89 優しい眼差しにドキッ!
お祖父様から手渡された”夏休み盛り上げ計画書”
まずはクルーズ船にて花火を見学その後は北海道へ向けて出港。船上にて輪投げ大会など毎日ゲーム開催。浴衣パーティーもあるみたいで浴衣必要となっていた。詳細は乗船してからのお楽しみ。
参加者は、お祖父様、高島(護衛)私、東郷寺のお祖父様、龍一郎君、虎太郎君と虎太郎君のご両親。神馬兄弟は北海道から合流。
その他のメンバーは西園寺様の会社スタッフ。社内旅行も兼ねて平日は船上で仕事をするらしい。寄港地で社員も入れ替わるみたい。
その後10日ほどで各地をまわり横浜へ戻ると一泊横浜散策をしてから軽井沢へ。ここへは虎太郎君一家と私と高島(運転手兼護衛)龍一郎君はヨーロッパへ神馬兄弟は帰宅となっていた。
計画書から顔を上げるとお祖父様にお礼を言った。
「お祖父様お忙しいのにありがとう」
「良いんだ。それにしても愛梨花は人気者だな」
お祖父様は破顔すると私を抱き上げてくれた。
そうかな?人気ものなんかじゃないと思う。少しは皆の印象が良くなったのかな?そんな風に思いながら首を傾げてた。
「ん、どうかしたか?」
「人気者じゃないけれど、皆、優しい」
お祖父様の肩にくっつくと優しく背中をポンポンしてくれた。自分の家族には思うところもあるけれど、周りの人には恵まれている。
前世なんてもっと一人ぼっちだった。少しでも皆の役に立てるように頑張っていこう。
今世の目標は周りの人を大切にしていく事。
♢ ♢ ♢
「ねぇ千鶴、私は浴衣なんて持っているの?」
持ち物に浴衣って書いてあった。1人で着られない。
「ああ、確か去年の七夕でお召しになっていましたよ。出しておきますね」
「千鶴も一緒に行くんでしょう?」
「もちろんですよ、お世話させて頂きますね」
良かった。浴衣なんて1人じゃ着られないもの。西園寺様の会社の方も来るぐらいだから社員OKなんだ。貸し切りクルーズ船なんて本当に凄い。
卒園旅行の時は色々あって何だか緊張してしまった。子供だけだったし、くつろげなかったというか、楽しかったのだけど幼稚園生だからね。
もう少し大きければ子供同士の方が楽しいんだとは思う。皆の面倒を見なきゃと言う気持ちの方が大きくてリラックスできなかったんだ。やっぱりお祖父様がいると安心感が違う。
子供だから荷物や準備は全て千鶴や高島にお任せ。終業式も終わり1度家に帰ってからワクワクしながら港に向かう。
ちなみにこの学校は成績表は1年単位だから通信簿なんてもらわない。学年末にもらうらしい。今から体育の評価が気になるけど心配しても仕方ないしね。
クルーズ船は最高級の部類で全室スイートルームの中型船。昔で言う一等船室エリアと二等船室エリアに分かれていて、前回乗ったのは二等船室エリア。
今回は一等船室エリアなのでカードキーがないと入れないエリアとなっているらしい。デッキも別でプールやアクティビティも別。
エレベーターも別だった。カードキーをかざさないと乗れないらしい。カードキーをもらったら、首からいつも提げているように言われた。なくすとどこにも行けないって。トイレで流さないように気をつけなきゃね!
特にセキュリティ強化しているから前回とは大分違うらしい。高島が”前回のことがあったので内装から全部作り直したらしいですよ”と教えてくれた。さすが、西園寺様。
高島は2日前からクルーズ船の警備をチェックしていて、千鶴もクルーズスタッフの研修から参加していた。意気込みが半端なかった。若干引き気味の私だ。
乗船を待つウエルカムロビーで龍一郎君と東郷寺のお祖父様が待っていた。虎太郎君達はオーナー特権でもう中に入っているらしい。
私を見つけると龍一郎君が迷子にならないようにと手を繋いでくれた。
幼稚園児じゃないよ。過保護な龍一郎君に、ちょっと頬が膨らんでしまう。
そんな私を優しくみつめる瞳と目が合った。心臓がドキッと小さくはねた。
女の子を優しく見つめるなんて危険だ。しかも龍一郎君はお母様似で美人顔。将来、いや、すでに女性の心を掴んでいるんだろうなぁ。背もすらりと伸びて足も長い。アイドル並みに格好良くなってきた。
首をプルプルと振る。頭の中から龍一郎君を追い払った。
今は小さい子の特権で近くにいるけれど大きくなったら近づかない方が良い。
「何を考えているのかな?」
しまった!龍一郎君は心眼の持ち主だった。慌てて首を振った。
「な、何でもないです。ただヨーロッパの出発伸ばしてしまって大丈夫なのかな?って」
話題を変えるに限るよね。すかさず疑問に思っていた事を聞いてみた。
「その事?母様がスケジュールを変えて一緒に行っているから問題はないよ。それだけかな?」
うっ、龍一郎君がごまかされない。
「龍一郎様が一緒で嬉しいなって思って……」
ちょっと恥ずかしかったけど小さな声で言ってみた。ドッキってした事は内緒だ。
「僕もだよ」
私の頭を撫でてくれた。何だか恥ずかしいよ~~~
船内に入ると私を見つけた虎太郎君が走ってきた。
「愛梨花ちゃん~~~」
龍一郎君を一瞥すると反対の手を取った。
「向こうでジュースが飲めるよ」
空気読まない虎太郎君にすくわれた。この何だか恥ずかしい雰囲気から逃れたい。
私は頷くと走り出そうとしてつまずいた。2人と手を繋いでいたから転ばなかったんだけれど虎太郎君があきれたような顔をしていた。
「愛梨花ちゃんは走らない方が良いよ」
ふん。私だってそのうち転ばなくなるからねっ!




