このシチュエーションって?
コロナ渦が続く中、いろいろな業種が下降気味だが、マスクの需要は伸びている。
私と父と、私のまだ小さな娘はテレビを囲んで夕食だ。
毎日コロナの患者数の発表に、うんざりしながらもニュースをみるのが日課になっている。
「年寄りにも重症者が増えてきたそうだな」父がポツリという。
60を過ぎてもまだまだ変わりなく見えるが、私が離婚してから一人親になって父にばかり頼り過ぎではいないだろうかと思うが、口に出してもこの状況は変えられない。
本当に親はありがたい‥‥感謝しかない。
寡黙な父だが私が仕事に精をだせるように、掃除に洗濯、娘ールルの保育園の送り迎えなど率先して世話をやいてくれている。
私が子供の頃の父の思い出は、朝から晩まで仕事で顔を合わせたことがめったになかった。たまに父が家にいても疲れてほとんど寝ていた。そんな父は、私にとって空気のようで興味のない存在だった。
それが、夫と離婚して行き場のない私たちをあたたかく迎え入れてくれた。
母が他界してから一人で細々と暮らしていた父。何十年も離れていたのに、家族だからと。
‥‥本当に嬉しかった。
父も娘にお爺ちゃんと、甘えられて嬉しそうだ。
最近の父はマスク作りにもはまっている。
第1作品は娘、ルルが大好きなアニメのキャラの生地で作ったものだった。
父は、昔から手先が器用だったらしい。
それから気を良くして、作品は23作まで作られた。
お気に入りを残して、保育園のバザーに出すとすべて売り切れてしまった。
それからも、また作品は少しずつ増えている。
生地の材質だけでなく色々な工夫をしているので、毎回新作のマスクを見るのが楽しみだった。
ある日父が新作ができたというので早速、娘と試してみる。
父いわく、ヒモなしマスクだ。
口元に当ててみるとさりげなくフィットする。
なるほど落ちない。
自然に肌に馴染む感覚だ。
ルルも気に入ったようだ。
しばらくして、マスクをはずす。
んん⁈
少し、力を加える。
え?
ルルを見ると同じ動作をしている。
(取れない)
(えっー。どうして?)
父も、同じように動揺している。
父いわく、マスクに負荷をあたえたら外れると言っていたはず‥
しかし、父が試してもだめだった。
あまり、力をこめると皮膚が引っ張られ痛さが増す。
(どうしよう?)
見つめあう三人の顔は、マスクで隠れていて表情は読み取れなかった。