第90話
冒険者パーティ『自由の風』の3人はアングラ坑道への出発のため、準備を進めていたのだが、ティアだけがベッドで塞ぎ込んでいた。
「ねぇ、ティア、いいかげんにしなよ。」
「マリーには私の気持ちなんてわからないわよ。」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「誰も私の気持ちなんてわかってくれないんだ」
「ティア、もう諦めたら、出来る限りフォローはするからさ」
「レオンは私の味方じゃないの?」
なぁウンディーネ、一体、ティア達はなんで言い争いしてるんだ?
さぁ、わかりませんね。聞いてみます?
やめとこう、嫌な予感しかしない。
「あーもう、こうなったら、ティアを無理矢理にでも連れて行くしかないね。」
「やっぱりそうなるよね」
「絶対、嫌!」
埒があかないと諦めたマリー
「はぁ〜、レオン、先にアングラ坑道への許可証貰いに行こっか」
「そうだね。」
「ティア行くよ」
「行かない。」
ティアはシーツに包まり動こうとしなかった。
「ティア」
「レオン、ティアはもう放っておいて、早くお城に行こ」
「そうするしかないか」
レオンとマリーは部屋から出ていく。
「絶対行くもんか」
ティアは1人呟いたのだった。
レオンとマリーは許可証を貰いにお城までやって来た。
「こちらがアングラ坑道の立ち入り許可証です。アングラ坑道に着いたら、門番をしている人に見せて下さい。中に入れてもらえますので。」
「わかりました。ありがとうございます。」
許可証を受け取り、それぞれポーチや鞄にしまう。
たまたま通りかかったミレーナとエミリーはお城にいるレオン達に気付き、話しかけた。
「あれ、マリー先生、どうしてお城に?」
「ミレーナちゃん、アングラ坑道の立ち入り許可証を貰いに来たんだよ。」
「レオンさん、ティアさんは?」
エミリーがティアの姿が見えないことを尋ねる。
「屋敷にいます。」
「マリー先生、アングラ坑道に大精霊っているのかな?」
「いて欲しいんだけどね。いるかどうかは行ってみないとわからないから」
「そうなんだ。大精霊いるといいね。」
「あのレオンさん、大精霊って?」
「「あっ!」」
2人はエミリーの前で大精霊のことを喋ってしまったことに気が付いた。
レオンを額に手を当てる。
「マリー、ミレーナちゃん」
「「ごめんなさい」」
レオンに呆れた目を向けられ、謝る2人
「またティアに怒られる」
「なぜ2人は謝ってるんですか?」
エミリーは疑問を浮かべる。
「まぁエミリーはミレーナちゃんのメイドだし、知っておいてもらった方がいいか」
最適解を考えたレオンはエミリーに話しかける。
「エミリー悪いんだけど、ここでは説明出来ないから屋敷まで来てもらえる?」
レオンとマリーはミレーナとエミリーを連れて屋敷まで帰ってきた。
「おーい、ティア」
「…………」
「ティア、話があるんだけど」
「…………」
ティアは聞く耳すら立てず、シーツに包まり、ベッドから動かない。
「あの何があったんですか?」
「実は…」
レオンがエミリーに事情を説明した。
「カーラムの森にいる虫の魔物が大量発生しているから、絶対行かないと駄々をこねてると?」
「そうなんだ」
「ティアは大の虫嫌いなんだよね。」
「それで出発出来ずにいるんだ。」
マリーは何かを思いついたようだった。
「仕方ない、レオン耳貸して」
「なに?マリー」
マリーはレオンの耳元でゴニョゴニョと話す。
「ちょっと、オレがそんなこと言うの?」
「仕方ないでしょ?」
「いや無理だって、そもそもそんなこと言うようなキャラじゃないでしょ?オレ」
「いいから、やれ」
その時のマリーの目は、姉の目にそっくりでレオンは一切反論出来なくなった。
「…………はい」
「ティア」
レオンが話しかけるが無言のまま、そっぽを向いている。
レオンがティアを後ろから抱きしめ、耳元で囁く
「何があっても、君はオレが守る。だから、オレについて来て欲しい。愛してる。ティア」
「それは本当?」
「もちろん」
「それは私がおばあさんになって死ぬまでってことでいいの?」
「ああ」
「レオン、私、一生あなたについて行くわ。」
「あのマリーさん、私は一体なにを見せられてるんでしょうか?」
エミリーはマリーに問いかける。
「気にしたら負けだよ」
「はあ、そうですか」
レオンの肩にもたれかかりながら、ティアはレオンに問いかけた。
「ねぇ、なんでここにミレーナちゃんとエミリーがいるの?」
「それは」
マリー達の方を見るレオン
「ティアさん、大精霊ってなんですか?」
