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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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沈黙の夜、壊れた鼓動

前回、葵に「助けて」とメッセージを送った優。

駆けつけた葵の前にいたのは――

怯え、震え、何かを恐れている優の姿だった。


壊れた“日常”の裏に潜む影。

そして、その影が呼び覚ます“過去”。


今回の物語は、

優が抱える“本当の恐怖”と、

葵の“何も聞かない優しさ”が描かれます。



夜の街。

葵はスマホを握りしめ、走っていた。


(頼む……間に合ってくれ)


画面に浮かぶメッセージ。

――“葵……助けて”


声にならない鼓動が、耳の奥で鳴り響く。


ビルの隙間。

そこに、優がうずくまっていた。


顔は青白く、目は恐怖で見開かれている。


「優!」

葵が駆け寄ると、優は小さく震えながら後ずさった。


「……や、やめて……こないで」


その怯えた声に、葵の足が止まる。

優の瞳には――“過去の恐怖”が焼きついていた。


(……何があったんだ)


「大丈夫だ。もう……一人じゃない。俺がいる」


静かな声。

その響きに、優の肩がわずかに震えた。


「立てるか? タクシーで帰ろう」


優は小さく頷き、葵の手を借りて立ち上がる。


少し離れた場所で、

一人の中年男性がスマホを見ながら通り過ぎた。

ちらりと二人を見たが、何の関心も示さない。


――彼が、優の“悪夢”の中心にいるとも知らずに。




家に帰ると、

優はリビングのソファで膝を抱え、震えていた。


「……なんで。あの人が……」


葵は台所で、

紅茶にシナモンと蜂蜜を加え、静かに差し出した。


「飲めるか?」


優は何も答えず、ただうつむいたまま。

葵も何を言えばいいかわからない。


(無理に聞くより、今はそばにいるほうがいい)


立ち上がろうとしたその瞬間、

優が小さな手で、葵の手をぎゅっと握った。


「わかった……ここにいるよ」


その言葉に、優は少しだけ震えを止めた。


時計の秒針だけが、部屋の静寂を刻んでいた。


一時間ほど経った頃。


「……葵くん。ありがとう」

その声は、かすかに震え、消え入りそうだった。


葵は微笑んで言った。

「無理して話さなくていい。今はそれでいいから」




週末。


気分転換も兼ねて、

二人は予定通り、水族館へ向かうことにした。


「準備できたか?」


「うん」


部屋から出てきた優を見て、

葵は思わず息をのんだ。


そこにいたのは――

柔らかな髪と淡いワンピースの、可愛い女の子。


優がくるりと一回転して、

ふわりとスカートの裾が揺れた。


「……どう?」


その声に、葵は思わず目を逸らした。

頬がかすかに熱くなる。


「……似合ってるよ」


その言葉は、照れくささを隠しきれないほど小さな声だった。


優は一瞬ぽかんとしたあと、

ふっと柔らかく笑った。


「ありがと」


その笑顔が、

どんな言葉よりも優しくて――

葵の胸の奥で、何かが静かに鳴った



空はどこまでも穏やかで、

あの夜の震えが嘘のようだった。


「……本当に行くのか?」

玄関で靴を履きながら、葵が問いかける。


優は小さく頷いた。

「うん。外の空気、少し吸いたくて」


葵はしばらく黙ったまま、タクシーアプリを開く。


「……電車はやめよう。今日はタクシーで行こう」


その声は静かだったが、

優を気遣う思いがしっかりと滲んでいた。


「……ありがとう」

優はその言葉に、ほんの少しだけ笑顔を見せた。


窓の外を流れる街並みを眺めながら、

葵は横顔をそっと盗み見る。


あの時の恐怖が、少しでも遠ざかってほしい――

ただそれだけを願っていた。




水族館に着くと、

青く輝く水槽の光が二人を包み込む。



「この水族館、小さい頃ママとよく来てたんだ。

すっごく好きな場所なんだよ」


優の声は、どこか懐かしそうで。


「葵くんと来れて、嬉しいんだ」


その笑顔を見ながら、

葵は胸の奥で静かに誓った。


(――この笑顔だけは、絶対に守る)




けれど――


そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。


水槽の青い光の向こう。

人混みの中に、ひとりの中年男性の姿。



「……やっと、見つけた」


その目が、優を真っ直ぐに捉えていた。



そして、水族館を出た瞬間。


「あのー……ちょっといいですか?」



その声が、

再び“悪夢”の扉を開けた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


優の「やめて……こないで」

――その言葉の裏には、まだ語られていない“痛み”があります。


葵はその過去を聞かず、ただ隣にいることを選びました。

けれど、その優しさが、

次の“波”を引き寄せてしまうことになるかもしれません。


水族館で見つめていた中年の男。

彼は一体、何者なのか。

そして――なぜ優の前に現れたのか。


“恋愛は、相手の過去ごと受け止めること。”

この物語は、まさにその言葉を描いていきます。


次回、優の過去が少しずつ明らかに。

壊れた心に触れようとする葵の“覚悟”が試されます。


「続きが気になる」と思っていただけたら、

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