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偽りの微笑みと、君を想う夜に  作者: Avelin


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壊された日常、始まりの予兆

前回、社内に広がった“彼女の噂”。


それをきっかけに、小嶋と須藤――

ふたりの名前が静かに浮かび上がりました。


表向きは穏やかな日常。

けれどその裏で、優は確実に“何か”を感じ取っています。


今回は、そんな平穏の裏で動き出す“影”の話。


葵と優の距離、

そして小嶋の次なる一手が、物語を大きく揺るがしていきます。



リビングの明かりは柔らかく、

テレビの音が静かに流れていた。


社員旅行が終わってから数日。

ようやく落ち着いた――はずの夜。


「……“彼女”って、誰のこと?」


カップを置きながら、葵が何気なく口を開く。


優はソファにもたれ、

唇の端を上げてニヤリと笑った。


「いるでしょ? 適役が……」


その視線がまっすぐ葵を見つめた。


(……こいつ、ほんとに)


軽口のはずなのに、

胸の奥が小さく跳ねた。


あのオフィスでの“彼女宣言”。

まだどこかで引っかかっている。


葵は視線をそらし、

ぼそりとつぶやいた。


「……小嶋ってさ、なんか苦手なんだよな」


優の表情が、一瞬だけ曇る。


「うん。多分、あいつ……まだ何か仕掛けてくる」


優はカップを両手で包み込みながら、

低い声で言った。


「“デートってどこに行くの?”って

聞いてくる奴が現れると思うよ」


「……は?」


「そのとき、分かる。

――誰が“小嶋側”の人間か」


(……罠を張る気か)


優の声は落ち着いていた。

まるで、“戦う覚悟”を決めたように。


(小嶋……本当の狙いはなんなんだ?)


リビングの時計の秒針だけが、

静かに音を刻んでいた。



翌朝。


葵が出社すると、

いつもよりオフィスがざわついていた。


「お前、彼女いたんだって?」


「興味ないのかと思ってたよ!」


同僚たちの軽口に、葵は苦笑で返す。


「……誰がそんなこと言ってんだよ」


隣のデスクでは、優が笑いながら会話に乗っていた。


「だよなー、俺もびっくりした」


その笑顔は普段と変わらない。



――けれど、その視線だけが違っていた。


オフィスの端。

小嶋がこちらを見て、

何かを探るように口元をゆがめていた。


(……やっぱり、動いてきたな)


優の目に、一瞬だけ鋭い光が走る。


(小嶋が仕掛けてくるなら、

それを利用するまでだ)



昼休み。


ビルの屋上。


優は風に吹かれながら、

一人でコンビニ弁当を食べていた。


「なぁ、あいつ。彼女いるんだなー」


声をかけてきたのは、

同期の須藤だった。


「……みたいだね」


優は穏やかに答える。

だが、内心では警戒していた。


(……須藤。

なんでお前が、その話を?)


須藤は笑いながら続けた。


「彼女とどこ行くんだろうな?」


「知らねぇよ」


「……あっ!そういえば、水族館の話してたな」

須藤の手がピタリと止まる。


「水族館?」


「うん。池袋のサンシャインってとこ」


優は何気ない口調で言うと、

須藤は軽く手を振って屋上を出て行った。


残された優は、

ペットボトルのキャップをゆっくり閉めながら

小さく息を吐く。


(……やっぱり。小嶋、お前……)



ビルの影が、

静かに優の足元を覆っていった。



昼休みが終わり、

午後のオフィスが再びざわめき始める。


小嶋はデスクに肘をつき、

スマホを片手にニヤリと笑った。


画面には、新着メッセージの通知。


──差出人:須藤。

「デートの場所は、水族館です。」


その文字を見た瞬間、

小嶋の口元がゆっくりと歪んだ。


(……葵。お前の“大事なもの”が壊れていく瞬間、ちゃんと見とけよ)


スマホの画面に反射する冷たい笑みだけが、

モニターの光に照らされていた。



夜。


仕事を終えた優は、

静かな街へと一歩踏み出した。


ビルの谷間を抜ける風が、

どこか重く感じる。


ポケットの中でスマホが震えたが、

優は立ち止まらない。



――そのとき。


遠くの街灯の下。

一人の中年男がスマホをいじっていた。


見覚えのある後ろ姿。


優の鼓動が一気に跳ね上がる。


「……なんで、ここに……」


声がかすれた。


左手が震え、冷たい汗が伝う。


震える指でスマホを取り出し、

葵へのメッセージを打ち込む。



――葵……助けて……。


送信ボタンを押す直前、

街灯の下の“その男”が

ゆっくりと顔を上げた。


優の表情から、

血の気がすっと引いていく。



街の喧騒が遠のき、

夜風だけが彼の頬を撫でた。



(……悪夢が、動き出した)

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


優の「葵……助けて」


――その一文が意味するものは、

ただの恐怖ではありません。


静かに見守っていた“誰か”が、

ついに動き出しました。


壊されたのは“日常”か、それとも“心”か。


彼が抱える“過去”に、

まだ誰も知らない痛みが眠っています。


そして――

その痛みを呼び覚ます“影”が、

再び現れようとしていました。



次回、

優の過去と“あの男”との関係が、

少しずつ明らかになります。


「続きが気になる」と思っていただけたら、

ブクマ&評価で応援してもらえると嬉しいです。


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