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短編集

先に嫌われとけば傷が浅いと思ってた

作者:

「どうして、こんなにすれ違ってるの?」


 美咲の声は震えていた。

私たち、最近は喧嘩すらまともにできない。

ただ、冷たく突き放すだけ。言いたいことがあっても、すぐに言い合うことができない。


「だって、あなたが……」


 言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。

今さら言ったって、また同じことの繰り返しだ。私の心が、言葉を止めている。

美咲は小さく笑った。その笑顔が、昔は可愛かった。

でも、今はただ胸が痛いだけ。


「私が悪いんでしょ。いつも通り」


 その一言で、私の中で何かが切れた。どうして、こんなことを言わせるんだろう。

私は立ち上がり、玄関に向かって歩き出した。もう顔を見たくない。見たら、きっと泣いてしまうから。


「……綾?」


 背中で美咲が呼ぶ。私は振り返らずに、ドアに手をかけた。


「別れよう」


 靴を履く手が震える。ドアノブに手をかけた瞬間、後ろから腕を掴まれた。


「待って……冗談だよね?」


 私は首を振った。美咲の指が、痛いくらい強く私の腕を締めつける。

その強さが、私の心をさらに突き刺す。


「どうして?急に……」


 振り向くと、美咲の瞳が揺れていた。

その目を見つめて、私は言葉を絞り出す。


「だって……このままじゃ、いつかあなたに本気で嫌われて、捨てられると思ったから」


 息が詰まった。どうしてこんな風になったんだろう。

私はずっと同じ不安を抱えていた。

でも、どうしてもそれを口に出せなかった。


「それが怖すぎて……先に、私が言わなきゃって思ったの」


 美咲の目から、涙がこぼれた。その涙が、私の心をさらに痛くさせる。


「……バカ」


 私はその涙を見て歩み寄り、彼女の頭を撫でた。

胸が締め付けられるような気持ちが込み上げてくた。

別れようって言って、涙見て戻ってこんなことしてたら未練ありありじゃん。


「私だって同じ事考えてた」


美咲が震える声で続けた。どういうこと?


「綾に嫌われるのが怖くて、わざと冷たくしてた。先に嫌われたら、傷が浅いかなって思ってたの」


 その言葉を聞いて、私は愕然とした。

何を言っているの?私の頭の中は急に?でいっぱいになってしまった。


「でも今日、綾が本当に『別れよう』って言われて……本当にいなくなっちゃうって思ったら、怖くて、怖くて……」


 美咲が私のシャツをぎゅっと掴んだ。

私はその手を感じながら、どうしてこんなにも痛いのかと胸が締めつけられる思いを抱えた。


「綾ごめん。私、全部逃げてた。もうやめる。逃げるのも、冷たくするのも」


 ため息をついて、私は美咲を抱き寄せた。

彼女の顔が私の胸に寄り添う感触を感じながら、私は静かに言った。


「……私もバカだった。」


 美咲が顔を上げて、涙でぐしゃぐしゃの笑顔を見せてきた。

その笑顔が、今の私にはとても愛おしく感じられた。


「バカ同士じゃん、まったく」


 私は美咲の頬を両手で包み、そっとキスをした。

その唇は冷たくなく、ちゃんと温かかった。

もう冷たくなんて、させない。

きちんと話し合おうね。

バカ二人だよね。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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