夜の廊下で見たものは――
同居生活、初日の夜。
喉が渇いて廊下に出た俺は、
隣の部屋で“ありえない光景”を目撃してしまう。
イケメン同僚の相馬優。
その正体を知るきっかけになったのは――
ほんのわずかな扉の隙間だった。
引っ越し作業もようやく終わった。
ダンボールの山を前にして、俺は思わず息をつく。
「……ふぅ。やっぱり男同士だと気楽だな」
そう口にした途端、すぐ横からクールな声。
「勝手に部屋に入るなよ」
相馬 優はいつも通りの無表情。
けど――その心の中では。
(これで冷蔵庫にケーキ入れられる♡)
(アクセサリーも置き場確保♡)
……なんて考えているとは、このときの俺は知る由もなかった。
「なあ、洗濯機は交代で使おうな」
「……俺の洗濯物には絶対触るなよ」
「潔癖症かよ、お前」
「葵、俺のシャツにアイロンまでかけろ」
「はあ!? なんでだよ!」
気づけば、漫才みたいな掛け合いになっていた。
これ、本当に共同生活になるのか……?
ひとまず部屋の片づけを終え、俺はベッドに倒れ込んだ。
「……やっぱり男同士だと気楽だな」
天井を見上げながらつぶやく。
女の子相手なら気を遣うこともあるだろうけど、優は“男”だ。
無駄に気を回す必要はない。
(飯は適当でいいし、風呂も気にせず使えるし……)
(よし、これで今月はギリギリ生き延びられる……)
財布事情が改善することに、ちょっとだけ安心した。
……その頃、優の部屋では。
(明日の仕事帰りに、新作のチョコケーキ買おう♡)
(あとは、この前のピアス……給料日待たずに買えるじゃん♡)
鏡の前でクールな顔を崩さないまま、頭の中はスイーツとアクセでいっぱいだった。
――そんなこと、俺が知るはずもなく。
「よし……寝るか」
軽い気持ちで布団をかぶる。
明日からの同居生活がどんなものになるのか、
まだ全然想像もしていなかった。
その夜。
喉が渇いて目を覚ました俺は、コップを持って廊下に出た。
暗い廊下にポツンと灯る明かり。
優の部屋の扉が――わずかに開いていた。
(……ん?)
そこから、かすかな鼻歌が漏れてくる。
……女みたいに柔らかい声で。
(……ん?……女の声?)
気になって、そっと扉の隙間を覗いた。
そこにいたのは――俺の知っている“イケメン同僚”じゃなかった。
長い髪をほどき、鏡の前でスキンケアをしている女。
夜の灯りに照らされて、白い肌がまぶしく光っていた。
指先はしなやかで、キャミソールの肩紐からのぞく鎖骨があまりにも色っぽい。
(……え? 誰だ、この女……)
思わず目を疑った。
だけど――鏡越しに見えた顔は。
間違いなく、相馬優だった。
(……まじ、か……!?)
俺の心臓は暴れるみたいに跳ねた。
呼吸が荒くなり、コップを落としそうになる。
慌てて自分の部屋に飛び込み、背中を壁に預ける。
全身が熱い。頭が混乱する。
「……嘘だろ。アイツ……女だったのか……?」
震える声でつぶやきながら、布団に潜り込んだ。
心臓はバクバク、理性が警報を鳴らしっぱなし。
――この夜から、俺の同居生活はただの節約どころじゃなくなる。
俺の理性を試す日々が、今まさに始まったのだ。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
まさかの美女モード。
そして「理性を試される日々」の始まり。
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次回――さらに踏み込んだ同居生活。
俺と優の距離が、じわじわ近づいていく……?
どうぞお楽しみに。




