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二人の距離感

「その昔、アルバランダ王国のエルダーストーン家に親に売られた娘がやって来ました。

可哀想な娘はとても真面目で周りの先輩や屋敷の主人にも、気にいられメキメキと成長していった。そうして他のメイドとも仲が良く自分のお金で欲しい物も買え、結婚の申し出も受けているそんな“普通”の幸せを手に入れていたのですかが、結婚を申し出てくれた相手が事故に遭い亡くなってしまう。未亡人となった彼女は今まで仲良くしていた人達とは距離を取られ、近づいてきた人達は彼女を嘲り合いお金を巻き上げ、暴力までも浴びた。

絶えきれなくなった彼女は遂に井戸に身を投げてしまった…


その噂の井戸が今から行く納屋の近くにあるんだ」

井戸に身を投げた少女の一生を話す、ジェイにエリザは寒気を感じていた。

それがジェイの話の上手さなのか、風の寒さなのかはわからないがエリザは身震いをした。

「あの…どうして、井戸は今でもあるんですか?」

そんな噂が広まっている井戸は屋敷としてもよくはないだろう、そんな疑問を浮かぶエリザにジェイは言った。

「井戸が思ったより深いんだ、それに井戸の底には沢山の遺体が残っているって言う噂もあるんだ」

そう話すジェイの後ろ姿は何処か変なような気がした


 * * *

話すことがなくなってしまったエリザとは下を向いて歩いていた

(人が沢山歩いているからか、地面にあまり草が生えてないな…)

気まずさを紛らわす為エリザは地面を観察していた。

ジェイが当然立ち止まった、慌ててエリザが顔を上げると先には苔むした古い井戸と、石造りの納屋があった。井戸ほどではないが、納屋の壁にも苔が薄く広がっている。

井戸からは冷たい風が吹き上げていて禍々しく感じるその風は誰かの指先のように少し生温かかった

「あの納屋に、箒とかバケツが入ってるから」

確認して来いということだと理解し、納屋に近づく。木製の引き戸を引こうとするが、建て付けが悪い所為か開かなく、今度は力を込めて引く扉はギギ…と重々しい音を立てながら、ようやく開いた

納屋の中はたくさんの掃除道具が雑然と並んでいた。中は古びた匂いと、湿った木の匂いが混じっていて、鼻の奥に重く残る。

箒とバケツがあることを確認し、また力を込めてドアを閉める

「ちゃんとあった?たまに戻さないで放置する子がいるから定期的に確認しないといけないんだ…」

ジェイは困ったという表情を浮かべ、木に寄りかかっている

「ちゃんとありましたよ、綺麗に並べられててすぐに見つけられました」

「あーそいつはメイド長のお陰だと思う、いつもはごちゃごちゃだから」

メイド長の几帳面さはこの屋敷の誰よりもあり、たまにこうして色んな所を整理して周っているらしい

「ほんとすごいよな…目が見えなくても仕事完璧にするんだから」

メイド長はこの屋敷の誰からも尊敬されているのを感じる。

ジェイの話を聞きながら、今度は前を向いて来た道を戻る。さっきは気づかなかったがこの屋敷の裏は花は植えられておらず木も疎、中には切られ切り株になっている木もある

(寂しいな…)

「この辺は大昔一回焼けちゃったらしくて、あまり植物を育てるのに向かなくなったんだって。他にも気になりことがあったら聞いてもいいよ?答えられる範囲だけど」

先ほどのような空気で帰りたくなく、エリザは頭をフル回転させた。

「ありがとうございます、ジェイさんはどうして此処に来たんですか?」

ジェイはエリザの質問に少し驚いたような顔をした。

失敗だったか、この手の話題は定番だとエリザは勝手に感じていた。

「僕のこと知りたいんだ、あんまり面白い話じゃないよ」

「お母さんが働けなくなっちゃって…僕が代わりに仕事ををしなきゃ生活できなくなるからさ。他に稼げる人はいなかったから…」

ジェイは少し口ごもりながらも淡々と話していく

「最初は近所の仕事、僕の家族を心配してくれた近所の人が家の手伝いをして欲しいって言ってくれたんだ。すぐできなくなったけど…その後家の建て直しの手伝いとか、食堂での荷物運びとか力仕事を転々とやったね」

「そのせいで筋肉がついちゃってまるで男みたいになっちゃてさ…」

ジェイはそう言って自分の二の腕のバシバシと叩いた

「確かに、ハグした時筋肉を感じました」

「気にしてるんだからね」

そう言ってジェイはゲラゲラと笑った

(ジェイさんは、他の人より筋肉が付きやすい体質なんだろうな…私も一時期力仕事してたけど筋肉はつかなかった)

「まーそうして働いていたら、屋敷での募集を見つけて来たんだ」

「そんな感じに来たんですか、私とは大違いですね」

エリザの住んでいた町は田舎で、働くには遠くに行かないといけなかった

「此処はいい所だよ。みんな優しいし、食事もある、休日に大きな街にだって行ける。他じゃきっとこうじゃないんだろ?」

ジェイの言葉に、前の屋敷を思い出す。此処とは比べられないくらい、酷かった。人間であることを忘れる程

「此処のみんなは優しいんだ。アメリアも可愛いし、メイド長にはよくして貰っているし、エリザはまだ会ったことないだろうけどイザベルっていう子は噂をなんでも知っていてあの井戸のこともそいつに教えて貰った。イザベルと僕は同時期に入って、二人してよくメイド長に世話になってた」

楽しそうに他のメイドの話をしているジェイは夕陽に照らされた黒髪が、濡れたように輝いていた

なんだか楽しくなってしまい、気になっていたことをポロッと言ってしまった



「――ジェイさんは、男ですか?」


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