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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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8/17

触れてはいけない手

朝の光の中で、優はいつも通りの笑顔を見せていた。

けれど――葵は気づいていた。


その笑顔の奥に、何かを隠していることを。


この朝、2人を待つ“新しい影”が現れる。

「あー、眠い」


「寝不足か?」


優が、いつもの柔らかい笑みを浮かべる。

その横顔に、葵の視線が自然と吸い寄せられた。


「優、お前昨日のこと……わざとだろ」


「どうかなー」


ふわっと笑う優。


その仕草に、また心臓が跳ねる。

――まったく。


どうしてこいつは、無意識に人を振り回すんだ。


「ほら、行くぞ。朝飯の時間、遅れる」


「うん」


2人は並んで朝食会場へ向かう。

廊下を歩く足音と、差し込む光。

穏やかで――どこか、幸せな時間。




会場の前には、みゆ&もえの姿。

2人は待っていたように駆け寄ってくる。


「おはようございます! 写真撮ってもいいですか!?」


「いいよー。今日も2人とも可愛いな」


優が笑顔で応じると、2人の顔が一気に赤くなった。


「ひゃーっ♡ 優くん、朝から天使すぎます!」

「葵さんも隣にいると絵になるんですよね!」


(……BL好きの2人、朝からテンション高ぇな)



そんな中、もえが首をかしげた。


「あっ、そういえば昨日の夜、どこか行ってたんですか?」


「え?」


「写真撮りたくて、部屋の前まで行ったんですけど、いなくて!」


葵は少し間をおいて、苦笑した。


「そっか。来るって言ってくれたら、部屋にいたんだけどな」


クスッと笑う優。

その表情が、昨日の夜を思い出させる。


(お前な……その顔、完全に小悪魔モードだぞ)



葵は思わず目を逸らした。

昨夜の温もりと、素顔の優。



そして胸の奥で確かに芽生えた感情――


“守りたい”と思った。


女が苦手なこの俺が、

初めてそう思った相手が――優だった。




朝食会場。


ざわめく声と食器の音が混ざり合う。

優と葵は並んで座っていた。


「ここ、いい?」


営業部の小嶋が、にこやかに声をかけてくる。

その笑顔がどこか作り物めいていて、葵は苦手だった。


優は一瞬、ピタリと動きを止めた。

フォークが小さく震え、皿の上で“カラン”と音を立てる。


(……あれ?)


葵の胸に、微かな違和感が走る。


小嶋は気さくな声で、優の左側に腰を下ろした。


「昨日はよく眠れた?」


その瞬間、小嶋の手が、

テーブルの上にあった優の左手に触れた。


優の表情が一瞬で凍りついた。


「う、うん……まぁ……」


途切れ途切れの声。

左手が小さく震え、パンを落とした。


目を伏せ、スープの表面を見つめたまま動かない。


(……優? どうした……)


葵の胸の奥で、強い不安が静かに広がっていった。




葵は空気を変えるように、優の肩を軽く叩いた。


「昨日、飲みすぎたから食欲ないよな」


「部屋でゆっくりしよう。……ほら、これ食べていいぞ」


その一言に、すかさずみゆ&もえが反応する。


「えっ、“これ食べていいぞ”!? 朝から破壊力やば!」


「いやぁ〜尊い! 社員旅行でそれは事件ですっ!」


テーブルが一気に笑いに包まれる。


優も少しだけ口元を緩めた。


(……よかった。少しは落ち着いたか)


だが葵の心の奥には、

さっき見た“震える手”の映像が焼きついたままだった。






部屋に戻ると、優はベッドの端に座り、

膝を抱えたまま小さく震えていた。


葵はしばらく迷ってから、静かに口を開いた。


「……ゆう、触っても大丈夫か?」


少しの沈黙。

優は、小さく頷いた。


葵はゆっくりと近づき、優をそっと抱きしめる。


「今は、何も話さなくていいから……」


「……葵くん。なんで……そんなに優しいの……」


葵は優の左手を取って、そっと口づけた。


「辛い時は、泣いていいぞ。我慢するな」


その言葉に、優の肩が小さく震えた。


頬を伝う涙が、一筋だけ落ちた。




同じ頃――廊下の角。

小嶋がスマホを手に、冷ややかに笑っていた。


「……なるほどね。仲良し、か」


画面には、朝食会場で並ぶ葵と優の写真。

笑顔の奥に、静かな独占欲のようなものが滲んでいた。


小嶋はスマホをポケットにしまい、

自分の右手をじっと見つめる。


「……柔らかい手だったな、あいつ」


低く呟いた声に、微かな嫉妬と歪んだ興味が混じる。

その目の奥で、何かが確かに“生まれた”。



――そして、この社員旅行をきっかけに、

社内で“ある噂”が静かに広がっていく。



誰も知らない。

その噂が、彼らの関係を大きく狂わせていくことを。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


8話では、小悪魔な優の“隠された痛み”に、

葵がほんの少しだけ触れることになりました。


そして――

その優しさを見ていた“誰か”の心に、歪んだ感情が芽生え始めます。



次回、

その“悪意”が社内を揺るがす噂となり、

優の心に再び影を落とすことに――。

そのとき、葵はどう動くのか。


「続きが気になる」と思っていただけたら、

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