第一導(しるべ) ここが最終直面(エンドロール)なら
両親を殺され、自分が処刑される時_自分は何も感じなかった。無くなることを恐れる余裕はまだあった。だが、自分が死んで周りが死ななかったらもうそれで良いと思えた。
両親は愛情をくれた。優しさを教えてくれた。慈悲や情けをかけてくれた。でも、国と考えが違うだけで、他の種族と関わっただけで、処刑される。あまりに理不尽だ_
でもきっとその処刑の裏には、大事な人を失って信じるということができなくなり、暴挙に出た哀れな人達ばかりなんだろう。
そう信じて僕は処刑台の目の前に立った。
この十数年間。憧れしか抱けなかったけど、楽しかった_そう思えた。
「おい愚民共!!」
勇ましい声が街全体に木霊する。この声は、救世主か何かか?
「ぜ、ゼウス...!?」
僕の耳に聞き馴染みのある名前が浮かんだ。
_ゼウス。全知全能の神であり、天の番人とも言われている神様...そんな御方がどうしてここに...?僕の頭は必死に理解しようとするが、来た理由が僕を助けに来たこと以外思い浮かばなかった。
「我の前で薄汚い暴動などするな!!とっとと去るがいい!!」
怒りの雷が周りの人々を僕から離すようにしている_
「ひ、ひや〜っ!!」
「死にたくない死にたくない死に...」
「逃げろ!!」
怖気付いて逃げていく傍観者達に呆れる表情を見せるゼウス。
「はぁ、これだから現界の人間達は目が離せん_問題ばかり起こしよる_」
するとゼウスは、見せしめにされていた僕の家族を見るやいなや
「なんと惨い状態...よし、助けてあげようっ!!」
情をかけてくれたのだ。
「た、た...す...け...る_?」
ダメだ...処刑される前に飽きるほどしごかれたから、その痛みが喋るのを邪魔して上手く話せない_
「お、生きていたか!良かった!!今君の家族を蘇生してるところだから、君のその傷も治癒の力で治してやるッ!!」
「そ、そんなことが...出来るん、ですか...?」
「ああ、俺は一部の記憶を代償に治癒や蘇生の力を使えるんだ!これを、他神の変換っていうんだぞ!覚えるんだったらまぁ、覚えておけっ!」
神の力、すげぇ...
「しかも微量だが魔力が備わってるから、魔法が使えたりするんだ!」
「ま、魔法!?」
「あ、あくまで微量だし...その魔力を引き出すにも記憶の代償を払わなけりゃ引き出せないのが難点だがな_」
記憶の代償を払う...天外で言う、
老化によってなる物忘れとか認知症とかのやつかな?
「因みに俺は不老不死!多少の傷は受けるけど、数秒で回復するくらいのやつさ!」
「不老不死...」
「俺の力をお前に分け与えることも出来ちゃうんだぜ〜?」
「す、凄い_!」
「それも結局記憶の代償を払う必要があるんだがな...困ったもんだぜ_」
記憶の代償って重いんだな...
そんな事を考えていたら、家族が目を覚ました。
「...こ、ここは_処刑台があった場所の近く_」
「お母さんッ!!」
「...!!ルーウェル!!...ルーウェルが居るってことは、やっぱりここは冥界なのね...?でも雰囲気が現実っぽいってことは、現界?」
「現界だよ。」
「...貴方は、私達を救ってくれたひ_えっ...?えぇっ!?!?ぜ、ぜぜぜゼウス様!?!?」
神様だから、そういう驚き方をしても不思議じゃない。
というか、それが普通の反応だ。
その神様が目の前に居るなんて普通はないからね_
「あぁ、ゼウスだ。」
「あぁ!!ありがたや~ありがたや~!!神のご加護有難く賜ります!!ありがたや~ありがたや~!!」
「そ、そう畏まることはないぞ!」
「す、すみませんでしたっ!!怒らせてしまって申し訳御座いませんッ!!」
「そんなに謝ることはないって...怒ってないし...」
すると、お父さんと弟であるぜリスと妹であるナルンが目を覚ました。
実は僕の家族はここら辺では珍しい五人家族なのだ!
