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9 前門の虎後門の狼


 家に帰ると、高島が寺森にお医者様を呼ぼうか相談している。呼ばなくて良いからね!

 擦り傷でお医者さんは無いから。

 千鶴にさっさと消毒して貰って寝るからね。


 でもしみるよ~


 リビングにいるとお父様が帰ってきた。


 「旦那様お帰りなさいませ」


 寺森が慌てて玄関へ行く。


 「何かあったのか?」


 お父様の声が玄関から聞こえてきた。


 「お嬢様が転んで膝小僧をすりむかれたので手当を」

 「この時間に?」


 お父様は上着を寺森に渡すとリビングに来られた。

 消毒液がしみて涙目になっている私の顔を覗き込んだ。


 「どうした?」

 「お父様に会えなくて寂しかったの……お迎えがしたくて転んじゃって……」


 うるうるの瞳で見上げる。(本当は違います)心の中で謝る。

 寺森が唖然とした顔を隠すように横を向いた。吹き出さないでね。


 「そうか、そうか、済まなかったね。」


 お父様は嬉しそうに私が両腕を伸ばすと抱き上げてくれた。


 「高島がコンビニまで連れて行ってくれたんだけどそこで転んじゃって」


 嘘は言ってないです。大分はしょってるけど。高島を見ると高島は慌てて挨拶をする。


 「旦那様、私はこれで」


 挨拶をすると急ぎ出て行った。ぼろが出る前に去ってくれてありがとう。心の中で頭を下げた。


 「皆に迷惑掛けてしまったの。ごめんなさい」


 そう言ってお父様にくっつくと頭を撫でてくれた。


 「お嬢様、もう遅いですからお休みしないと」


 千鶴が救急箱を片付けながら声を掛けてきた。


 「一緒に寝るか?」


 お父様が破顔で言うから、私は慌てて首を振る。32歳の私が全力で拒否ってる。勘弁して欲しい。


 「お膝が痛いから無理です」


 お父様は笑いながら降ろしてくれた。


 やっと寝られる。思えば長い1日だった。


 次の日幼稚園で早速すみれちゃんにお姉様の様子を聞いてみた。


 「昨日はいつもより早く帰ってくるとお部屋に引きこもってしまって今日はお休みしてるの」


 すみれちゃんは心配そうに言ってスモッグに着替えた。

 朝はお教室に入ると、上着を後ろのロッカーに掛けてから水色のスモッグを着る事になっている。


 「そうなんだ。早く元気になると良いね」


 取りあえず悪いお友達と切れたら良いな。

 幼稚園児が出来る事は少ない。後は火事が起きないか少し注意するぐらいかなぁ・・・・・

 すみれちゃんとのんびりお話ししていると誰かが近づいてきた。


 「おい、お前、最近おとなしくないか?」


 声を掛けてきたのは同い年にしては体格の良い男の子だ。


 「誰?ごめんなさい覚えていなくて」


 隣ですみれちゃんが虎太郎(こたろう)君だよと小声で教えてくれた。


 「ふ~ん、本当に覚えていないんだな。」

 「虎太郎君あっちで遊ぼう、そんな子関わらない方が良いよ」


 ポニーテールの活発そうな女の子が走り寄ってきて、こちらを睨みながら虎太郎君の洋服を引っ張っている。


 「お前、引っ張るのやめろよ」


 女の子は手を離すと申し訳なさそうに虎太郎君を見た。


 「あっ、ごめん。翔君も呼んでるし…」

 「ああ」


 虎太郎君は短く答えると2人でブランコの方にかけていった。ブランコの方では2,3人の子が遊んでいる。


 「青空葵ちゃんと西園寺虎太郎君だよ、向こうにいる背の高い男の子がのが花巻翔」

 「仲良し3人組?」


 すみれちゃんが首を振った。


 「虎太郎君と翔君は従兄弟同士で仲が良いけど女の子は取り巻きかな」

 「幼稚園児で取り巻きって凄いね」


 すると、すみれちゃんの笑顔が引きつった。

 もしかして私の事を言ってる?自分を指さすと、すみれちゃんが頷いた。

 わ~ん、私の黒歴史だ。


 「覚えていないから!」

 「忘れてあげる」


 私が頭を抱えていると、すみれちゃんが笑いながら言う。


 「皆も忘れてくれるかな?」


 すみれちゃんは首を傾げた。そうだよね他人のことまでわからないし。

 大人しくしてよう。


 「うちもそうだけど虎太郎君と翔君には名前だけでも覚えて貰いなさいってママがうるさいの。良いところのお坊ちゃんだから仲良くして損は無いって」


 すみれちゃんがブランコの方を眺めながら言う。


 「名前覚えて貰ったの?」

 「ううん。あそこに割り込む気は無いかな」


 ブランコの周りにはいつの間にか人だかりが出来ていた。


 「触らぬ神に祟りなし。だね」


 すみれちゃんはちょっと考えてから感心したようにこちらを見る


 「愛梨花ちゃんって難しい言葉を知ってるんだね」


 すみれちゃんの言葉に曖昧に頷く。中身32歳なので……


 「関わらない方が良いって事だよ」


 すみれちゃんと顔を見合わせて笑った。


 小説でもたしかに2人の取り巻きは凄かった。意地悪されたり、したりでね。近づかないに越したことは無い。

 女性はお金と権力に群がるって前世で友達が言ってた。幼稚園からこれじゃ大変だね君達。


 私は平和主義です。小心物なのでね!


