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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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7/17

夜の事件、理性の臨界点

社員旅行の夜。


酔いと秘密が交差するその瞬間、

優の“小悪魔スイッチ”が――入った。


宴会のあと、優を部屋へ連れてきた俺。


ベッドに座った優は、顔を赤くして――。


「ねっ♡ 寝よっか、葵くん」


「……は?」


目の前、距離ゼロ。

濡れた睫毛、火照った頬、甘い息。


「お前、冗談だよな」


「冗談じゃないけど?」


布団の端から覗く、完全小悪魔“ゆう”モードの笑顔。


(やめろ、その顔は反則だろ)



「ほら」


優が、俺の手首をそっと引いた。


その指先は熱を帯びていて、

まるで触れた瞬間に体温が流れ込んでくるみたいだった。


アルコールのせいか、優の瞳は少し潤んで揺れている。

その表情に、一瞬で呼吸が止まった。


「……葵くん、あったかいね」


掠れた声。


吐息が触れる距離。


体の奥が静かに反応する。


(やばい……これは、いつもの優じゃない)


熱を帯びた指が離れない。

それだけで、心臓の鼓動が早くなっていく。


酔っているはずなのに、どこか理性的で、でも無防備。

優の体から伝わる火照りに、感情が滲んでいる気がした。


寂しさなのか、甘えなのか――それがわからないまま、

俺はその温もりを拒めなかった。


(……やめろ。そんな顔、見せるな)


心の中でそう叫びながら、どこか嬉しく感じる俺がいた。


自分にだけ見せてくれる優の表情。

それがたまらなく、男として――嬉しかった。



「……離せ。冷やして寝ろ」



そう言って濡れタオルを取りに立ち上がろうとしたとき、

背中にふわりと軽い重みを感じた。


振り向けば、優が俺の背中にそっと顔を埋めていた。


その仕草が、まるで――心の鍵が外れたみたいで。



「背中に……葵の声が響いて、なんか……落ち着く」


その声は、酔っているせいだけじゃない。


いつもの強がりも、男装の仮面も、全部どこかへ消えていた。


安心しきったような息遣いが、背中越しに伝わってくる。


俺の中の理性が、静かに崩れていく音がした。


「抱き枕、いいでしょ?」


小悪魔みたいな声が、耳元で囁く。



「よくねぇ!」

即座に言い返したものの――


(よくねぇけど……振りほどけないのが問題だ)


心臓の鼓動が、優の呼吸と重なっていく。


その距離、ゼロ。空気が熱い。




――そのとき。


「優くんの部屋、こっちって聞いた!」


「写真はダメでも、挨拶だけ……!」


廊下の向こうから、みゆ&もえの声が響く。

近い。……まずい。



「電気、消すぞ。静かにしてろ」


部屋の灯りを落とす。


真っ暗。息遣いだけがやけに大きい。


ドアの前で足音が止まる。

小さなノック。


数秒の沈黙のあと、

「……あれ? いないみたいだね。残念」


「また明日、朝ごはんの時に話しかけよっか」


「うん、明日の朝が楽しみー」


そして、足音が遠ざかっていった。


(……助かった)


安堵した瞬間、優がふにゃっと俺の肩に頭を落とした。

髪が頬に触れ、甘い香りが鼻をくすぐる。


「……おい。寝るなら、向こう側で寝ろ」


返事はない。代わりに、規則正しい寝息。

腕に乗った体温が、じんわり重い。


(完全に俺の腕、枕じゃねぇか)


動かせない。動かしたくもない。

情けないほど、胸が鳴る。


(……寝れるかよ、こんなん)


天井の見えない暗闇で、時間だけが長く伸びていく。


まぶたを閉じても、優の横顔が焼き付いて消えない。


(理性、もたせろ。頼むから――)





朝。

カーテンの隙間から、薄い光。

俺の腕に顔を埋めたまま、優がぼそっと呟く。


「……おはよ、葵くん♡」


「……おはよ」


「昨日の夜、ちゃんと寝れた?」


「寝れるかよ、あんな状態で!」


優はクスッと笑いながら、長い髪を指でまとめた。



「ふふ、顔真っ赤〜」


「お前……絶対、わざとだろ」


「さあ、どうだろ?」


朝の支度をしながら、心臓はまだ落ち着かない。


このまま朝食会へ――そう考えるだけで、胃がキュッとした。


(……頼むから、今日は何も起きるな)


だがこのあと、俺は知ることになる。



“何も起きない朝”なんて、存在しないってことを。


お読みいただき、ありがとうございます。


6話ラスト直後の“部屋シーン”から、

理性ギリギリの夜→寝不足の朝までを描きました。


次回は朝食会。

みゆ&もえの暴走に加え、小嶋くんが初登場。


そして――“触れてはいけない手”が、優の心を震わせます。


「続きが気になる」と思っていただけたら、

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