「お父さん!弟に妹も!!」
「...俺は、死んだはずじゃ_」
「お兄ちゃん...?お兄ちゃ〜ん!!」
「...ぜリス_ナルン_良かった、有難うゼウス様!!」
「「「ぜ、ゼウス様!?」」」
一同驚愕。感動の再開に夢中になって神様が目の前にいるという、
パニックを起こしかねない状況のことすっかり忘れてた_
「お、落ち着け!!」
ここで一つ気になったことがあった。
何故、ゼウス様はグイグイ行かないのか。
それを踏まえて少し質問を投げかけてみた。
「お取り込み中失礼、ゼウス様に少し聞いておきたいことと伝えたいことがありまして_」
「どうした?言ってみろっ!」
「最初は聞いておきたいことです。ゼウス様は何故、僕や僕の家族を助けたのですか?」
僕達は神様の真意なんて知る権利がなかった人間だ。
でも今こうして助けに来てくれて、神様の気持ちが知れる_
二度とない経験だ。
「助けた理由か...二つほどあるな。」
「二つほど_教えて下さい!!」
「_君達が可哀想な目に遭っていたから助けてあげた、これが一つ目の理由だ。だが、二つ目はもっと需要だぞ!」
「...ゴクリ_」
両親は誇らしげな眼差しで僕を見ている。
神と対等に会話できているから「素晴らしい!流石息子!!」とでも思っているんだろう。
ぜリスとナルンはゼウス様が目の前に居ることに驚愕し、失神。
七歳と五歳なのに神の偉大さを知ってるなんて、この子達は成長するぞ〜!
因みに僕は15です。この頃から巨乳好きになりました。
「君達の輝かしい未来を見て、潰したくないなと思ったから。これが二つ目だ!」
「輝かしい、未来_」
「そう。俺には見えた。君達が健やかに生きていく未来が!特に君の未来には感動したね!」
「僕?」
僕の未来_
そんな事を考えたのは五歳ぐらいの時だったかな...
いつも酷い仕打ちを受けてきたから、そのせいであんまり上手く思い出せないけど、
誰かを守れる人とか...そういうことを思い浮かべてたな。
「えーと、ルーウェル...君、だったかな?」
「はい。」
「昔、用があってこの街に来た時、偶然君を見かけたんだ。その時君は、輝かしい未来を想像していたんだ。」
「わかるんですか?」
「全知全能だからな!」
軽く自慢できるレベルのことじゃないぞ。
「皆を守りたい。守るために強くなりたい。世界最強になりたいっていう考え...俺はいつもその未来のために頑張っている姿が大好きだった。でも、国の王と民達が君達を危険視し、処刑される身になった時、君の考えは変わってしまった。自分が犠牲になれば全部解決すると、そういう考えを君は持ってしまったんだ。素晴らしい希望を持っている君を、君の家族を、俺は絶対に死なせたくないと思ったんだ。」
「守るために強くなる_世界最強になる_」
そうだ_僕は昔から昔っから夢見ていることがあった。
世界最強でありながらも人を守れるような人になるという夢を_
無理だって思う人がいるかもしれない...
真っ向から否定して襲い掛かってくる輩もいるかもしれない...
でも僕は、その夢を叶えたかった。
自分は酷い仕打ちを散々受けてきた_
どこか違うからって、種族が違うからって罵倒を浴びせられた。
でも、僕はそんなことされても気にしなかった。
寧ろ他の人がなんにもされなかったから嬉しかった。
だけど、そんなのは嘘。
きっとあの人達は意見の違う人を見つけて処刑するだろう。
僕の中に矛盾が生じた。
守るために強くなるのに、自分達だけ犠牲になるのは違う。
ゼウス様の言葉でやっとわかった。
「そんな未来を捨ててはいけない!俺はそう考えている!」
「わかりました!!僕は世界最強になって皆を守る!!」
「そうそうその調子!!」
なんか急にグイグイ来たな_
親が近づいてきた時は離れてたけど、無意識なのか?
「突然だが、魔法を打ってみてくれ。」
「...へ?」
急に何を言い出すのかと思えば_魔法?
どうやって打つんだッ!!
混乱と怒りが混ざり合って混沌ができてる...
「試しにこれ、打ってみろ!」
「遠距離魔法_あれ?魔法書が読めてる!?」
「普通の人間なら読めないが、今の君には読める!!」
「えーと、この詠唱って書いてある通りに読めば良いんだよね?」
「そうそう!」
(遠距離魔法 無詠唱 炎属性)
ってこれ、無詠唱って書かれてあるやんッ!
