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81 ウェイターのエドの話

 レクスさんが部屋を出てからしばらくして、マクシミリアン様が私とフレッド君の部屋に来た。


「ニナ、君にも話を聞きたいから来てくれるかい? フレッドのことはリリーに頼んだ」

「わかりました」


 マクシミリアン様と一緒に支配人室に入ると、年配と若手の警察官が二人来ていた。そしてあのウェイターさんもうなだれて椅子に座っている。


 「ニナ・エンドです」と自己紹介すると、警察官は戸惑ったような表情で「あなたは魔法使いだそうですね。人の記憶を見られるというのは本当ですか?」

「本当です。今日、このウェイターさんの記憶を見て、行方不明の女の子を連れ出した人だと確信しました」

「なるほど。君、それについて話を聞かせてくれますか?」

「エド、正直に話をしてくれるね?」


 警察官とマクシミリアン様が声をかけると、エドと呼ばれた男性は静かに話し始めた。


「メイリーンは私と一緒にラングリナ・エンドの家を出て、逃げました。彼女の親がラングリナに隠れてたびたび金の無心に来て、彼女は怯えていましたし、『ここにいたら師匠に迷惑をかける』と混乱もしていました」


 そこからエドが話したことは、胸詰まる内容だった。

 

「月に一度の薬を受け取りに行ったら、メイリーンが殴られた顔で床にうずくまっていました。父親が金の無心に来て、ラングリナが留守と知ると家の中に入り込もうとしたそうです。それを必死に防いで殴られたと言って、メイリーンは泣いていました。父親は『明日もまた来る。師匠の金を探し出しておけ』と言い捨てて去ったそうです」


 エドの話は続く。


「私はお休みをいただいて翌日にメイリーンと一緒に父親を待ちました。メイリーンを弟子にするにあたって、ラングリナはそれなりのお金を父親に渡したらしいのですが、父親は来るなり『あんなものでは足りない。他で働けば娘はもっと稼げるんだ』と言って、メイリーンを無理やり家から連れ出そうとしました。私がカッとなって思わず父親を突き飛ばすと、父親は勢いよく倒れて動かなくなりました」


 エドは私を見て話をしているが、その目はもっと遠くを見ている。


「倒れた父親は死んではいませんでしたが、目を閉じたまま動かなかったのです。放置したら死ぬかもしれないとは思いました。メイリーンは『お父さんが目覚めたらどれほど殴られるか。もう、どこか遠くに逃げたい』と言いました。以前からメイリーンを大切に思っていた私は、メイリーンを連れて逃げました。そんなこともあろうかと全財産を持って出ていたので、父親を人目につくよう道に転がして、そのまま二人で逃げたのです」

「なぜ警察を呼ばなかったんだ?」


 そう若い警察官に言われてエドがキッと相手を睨んだ。


「メイリーンは家にいた頃、父親の拳から命からがら逃げだして警察に駆け込んだと言っていました。でも警察はメイリーンを守らなかったんですよ! 警察は逃げ出したメイリーンが悪いかのように諭して、また家に帰したんです! メイリーンは警察を信じていませんでした。帰宅したらまた殴られたのですから」

「それでそのメイリーンは今、どうしているんだい?」


 年配の方の警察官が質問した。


「彼女は私と三年間暮らした後、流行り風邪をこじらせて亡くなりました。今はここから三キロほど離れたところにある墓地で眠っています」

「埋葬するには医者の診断と戸籍が必要だろう? その手続きをしたのなら、今まで行方不明のままなわけがない」


 レクスさんがそう言うと、エドは苦々しそうに口を歪めて首を振った。


「貴族様はご存じかどうか。貧しい家には無戸籍の子供がいてもおかしくありませんし、埋葬前に医者を呼ぶ金が無い家もあるんです。墓守に小遣いほどの金を渡して、隅の方にこっそり埋葬しました」


 その場に居合わせた全員が「こいつの話は本当か?」という顔になった。


「私にその人の記憶を見させてください。今の話が本当かどうか、私が確認します。メイリーンさんが納得してついて行ったのか、無理やり連れ去られたのか、病死したのか違うのか、私ならわかります」


 私がそう言っても、年配の警察官は困惑した顔で「いや、そう言われてもねえ」と口ごもる。いいともダメだとも言わない。二人の警察官は互いに困った顔を見合わせている。


「私の能力をお疑いなら王宮に電話をして、フレデリック殿下に確認してください。殿下は私の能力をご存じです」


 警察官は王宮と聞いて動揺した。マクシミリアン様が「私が王宮に電話をかけよう」と言って壁に取り付けられている電話から送話機を取り、話しかけた。


「王宮に繋いでほしい。フレデリック殿下に取り次いでほしいが、無理なら殿下の代理人でいい」


 少しして電話が王宮に繋がれたらしく、マクシミリアン様が「そうです。ニナ・エンドの能力をフレデリック殿下がご存じと聞きました。はい、はい。そうですか。待ちます。私はラグダール・ラグーンホテルの支配人、マクシミリアン・ローゼンタールです」と言って電話を切った。

 折り返すように電話が鳴って、マクシミリアン様が電話に向かってかしこまった姿勢で会話をしている。そして警察官に顔を向けた。


「フレデリック殿下が証言してくださる。電話を替わって確認してください」と言って電話の前を譲った。年配の警察官は姿勢を硬くして会話していたが、何度もお礼を言って電話を切った。

 

「殿下が 『ニナ・エンドは他人の記憶が見える魔法使いだ』と証言してくださった。ニナさん、それではお願いします」


 警察官の了承を得て、私はエドの手を私の手で挟んだ。


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― 新着の感想 ―
事実は酷い物だったりすることもあるけど、「実際はこうだった」というのがニナの魔法のおかげで判明するのとても面白いしすっきりします
他のコミックのお気に入りのフレーズ 「事実は一つ、真実は人それぞれの数ある」 よく言う「真実は一つ」、とは逆ですけどこちらの方が理にかなっていると思うようになりました。
マイヨールの事件があったから、こんな辛いことがあったんだと語るキャラがいても警戒しちまいますね…
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