目覚めと物語の檻
この物語は、ただの「異世界転生」ではない。
主人公はただの勇者でも、普通の魔王でもない。
彼は「物語そのもの」の一部として目覚めた者。
繰り返される運命の中で、失われる記憶と代償を抱えながら、何度も選択を迫られる。
これは、決められた筋書きに抗い、自分の意思で未来を切り拓く物語。
どうか最後まで見届けてほしい。
目を開けた瞬間、全身に奇妙な感覚が広がった。
ここは…どこだ?
見知らぬ森の中。だが、ただの森とは違う。木々は完璧に配置され、空の色も決められた色合いで染まっている。すべてが静かで、まるで誰かが描いた一枚の絵のようだった。
しかし、その“完璧さ”が逆に不気味だった。
風が葉を揺らす音は美しいはずなのに、どこか不自然で、音のひとつひとつが計算されているように感じられた。
(俺は…本当にここにいるのか?)
自分の身体を確かめる。冷たい感触、呼吸のリズム。すべては確かに現実のようだ。
だが、頭の中には霧がかかっているように、何か大切なものが抜け落ちている気がした。
(名前も思い出せない。家族も、友人も、過去の記憶も…何もかも)
ただ一つだけ、はっきりと感じているのは、自分がこの“舞台”の一部であるということだった。
目の前の世界は、誰かによって細かく設計され、演出されている。自分自身もまた、操られる駒のように感じられた。
「目を覚ましたか、物語の主人公よ」
背後から声がした。振り返ると、そこには薄青い瞳を持つ少女が立っていた。
彼女の目は冷たく、遠い星を見つめるようにどこか虚ろだった。
「ここは物語の世界。あなたは今、その一部になったのだ」
「意味がわからない。俺はただ、普通に生きていた」
「それが ‘干渉’ の代償。繰り返し物語に介入することで、記憶は消え、そのたびに代償を払うことになる」
理解の及ばない言葉が胸を締めつける。
(干渉?記憶の代償?)
心の中で問いかけるが、答えは返ってこなかった。
リセ――そう呼ばれた少女は淡々と続けた。
「あなたは、物語の結末を左右する力を持っている。けれど、それは同時に呪いでもある」
「どうしてそんな力が……」
「わからない。だが、あなたは特別なのだ」
世界がぐらりと揺れ、周囲の景色が変わる。
「さあ、あなたの物語を動かしなさい」
そんな声が耳の奥で響いた。
(これから、俺は何を選べばいいのか)
胸の奥に渦巻く不安と決意。
物語の檻の中、主人公はまだ見ぬ未来へ一歩を踏み出した――
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語は、「物語の一部として生きる主人公」の葛藤と成長を描いています。
書きながら、主人公と一緒に迷い、悩み、少しずつ前に進む気持ちを共有できればと思っています。
これからも、主人公の選択と物語の行く末を見守っていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。