91 イベントカレンダー
花火の後は虎太郎君のお母様に誘われて大浴場に行って来ました。
船の中に大浴場なんて凄いね。天井が透けて夜空が綺麗に見えた。”曇らないようにするのが大変だったのよ”とお母様。なるほど。
”今度はエステも体験しましょうね”と嬉しいお誘いまで。女子はいくつになってもエステが好きなの。
虎太郎君のお母様が私の本当のお母様かも知れない。なんて思ってしまう。それはないんだけどね。
明日は青森に停泊して、青森観光が出来るそう。明後日には北海道。そこで観光をして夜には神馬兄弟が合流するらしいんだ。賑やかになる。
次の日、早朝にお祖父様に起こされた。
デッキに出て日の出を見るんだって。水平線から上がってくるお日様は綺麗。雲が色とりどりに変わっていくこの瞬間は大好き。でも夕焼けの方が好きかも。朝は眠くてよく見えないから……
お祖父様に抱きかかえられて眠い目をこすっていると下のデッキで走っている人がいる。
「んっ?高島?」
そう言えば乗船してから高島の姿をあまり見かけなかった。
「高島~~~」
手を振ると片手をあげて答えてくれた。もしやまた龍一郎君と虎太郎君を鍛えているのかと思ったけど、その姿は見えなかった。
「お祖父様、高島は護衛はお休み中?」
疑問に思っていた事を聞くとお祖父様は首を振った。
「いや、護衛は強化中だ」
「強化中?」
「今回のクルーズ船は高島が、警備体制から人選、護身術まで指導している」
「お祖父様、もしや、極秘任務でも受けたの?エージェントみたいだね」
「ははははは……前回の事などが色々教訓になっただけだ。特に何もないよ」
直ぐに否定するところが、なんだか逆に怪しい。でも極秘任務だとしたら話せないよね。ごまかされてあげよう。
後で高島にカマをかけてみようかな?単純だからね!
日が昇るとお祖父様と2人で早朝のカフェテリアにやって来た。朝食にはまだ早かったので私はリンゴジュース。お祖父様はブラック珈琲を頼んだ。ここのカフェテリアは朝早くから営業しているんだ。
クルーの方がクロワッサンが焼き上がりましたがどうですか?って。思わず目を輝かせた私にお祖父様が苦笑した。
「朝食もちゃんと食べるんだよ」
「はい!」
大きくて良いお返事が出来ました。
自家製のストロベリージャムと焼きたてのクロワッサン。幸せ~~~
高島と龍一郎君がカフェテリアにやって来た。あれっ?龍一郎君?さっきはいなかったような気がする。
隣のテーブルに腰掛けた2人に聞いて見ると龍一郎君はこれから早朝の訓練をするらしい。虎太郎君は起きてこなかったから明日からだって、ご苦労様です。
「じゃあ私も明日から体操だけする」
「よし、わしも体操に参加しよう」
高島はちょっと迷惑そうに額に皺を寄せていたけれど見なかったことにした。後で虎太郎君も誘うから。
あっ、虎太郎君は参加必須だったね。
朝食は和定食。もちろんしっかりと食べた。お祖父様と約束したから、自分の分は全部食べないといけなくて、大変だった。
うっ、やっぱりクロワッサンがまだこなれていない。給仕の方が明日からは少なめにしますねと言ってくれた。ほっ!
朝食を食べている間に船は青森の港に入っていた。今日は1日自由行動。出港は夕方なのでそれまでに戻れば良いんだって。
青森の街?リンゴぐらいしかわからない。お祖父様達は船でゆっくりするみたいだ。街の散策ツアーもあるみたいだけど小学生以下の子供同士の参加はダメだって。龍一郎君はまだ小学生なんだ。残念。
ああ、それで、本日は龍一郎君達と船のイベントに参加することになっていたんだ。
観光に行く人が多かったから船の中はすいていた。もともと人が多くはなかったからガラガラだ。虎太郎君のお父様は会社の方々とゴルフ。
何でも社内旅行も兼ねているから社員の殆どが観光かゴルフに参加していて、虎太郎君のお母様だけ残って下さっているみたい。だから船の中は貸し切り状態だ。
本日の龍一郎君のスケジュールだと午前中はデッキで輪投げ大会。お昼の後はプール。午後からは絵はがき作り。このスケジュールを見て固まった。
輪投げ=入らない。
プール=泳げない。
絵はがき=下手くそ。
が~~ん。いじめだっ。
「龍一郎、愛梨花ちゃんは泳げないぞ」
イベントのスケジュールを見ていた虎太郎君が言う。
「輪投げも下手だ。全く入らないどころか届きさえしなかった」
ぐっ、虎太郎君、個人情報だから、人の恥をさらすのは止めようね。
「大丈夫、教えてあげるから。それにプールは浅い方でビーチバレーだよ」
「み、水着あるかわからない」
自分で用意していないから千鶴に聞かないと。
「そこでも売ってたから大丈夫だよ」
笑顔全開の龍一郎君を見て、もはや逃れるすべはないと悟った。
龍一郎君に任せるんじゃなかった。
自分で決めれば良かった。
後悔しても遅かった。
「それにしても龍一郎の案は面白くないな。愛梨花ちゃんはいつももっと面白い事を考えるぞ」
虎太郎君がイベントのスケジュールを見ながら言う。
虎太郎君の手からスケジュールを取り上げると、虎太郎君の目を見てキッと睨んだ。
虎太郎君これ以上、よ、余計な事は言わないで!
私の心中を察したのか、虎太郎君が面白そうに笑って自分の手でお口チャックのジェスチャーをする。
よしよしと思って龍一郎君を見れば、笑っていない笑顔全開だよ……
笑っていない笑顔ってなに?怖いんですけど……
「今度から愛梨花ちゃんに考えてもらおうかな」
私は勢いよく首を振った。
「りゅ、龍一郎様の案がいいです」
今日は何も言わずに頑張ろう……心に決めた。
愛梨花ちゃんが誘拐されたことを子供達と(龍一郎君を除く)本人だけが知らない。それで周りの大人達は皆、異常に神経質になっています。




