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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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15/17

逆回転する昼 ― 封印された空白 ―

美香の一言が、須藤の夜を壊した。


「ねぇ、優の父親って――まだ、生きてるのよ。」


その言葉は、静かな湖面に落ちた一滴のように、

心の奥で波紋を広げていく。


眠れないまま迎えた朝。


優の笑顔の裏に隠された“何か”が、

須藤の心を締めつけていた。


――そして、昼下がり。

封印された“七年の空白”が、

ゆっくりと姿を現しはじめる。



眠れなかった。

瞼を閉じても、あの言葉が耳の奥で何度も反響する。


「ねぇ、優の父親って――まだ、生きてるのよ。」


その一言が、静かな夜を壊した。

心の奥に、得体の知れない“影”が落ちている。


デスクの上のコーヒーは、もう冷めきっていた。

苦味だけが、妙に現実を引き戻す。


(……本当なのか?

 優の父親が、生きてる?)


視線を上げると、

優がいつものように笑っていた。


――けれど、その笑顔が少し痛かった。


まるで、自分自身を守るために作った笑顔のようで。

それが、逆に胸を締めつけた。


「須藤、顔色悪いぞ?

 また夜更かししたんじゃないのか?」


葵の声が現実を叩く。

須藤は曖昧に笑い、言葉を飲み込んだ。


(夜更かしなんかじゃない。

 ただ、心が……眠らなかっただけだ。)


――朝日は昇っても、心はまだ、夜のままだった。



昼休み。

須藤は、事務の佐藤といつもの定食屋にいた。


ざわつく店内。

味噌汁の湯気がゆらゆらと立ち上る。


その穏やかな時間の中で――

どうしても、頭から離れない名前があった。


「なぁ、佐藤。

 ……優って、入社いつだっけ?」


唐突な質問に、佐藤は箸を止める。

「え? 優くん? おまえと同期じゃなかった?なんで?」


須藤は笑ってごまかす。


「いや、あいつさ……

 もし女だったら、けっこう可愛い顔してるよなって思ってさ」


軽く言ったつもりだった。

けれど、どこかその言葉には“迷い”がにじんでいた。


佐藤は苦笑して、

「まぁ、そうかもな」と言いながらも、

須藤の顔をちらりと見た。


「……で? 本当は何が気になってるんだ?」


須藤は一瞬、言葉を失った。


「いや……地元、どこだっけ?」


「えっと……」


佐藤は少し考え込んだ。

「会社に戻ってから確認しておくよ」


そして――

佐藤は社員情報にアクセスした。


「……あれ? これ……」


須藤が身を乗り出す。

画面には、優のプロフィールが表示されていた。

だが、そこには――

“最終学歴は大学名が記され、


生まれてから中学までの住居と

高校から大学までの住居が全く異なっていた。


家族情報は一切記されていない。


「家族っていないのか?」

佐藤は小さく呟いた。


そして、“緊急連絡先”の欄にも、何も記載がなかった。

普通なら、家族の誰かの名前があるはずだ。

だが、そこは空白のまま。



須藤の背筋を、冷たいものが走る。


(……おかしい。

 こんなこと、ありえるか?)


スクロールしていくと、さらに違和感があった。

中学卒業から大学入学までの“七年間”が――消えていた。


(……まさか。

 これが、美香の言ってた“過去”なのか?)


その瞬間、須藤のスマホが震えた。

画面に浮かぶ名前――“美香”。


嫌な予感が、喉の奥に引っかかる。

開くべきか、閉じるべきか。

指が、迷いながらも動いた。


メールの本文には、短い一文だけ。

『彼女の父は、優を探している。』

その下には、一枚の古い新聞記事が添付されていた。


――見覚えのある姓。


「相馬武、妻殺害容疑で行方不明」



須藤の呼吸が止まる。

心臓が、ドクン……と大きな音を立てた。


(……優の父親?

 いや、そんな……嘘だろ……)


画面を見つめる須藤の手が震える。


昼下がりの光が、冷たくテーブルを照らしていた。


――平穏な昼休みの空気が、一瞬で凍りついた。



その瞬間、静かな昼が崩れた。


――止まっていた歯車が、逆回転を始めたのだ。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


須藤の心に生まれた“違和感”が、

ついに“真実”への扉を開こうとしています。


優の過去に空いた“七年の空白”。

そして、妻殺害容疑で姿を消した父・相馬武。


この真実は、誰のために隠されたのか――

そして、誰がそれを暴こうとしているのか。


次回16話では、

優の母の最期にまつわる“封印された夜”が描かれます。


真実は光ではなく、闇の中にこそあった。

どうぞ、次回もお楽しみに。


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