えた

そして確かに、何かを訴えていた。


 * * *


失敗した――。

屋敷に戻り、セリアを待ちながら、エリザは何度もそう思っていた。


あのあと、返事に詰まったエリザを見てか、ジェイは「帰ろっか」とだけ言い、二人は無言のまま屋敷まで戻った。道中、どちらからも言葉はなかった。ただ沈黙だけが流れていた。二人の間にはやけに大きい靴の音だけが響いた。言葉を失ったままのエリザには、その音しか残されていなかった。

屋敷に戻った時アメリアが手を振ってくれたが、笑えなかった。

屋敷の中では、メイドや執事たちが慌ただしく働いている。その中で、柱の前にぽつんと立っている姿は、いやでも浮いて見えただろう。

(此処に私なんかの居場所なんて…)

嫌な想像が頭の中に駆け巡る。仕事ではジェイに無視され、アメリアにはその雰囲気に感化され次第に会話をしなくなる。なりたかった未来とは真逆の未来を想像し、胃がキリキリとする


「エリザー! 見つけた!」

セリアの元気な声が、廊下に響いた。一瞬だけ周囲の空気が止まった気がしたが、誰も気にしていないように、それぞれの仕事に戻っていった。遠くから、セリアとメイド長が歩いてくるのが見える。セリアは早足でエリザに駆け寄る、眉を下げて不満をこぼした。

「最悪だよぉ」

開口一番セリアの間抜けな声にエリザは驚きながらも平静を装い言った。

「どうしたの?」

その言葉にセリアは少し涙目になって言った。

「今日から、夜の見回りなんだって〜。それに、先輩たちに怪談話まで聞かされちゃって……」

少し心配していたことが当たりエリザは苦笑いをする

(セリアは夜の警備、耐えられるだろうか)

なんて考えているとセリアがそっと耳打ちしてきた。

「しかも、メイド長と警備ペアだって……」

セリアは笑顔は少し引きずり、声は震えていた。どう返そうか迷っていると、ちょうどマルグレット追いついてきた。穏やかな笑みを浮かべながら、声をかけてくる。

「仕事内容、ちゃんとわかったかしら?」

セリアは、さっきの話が聞かれていないかと少し焦った様子で立ち直り、エリザの背中に隠れるように立った。

「はい、大丈夫です。先輩方も優しくて……」

エリザはそう答えながらも、頭の中にはあのときの表情が浮かぶ。

胸が、ぎゅっと締め付けられる

「そう、よかったわ」

マルグレットはそう頷いた。

「この後夕ご飯の時間ですから、食堂にいらして下さい。案内はセリアさん任せましたよ」

「わ、分かりました!」

マルグレットが去った後、セリアはフゥと胸を撫で下ろした。

「怖かったー、メイド長アタシがメモ取んなかったら怖い顔するし、この口調も直すように注意されて…」

愚痴が次から次へ出るセリアにエリザは驚いていた。

セリアとは前野屋敷で仲良くなり、今に至る。セリアとは十分仲良くなった様に感じていたがこんな感情的にいるセリアを見るのは初めてだ。エリザはセリアをまるで幼い子どもの様に感じていた。

ゴォーンゴォーン、大きな鐘の音が屋敷内に響き渡る。その音と同時に先程まで慌ただしく働いていた使用人達が一斉に作業を止め、屋敷の奥へと向かって行く。その光景にエリザはあぜとする。

(どうして、みんな一斉に?)

中にはそのまま作業を続ける者もいたがそれはごく少数であったその疑問の答えはすぐにセリアの口から飛び出した。

「あ、夕飯の鐘が鳴っちゃった。エリザ駆け足で行くよ」

そう言うとセリアは他の使用人達と同じように屋敷の奥へと走って行く。エリザは疑問が残りながらも置いてかれぬようにセリアの後を追った。


 * * *

セリアの後に続いて行ったその場所は、大きなキッチンホールだった。廊下に比べ明るく、大きな窓が一つと長い机が10個ほど並べられその上に蝋燭が点々と乗っていた。そして、沢山の使用人達が椅子に座っている。テーブルには黒パン、ポタージュ、そして粥が一人一つ用意されていた。

「セリアこれは…?」

エリザにはこの光景が理解出来なかった。使用人全員での食事、一人一つの栄養がある食べ物。周りがそれを当たり前に受け入れていることに酷く驚いていた。

「何って食事、此処は美味しい食事をくれるんだって」

「え…でも、そんなの、私達使用人だよ?おかしいよ…」

目の前の光景を受け入れようとしても頭がそれを防ぐように頭痛が襲う。それでもセリアについて行き席に座る。みんなその食事を待てないという様なソワソワとした空気が部屋全体にある。その空気を凛とした空気が切り裂く。マルグレットだ。マルグレットが全員の前に立ち、お祈りの言葉を唱え始める。それに続く様に使用人も唱える。エリザも慌てながらもその言葉を唱えた。

『今日の働きと、この一皿に感謝を。明日も無事に務めを果たせますように』

そのお祈りの言葉はこの国全体で主に信仰されているのでエリザもすぐに言えた。それが終わると一斉に食べ始める。エリザも周りに合わせ食べる。

(美味しい…)

久しぶりの美味しい食事だった。隣を見るとセリアも美味しそうに頬張っていた。貴族ほどの食事ではないがエリザとセリアにとってはこの上ない幸せだった。食器が当たる音、椅子を引く音、話し声、そんな中での食事が愛おしい程に美味しい。でも、途中ジェイの姿を見かけエリザの胸がざわめく。食事の美味しさで誤魔化そうとしても、あの無機質な声はエリザの耳の奥から消えてくれなかった。

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