そのエミリーの一言により、ティアはマリーを睨みつける。
「マリー、あっちの部屋でお話しましょうか?」
「いや待って、今回はミレーナちゃんもだから」
「ごめんなさい、ティアお姉ちゃん」
ミレーナにも謝られたティアはこれ以上言えなくなった。
「わかったわ。もういいわよ。」
その言葉にマリーはほっとした。
「まぁ、エミリーがうちで働いていたら、いつかは教えなきゃならなかったことだしね。でも今は他言無用だから、それだけは覚えておいて」
「はい」
エミリーが頷く
「我が名はティア・スカーレット 契約の元、現れよ。ウンディーネ、シルフ」
ウンディーネとシルフが召喚される。
「これが大精霊」
ウンディーネ、シルフと目があったエミリーは自己紹介をしたのだった。
「私、エミリー・クラネスと言います。」
「はじめまして、私はウンディーネ、こちらはシルフ、エミリーさんの声はティアさんを通じて聞こえていたんですけど、私達にも事情がありまして、お会い出来なかったんですよね。」
「なんとなくわかりました。ウンディーネさんやシルフさんのことを下手に公表してしまうと世界が混乱すると言うことでしょうか?」
「理解が早くて助かります。」
「いえ、前は冒険者ギルドで受付嬢をしていたので、混乱を招く情報を秘匿するのは仕方のないことだと思っていますから。」
「君がエミリーか、ねぇティア達の強さっておかしいと思う?」
「凄く強いとは思いますけど、おかしいと言われると」
「ドラゴン討伐を単独でやるのはおかしい?」
「そうですねぇ。普通は複数のパーティで討伐するのが基本ですから、おかしいか?と言われたらおかしいですね。」
「よかった。君が常識人でよかった。ボクと友達になろう。ボクのことはシルフでいいからさ、さん付けとかしなくていいよ。」
シルフがエミリーと握手を交わす。
「シルフ、私達に喧嘩売ってるの?」
「いいか、ティア?ボクの知ってる人間って言うのはエミリーみたいなのを言うの。」
「じゃあ、私達はなんだって言うのよ」
「魔王」
「シルフ、あっちの部屋に行きましょうか?あとマリーも」
「えっ、あたしも」
ティアはシルフとマリーの首根っこを掴み、部屋から出ていく。
「はなせよ、ティア」
「ちょっとティア」
「えーと、止めなくても?」
エミリーはレオンに問いかける。
「仕方ないよ。」
「そうですね。」
ウンディーネも諦めたようだった。
「それで大精霊ってどういう存在なんです?」
エミリーの疑問にウンディーネが大精霊について説明した。
「あのラグナロクは本当にあったことで、ウンディーネさん達は元神様で、現在は大精霊として世界を見守っていると」
「そうなりますね。」
「それでアングラ坑道へ大精霊を探しに行くということですね」
「そういうこと」
「もしかするとアングラ坑道はドワーフ族の地下帝国だったかもしれませんから、土の大精霊がいる可能性は高いんですよね。神だった頃はドワーフ族に信仰の対象とされていましたから。」
「ウンディーネさん、ドワーフ族の地下帝国ってなに?」
ウンディーネの話にミレーナが食いついた。
「私も知りたいです。」
「それでは説明しますね。」
ウンディーネがドワーフ族について説明した。
「かつて存在した種族の地下帝国、もし見つかったら、大発見じゃないですか!」
「私もドワーフ族の地下帝国が見てみたい。」
「いや、ミレーナちゃん、そうかもってだけで本当にある確証なんてないよ」
「私も行って探す。」
「ミレーナ様、流石に危険ですよ。」
「えー、やだ」
「ダメですよ。なにかあったらどうするんですか?」
エミリーに注意されたミレーナ
しかし何かを思いついた。
「あっ、そうだ!」
「ミレーナ様?」
「なんでもないよエミリー、お城に戻ろう」
ミレーナが立ち上がり、屋敷の入り口へと向かってしまった。
「ちょっとミレーナ様!?待ってください。すみません、レオンさん、ウンディーネさん、ありがとうございました。」
「あ、うん」
「では私はこれで。ちょっとミレーナ様待ってください。」
エミリーはミレーナを追いかける。
「エミリーも大変だな。」
ミレーナとエミリーが屋敷から帰った後もお説教という話し合いは続いていた。
「ごめんティア、もう二度と言わないから」
「シルフ、本当にわかってるの?」
「今回、あたしだけが悪いわけじゃないのに」
「元はといえば口が軽いマリーが悪いんでしょ?」
ティアはマリーとシルフを睨みつける。
「「ごめんなさ〜い」」
この日以降、シルフがティアに対して生意気な口調で話すことは無くなったのだった。




