97 救難信号
船内に突然のアナウンスが鳴り響く。
何だろう?
ここは外国への航路線上にあり船の往来も激しい海峡だ。
”こちらはキャプテンです。ブリッジからのお知らせです。ただいま救難信号を受信したため現場周辺の海域の船は救助に向かいます。お客様にはご心配をおかけして申し訳ありません。船内にてごゆるりとお過ごし下さい。引き続き何かございましたら船内放送にてご案内致します”
心配になってお祖父様を探す。
まさかマンガみたいに救助にかこつけた海賊船なんて事はないよね?高島は大丈夫?
「愛梨花ちゃん、こっち」
神馬君のお兄様に手を取られてデッキの方へ歩いて行く。龍一郎君は虎太郎君と神馬君に声をかけていた。野次馬根性で救助活動を見てみたい。
デッキに上がると暗い海の向こうに船の光が明るく光っていた。
「大きな船に見えるけど、どうしたのかな?」
神馬君のお兄様が龍一郎君に聞いていた。
「エンジントラブルみたいだ。外国籍のタンカーだね」
龍一郎君は携帯を見ながら教えてくれる。虎太郎君と神馬君も、龍一郎君の携帯を除いている。
「凄いな、周りの船が全部表示されている」
虎太郎君も神馬君も感嘆の声をあげていた。2人とも興味津々だ。男の子って乗り物が好きだ。
「お嬢様危ないので中に入るようにと、大旦那様のお言いつけです」
いつの間にか高島が横に来ていた。お祖父様もご一緒なのかとデッキを見渡すけれど姿が見えなかった。
「お祖父様はどこ?」
「西園寺様達とブリッジです」
高島がモジャモジャの眉毛をいつになくキリッとさせて答える。私が見るときは大抵八の字に下がっているのに……面白い。
お祖父様はキャプテンと打ち合わせ中?なのかな。
段々と船の明かりが近づいてきて向こうの甲板にも数人の人がいるのが見えてきた。
「お祖父様達の言いつけだから中に入るよ」
龍一郎君が私の背中を押すようして一緒に歩き出した。真っ暗な夜の海は危ないから、皆でラウンジにおとなしく入ると相変わらず高島が側にいた。任務遂行中って所ね。
やっぱり緊急事態なのか、それとも子供の面倒を押しつけられたのかな?
「高島、これからどうなるなるの」
「まもなく海上保安庁の船が来るので、そうしたらここを離れられるようです。見たところ危険なことはなさそうなので」
良かった。何もないにこしたことはないものね。いつの間にか握りしめた手に汗をかいていた。
やだ、知らないうちに、緊張していたんだ。
「温かい飲み物でも飲もうか」
龍一郎君がカフェのメニューを持ってきてもらう様にクルーにお願いしている。その間に神馬君のお兄様が私の手を取った。
「手が冷たくなっているよ。すっかり冷えたね」
ニッコリと微笑まれても心臓に悪い。別の意味で緊張するんですけれど……
神馬君のお兄様はイケメンなんだから、離れて。
しかも、今日はいつもより距離間が近いような気がする。
「愛梨花ちゃん。僕のことは敬って呼んでよね」
「は、はいっ?」
無理でしょう。年上なんだから。
「敬兄様?」
「まっ、それでもいいけどね」
何だかこの雰囲気が甘く感じてしまうのは、私が中身32歳のせいか?
イヤイヤ私はまだ小学1年生なんだぞ……
そちらもまだ、小学4年生ですよね?たったの10歳じゃないんですか。
イケメンは遠くから眺めるのが好きなの!
「えっと…龍一郎様はど、どこかなぁ~~」
あわあわと視線をさまよわせていると、虎太郎君と神馬君は仲良くタンカーについて議論中。空気読まない虎太郎君は役に立たないぞ。
龍一郎君、ヘルプミー~~~!!!
龍一郎君は側で高島に状況を確認していた。私の視線に気が付いたのか、書類から顔を上げると目が合った。すぐに様子を察したのかこちらに来てくれた。
「愛梨花ちゃん。寒い?ココア頼もうか」
さりげなく神馬君のお兄様が握っていた手を外してくれた。
た、助かった。
「あのね、神馬君のお兄様が敬って呼んで欲しいって」
「ああ、了解」
龍一郎君がいつもの笑っていない笑顔を神馬君のお兄様に向けていた。
怒っている?
まさかね。怒る理由が見当たらない。
虎太郎君と神馬君はずっと2人で何やら話し込んでいる。さっきまでの騒ぎは嘘のように仲良しだ。すっかり気があったんだ。雨降って地固まるって事かな?
いつも虎太郎君にまとわりつくかれている私としては良かったはずなのに少し寂しい気持ちがした。
変なの。
しばらくするとキャプテンのアナウンスで任務完了した事を知った。
海って色々あるんだね。
♢ ♢ ♢
「殿下いかがでしたか?」
「ああ、デッキからこちらを見ていたな。あれに間違いはないんだな」
「閣下がご執心でいらっしゃいます」
「叔父上も物好きだな。幼児に興味などとは。しかし、何が良いのか気にはなるな」
甲板にいた人は双眼鏡をおろしても、なお離れていく船を見つめていた。




