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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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9/17

噂の行方 ―彼女って誰?

社員旅行を終えて日常に戻った葵と優。


しかし、平穏な朝は一瞬で壊れた。


“噂”という名の影が、静かに二人の距離を試し始める――。


社員旅行から戻った翌週の朝。

いつものオフィス――のはずだった。


「あっ!!噂の二人……来た!」


ざわつくオフィス。

その一言で、空気が一瞬で変わった。


優の足が止まり、手がかすかに震える。

葵はすぐに気づいた。


(……まただ。あの震え。小嶋の顔を見て――)


小嶋の席の方へ視線を向けると、彼は冷ややかに笑っていた。


(……あいつ、気づいたのか?)


葵の脳裏に、あの朝食会場での光景がよぎる。

小嶋が優の左手に触れた瞬間の――あの違和感。


(まさか……触った時に、優の手が“女性の手”だと感じたのか?)


嫌な確信が、胸を鋭く貫いた。

優は小嶋の姿を見て怯え、呼吸を浅くしている。


(……フラッシュバックしてる)



葵はすぐに優の肩に手を置き、小さく囁いた。


「大丈夫だ。……俺がそばにいる」


その一言で、優の震えが少しだけ和らぐ。

周囲の視線が気になる中、場の空気を変えるように――


「きゃー!やっぱり来たぁ!尊い!」


「朝から並んで登場とか、ドラマですか!?」


みゆ&もえがテンション高く声を上げた。

その場の空気が一気に柔らぎ、笑いが起きる。


(……助かった。あの二人、こういう時だけは頼りになる)


葵は小さく息を吐き、優の震えた手をそっと隠すように握った。



昼休みのオフィス。

ざわめく声の中、みゆ&もえが息を切らして葵のもとへ駆け寄ってきた。


「ねぇ、葵さん! 聞きました!?

 “お二人が本当に付き合ってる”って、社内で噂になってるんですよ!」


「え?」


思わず箸を止める葵。

しかし、周囲の視線を感じてすぐに冷静を装う。


「くだらない噂だろ。放っとけ」


そう言いながらも、心の中では嫌な予感が広がっていた。


(……この空気、昨日から妙に重い。誰かが、意図的に流してるな)



午後になると、その噂はさらに形を変えていった。


「葵って、優が好きなんじゃ……?」


「いや、あの営業の小嶋が言ってたらしいよ」


“誰が言い出したのか”が明確に口にされるたび、

葵の中で小嶋への疑念が確信へと変わっていく。


(……やっぱり、あいつか)


プリントを取りに行くふりをして、葵は小嶋の席のほうをちらりと見た。


彼は同僚と笑いながら、まるで無関係を装っている。


だが――その笑顔はどこか冷たかった。


(優のことを利用してる……。俺を潰すために)


ちょうどその瞬間、小嶋が誰かに囁く声が聞こえた。


「葵ってさ、イケメンばっか狙ってるんだよ。

飽きたらすぐ捨てるタイプだぜ」


その言葉に、葵の拳が机の下でゆっくり握られた。


(……ふざけんな。優を巻き込むな)


小嶋の笑い声が、やけに遠く響いて聞こえた。




昼休み。


人のいない会議室。

カーテン越しの光の中で、優が一人、ぼんやりと座っていた。


「……ここにいたのか」


ドアを開けた葵が、少し安堵したように声をかける。

優は顔を上げ、いつもの穏やかな笑みを見せた。


「大丈夫。もう、平気だから」


そう言う声は静かで落ち着いていたが、どこか無理をしているようにも見えた。


葵は壁にもたれながら、軽く息をつく。


「……あっ、そうだ。なんか俺と優が付き合ってるって噂になってるみたいだぞ」



一瞬の沈黙のあと――

優が、ふっと笑った。


「まじか……それ、ちょっと面白いな」


その笑顔があまりに自然で、葵は思わず可愛いと感じた。


(……なんだよ、その顔。少し嬉しそうじゃねぇか)