さてはゼウス様...言うの忘れたな?
「_てへっ!」
てへってなんだよっ!!
なんかムカつくわっ!!
「技名ぐらいは言わないと_フレイムスラッシュ!!」
炎の斬撃。
なんかダサいけど、威力はそこそ_
い、家がぁぁぁぁぁ!!!!!!
「これぞ神の魔法!!」
「なんて言ってる場合ですか!!」
「あ、」
「え?」
ゼウス様に近づき、触れたら一瞬浮遊感を感じた。
そして、何故か上に吸い寄せられる感覚を覚えた_
これってまさか、天界に飛ばされちゃう感じか!?!?
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「る、ルーウェル君!!」
「な、何かないか何かないか何かないか何かないか!!!あった!天界に飛ばされる時の対処魔法!!」
(瞬間転移魔法 無詠唱)
「こ、これも無詠唱!?ってそんなこと気にしてる場合じゃねぇっ!!現界送還...テレポイント!」
テレポイント。
瞬間移動の英語「テレポート」と、場所や位置などを意味する英語「ポイント」を合体させただけの魔法_
現界へ送還する時にも使うみたいだ。
この技とは別のところに分類されてるみたいだけど_
「良かったぁ〜戻ってきた!」
「良かったじゃありませんよ!!っていうか家が壊れたせいで、住民が鬼の血相でこっち来てるんですけど〜!?」
「あほんとだ。」
ホントだじゃないんだよ!!
どこまでもマイペースだなこの神様_
「おいおいどうしてくれんだぁ?」
「私と彼の家が壊されたんだけど、弁償してくれる?」
さっきの弊害で家に住んでいた住民がこっちに迫ってきた。
顔怖っ、鬼か。
「_魔法書を見ろっ!」
「他人任せかい!!」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早く直しやがれこの異常者が!!」
「神の使いになったからって言い気になるんじゃないわよ!!」
罵詈雑言の嵐。
住民の言葉が僕の胸に刺さっていく_
でももう僕は決めたんだ、神の力を使ってでも皆を守るって!
急いでページをめくり、技を繰り出す。
「はぁ!?なんで魔法打とうとしてんだ!!」
「しかも無詠唱で打つ気よ!?」
「クロノス!」
壊れた建物が時が巻き戻るように甦る。
「す、すげぇ_無詠唱で建物が治ってやがる...」
「少し舐めてたわ。」
掌を返されても何も言わない。
ただ僕は直しただけ、人を傷つけるような人にかける言葉はない。
あるとすれば_
「貴方達と会うことはもう無いでしょう。」
これだけだ。
その後、僕と神様と家族は街を離れ、ゼウス様が治める国「グラーツァ」の城に住む事になった。
「あいつ、なんで崇高なるゼウス様の配下に堂々と立ってんだ...?意味わかんねぇ_」
「な、偉そうで生意気で腹立つわ...」
周りの民からは冷ややかだった。
だが、気にしない。
神の居城に着くと、厳かな兵士がお出迎え。
「ほぉ、あいつがゼウス様のお気に入りか。」
「一瞥されたからと言って調子に乗れるわけではあるまい、隙をついて殺してやろうぜ?」
殺してやる、なんて...物騒なこった。
でも、俺はどうやら殺されようとも死なない体を、知らぬ間に神様に貰ったからね。
そう簡単には死なん!!
「いい所ね〜流石神様の暮らす城ね!」
「ここなら好きなだけ、暴れることができそうだ!」
「わ〜い!!」
ゼウス様直々に中を案内される。
母親の言う通り、素晴らしい家だ。
「よし、ここが会議室だ!早速会議しよう会議!!」
「な、なんかやる気ですね...」
「そりゃあまぁ、最強になるための第一歩だからさ!」
会議内容は治安や商売のこと、危機に陥っている人達を救う任務のこと、
モンスター討伐隊、所謂パーティーの派遣のことなどなど盛り沢山な情報ばかり。
ゼウス様としては任務が最優先らしい。
僕と一緒で、人助けが好きなんだという気持ちが良くわかる。
「よし、じゃあ早速任務に行こ〜!」
ここから僕の物語は動き出した。