 ところが、自分が忘れられてしまったことがよほど彼のプライドを傷つけたのか、それ以来やたらと虎太郎君が絡んでくる。おまけのように翔君が着いてくる。迷惑なんですけど。


 虎太郎君が先生に席替えを希望して、私の前と後ろに彼らが来ることになった。


 これは”前門の虎後門の狼”?


 どうしてこうなった!???


 前から仲良しだったから少しでも思い出せるように手伝いたいとか言ったらしい。

 仲良しでは無いと言ったら、”覚えていないんだよね?”と翔君が黒い笑顔で突っ込んでくる。

 先生は先生で、”優しいお友達で良かったね!”って、それ違うと思います。


 そんでもって前の席の虎太郎君が後ろの翔君と私を挟んで話すから、席替わるよと言ったら、”それじゃ仲良くなれないだろ”と虎太郎君が言うんだけど、仲良くなる必要ないから。

 すみれちゃん以外、女子全員敵に回すから、お願いだから止めて!


 帰りの車で泣きながら高島に愚痴った。


 「聞いて、前門の虎後門の狼なの」

 「お嬢様、難しい言葉知ってますね。いじめられたんじゃ無いんですよね?」

 「違うの、仲良くなろうって言うの」

 「ストーカーですか?」

 「まだ違う」

 「お友達ですよね?」

 「うん」

 「何がイヤなのですか?」

 「取り巻きの女の子の目が怖いの」

 「それは彼らのせいじゃないですよね?」

 「お友達は選びたい」

 「そんなにイヤなら、しばきますか」

 「しばくのはダメ」


 高島がぐずっている私を車から降ろしてくれた。


 「しばらく様子を見て何かあるようなら相談しましょう」


 高島が背中をさすってくれた。

 寺森が高島に何があったのか聞いているみたい。大事にならないと良いんだけど。


 お夕食の時に珍しくお母様がご一緒だ。新規のお仕事が一段落したからこれからは早く帰ってくるんだって。


 「愛梨花ちゃん幼稚園は慣れたかしら?」


 食後のお茶を飲みながらお母様が聞いてきた。


 「お友達出来たの。すみれちゃんって言うの」

 「他に何か困った事は無い?大丈夫?」


 お母様が心配そうにこちらを伺っている。今日のことかな?


 「しつこい子がいて困っているの」


 俯きながら言うとお母様が。


 「まぁ、なんていう子なの?あまりしつこかったらお母様が言うわ」


 おお!ここに救いの神がいた。是非お願いしたい。


 「西園寺虎太郎君と花巻翔君」


 キラキラした笑顔で得意げに言う。これで関わりは無くなるよん。


 「えっ!西園寺様と花巻様と仲良くなったの?」


 お母様が驚いたように両手を合わせると嬉しそうに言ってきた。

 (んっ?何か違う?)


 「仲良くは無いけど普通な感じ」


 私は迷惑しているのだけど言い出せる雰囲気では無いよ~

 本当は関わりたくないんだけど。


 「今度遊びに来て貰ったら?」

 「へっ?」


 思わず変な声が出てしまった。ここは適当に相づちを打っておこう。誘うことは無いけどわかりゃしないしもの。

 そこへ家庭教師が終わったお兄様がリビングに入ってきた。


 「愛梨花、龍一郎から」


 お兄様がくれたのは封筒に入ったカード?


 「なあに?」


 私が不思議そうにしてると


 「ああ、東郷寺家主催のクリスマス会の招待状。龍一郎の誕生会も兼ねるらしい。僕も貰ったから、おまけだろう」

 「お兄様は行くの?」

 「ああ、愛梨花は小さいから行っても面白くないんじゃないか」

 「行ってもいいの?」


 お兄様は困ったようにお母様の顔を見る。お母様はこれまた嬉しそうに笑った。


 「まぁ!素敵ね。是非一緒に行ってらっしゃい」


 お兄様は仕方なさそうに頷いた。


 「12月23日土曜日だから」


 それだけ言うと部屋へ行ってしまった。素っ気ない後ろ姿に寂しさを感じる。

 前世は長女だったから、お兄ちゃんには憧れがあった。お兄ちゃんのいる子がうらやましかったんだ。少しずつ仲良くなれると良いんだけどなぁ。


 ところで、大きくなってもお誕生会するんだね!楽しみ。


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