「……俺、小嶋に何かしたのかな」


「小嶋?」


「この噂を流してるの、多分あいつだ。

 俺のこと、“イケメンばかり狙っては捨てる最低男”って言いふらしてるらしい」


優は目を丸くしたあと、堪えきれず吹き出した。


「ぷっ……なにそれ!そんな設定ある?」


「いやいや、笑いすぎだろ」


葵が呆れ顔で言うと、優は涙を拭きながら笑い続けた。


(……笑ってくれてよかった。

 けど、あいつに触れられた“あの手”の震えに隠された何かを…俺は知りたいんだ)


葵は優を見つめながら、胸の奥で強く思った。



「……大丈夫だ。今度は俺が守る」


その言葉に、葵の笑顔が一瞬止まった。


優はすごく楽しそうに、

そして、何かを閃いたように、ふっと目を細める。


「……じゃあ、ちょっと“守られる準備”しとくかな」

軽く言ったその一言に、

優の心臓が、静かに跳ねた。




翌朝。


オフィスの空気はいつもよりざわついていた。


「あの二人、できてるらしいよ」


「マジ?やっぱりあの旅行のときから怪しかったんだって」


噂はさらに形を変え、勢いを増して広がっていた。


その中心にいたのは――小嶋。

デスクでスマホを眺めながら、冷ややかに笑う。


「……証拠があるんだよな。ほら、写真」


画面には、社員旅行の朝食会場で並ぶ葵と優の姿。


あの日、小嶋がこっそり撮ったものだった。


(ふん、これで俺のほうが“上”だってわかるだろ)


嫉妬と支配欲。その境界を、彼は静かに踏み越えていた。


周囲の社員がざわつく中――

「その写真より、私たちの撮ったやつの方がいいですよー!」

明るい声が響いた。


みゆ&もえが勢いよく登場し、スマホを掲げてニコニコ笑う。


「見てください、この角度! 光の入り方も完璧!」


「こっちは“尊い”の臨界点超えてます!」


社員たちがどっと笑い出した。


「小嶋情報って……結局テキトーじゃん」


「マジかよ、かわいそうに……」


場の空気が一気にひっくり返る。

悔しそうにスマホを握りしめる小嶋。


(チッ……邪魔しやがって)


そこへ――エレベーターのドアが開く。

出社してきた葵と優。


「おっ、噂の二人、来た!」と誰かが囁く。


葵は苦笑し、優はあえて堂々とした笑みで言った。

「……あの話、嘘ですからね」


すると、一人の社員が尋ねた。


「え、じゃあ本当に付き合ってないの?」



優はにやりと笑って――

「そんなわけねぇよ。だってこいつ、彼女いるぜ?」


「……は?」


驚いた葵の顔に、オフィスが一瞬静まり返る。


「今度の休みにデートするって言ってたしな!」


優がそう言って肩を叩くと、

社員たちは「マジか!?」とどよめき、空気が一気に明るくなった。


みゆ&もえは小さく肩を落とし、

「……でも、推し活は会社でもできるもんね」

「うん。推しは推しだし!」

と励まし合っていた。


小嶋は、笑う二人と騒ぐ周囲を睨みつけ、

唇をかすかに噛んだ。


(……まだ終わりじゃない)



その瞬間、ポケットのスマホが震える。

画面には、見慣れた名前が浮かんだ。

須藤“デートの場所、聞いておきます“


小嶋の口元が、ゆっくりと歪む。

「……へぇ。彼女ね。――じゃあ、そっちから壊すか」



その目に宿るのは、嫉妬とも執着とも言えない――

暗い炎だった。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。


9話では、優と葵の関係に“噂”という名の影が落ち始めました。

そして――その影は、誰かの悪意によって、静かに動き出します。


笑い合う日常の裏で、少しずつ歯車が狂い始めていた。

気づかないうちに、守りたかった“平穏”が壊れていく――。


次に訪れるのは、予想もしない波紋かもしれません。

それでも、葵はきっと優を手放さない。


そう信じたくなるような物語が、まだ続きます。



「続きが気になる」と思っていただけたら、

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