表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/114

8 あやめお姉様

 

 すみれちゃんの話を聞いているとやっぱりお姉様の帰宅が最近遅くお母様がピリピリしているみたいだ。

 何でもお父様がとても厳しくて時々言い争う声が聞こえてくるそう。

 すみれちゃんは家に帰りたくなくて図書室にギリギリまでいる。


 幼稚園生にこんなに気を遣わせるなんて、いかんせよ。


 取りあえず、すみれちゃんのお姉様の悪いお友達を何とかしなくちゃ。


 お姉様の写真は見せて貰った。お名前はあやめ様。

 小説では塾をサボったお姉様がコンビニで買い物をして近くの公園にいるところを悪い友達と仲良くなっていく。お金があるから、金づるみたいな感じで離してもらえず、深みにはまっていった。


 家の事を愚痴っていると、いっその事燃やしてしまえば良いよと、唆されて放火してしまうんだった。


 公園にたむろって居る不良がターゲット。仲間になる振りをして内部崩壊を目指す。

 5歳じゃ仲間は無理かぁ……自分の年齢が恨めしい。


 夜8時頃に何処かの公園にいるはず。大体、私1人だと外出は無理!高島を巻き込まないとダメだ。


 両親はその時間はまだ帰っていないし、お兄様は家庭教師が来ている。家族は家に居る限り私への関心は無い。好都合だ。となると、高島を餌付けするか……


 高島餌付け作戦開始。


 作戦その1 夜8時になると私にお休みの挨拶に来るように仕向ける。

       その時にきび団子をあげてお供にする作戦。いざ鬼ヶ島へGo


 幼稚園の行き帰りに何気なく普段のスケジュールを確認しておく。

 主に私の送り迎えが担当だから結構暇そうだ。業務時間外だけどスタンバイの日もあるみたい。本人に聞いて見よう。


 高島に夜寝る前に顔を見ないと不安で……と言うと凄く嬉しそうに見えないしっぽをブンブン振っている。一にも二にもなく毎日お顔を見に伺います。だって……良心が痛む。


 おやつ手作りするかなぁ~


 幼稚園から帰ると厨房にお邪魔しておやつの作り方を教わることにした。将来役に立つかも知れないし、前世でもお菓子作りは趣味だった。クマさんの顔を型抜きしながら高島の顔を思い起こす。


 これでお前はもう逃げられないのだ。悪い笑顔が浮かんでしまう。気分は薬を混ぜる魔女様だ。フフフ…


 餌付けは今日で3日目、そろそろ良いかな?あやめ様は今日も塾の日だとすみれちゃんに確認済み。

 その日夜の挨拶に来た高島にクッキーを渡すと洋服の裾を引っ張った。


 「今日幼稚園の宿題でコンビニに行かないといけないの忘れてしまって」


 困った顔をして高島の顔を覗き込む。


 「あっ、ついでなので買っておきますよ。何がいりますか?」


 高島がニコニコしながら答えてくれた。


 「名前が思い出せないけど行けばわかると思うの」


 私がうつむきながら言う。女優してます。


 「なるほど、まぁそこのコンビニまでなら直ぐですから行きますか?」


 やったあ!高島チョロいよ!

 私は頷くと急いでコートを取って千鶴にコンビニのプリペイドカードを出して貰った。

 不審な顔の千鶴に高島と一緒だからと念を押していざ出発。

 家を出ると高島に、公園の近くのコンビニに行くよう指示を出す。幼稚園の指定だから仕方が無いと言っておく。嘘だピョン。


 公園の前を通った時数人の子供がたむろしているのが見えた。ここだ。間違いない。


 コンビニの駐車場で降りると見回りの巡査に声を掛けられた。


 「先輩?高島先輩じゃないですか!」

 「おう、田中か!今ここが担当なのか?」


 高島が車のドアを閉めながらお巡りさんと話し出した。知り合いなの?


 「そうですよ!先輩がSP辞めたと聞いてびっくりしましたよ」


 お巡りさんは自転車を止めるとこちらへ来た。私と目が合う。


 「先輩、いつの間にこんな可愛いお子様が出来たんですか?もしかして奥さん日本人じゃ無い?」

 「バカ言うな、まだ独身だ。勤務先のお嬢様だ」


 高島が赤くなりながら頭をかいている。


 「初めまして、月光院愛梨花です」


 私はピョコンとお辞儀した。


 「高島先輩の後輩で田中です。駅前の交番に勤務しているからよろしくね」

 「いやぁ可愛いな、知らない人について行ったらダメだよ」


 そう言うと私の頭を撫でてくれた。


 「いつもこのあたりを見回っているんですか?」


 心強い味方が出来たかも知れない。


 「そうだよ。何か困ったことがあれば言ってね」

 「じゃあまた」


 そう言うと片手をあげてコンビニに入って行った。

 高島SPだったの?SPと言えば警察官の中でもエリート中のエリートだ。

 泣き叫んでいた高島を思い出した。無いな。心の中で首を振る。視線を感じた高島がこちらを向いた。


 「お嬢様どうしました?」


 毛虫みたいなモジャモジャ眉毛が八の字になっている。聞き間違いだね、この顔にSPは無理だ。SPは冷静沈着キリッとしてないとね!


 「何でも無いの。お巡りさんは後輩なの?」


 高島を見上げながら聞くと短く頷いた。


 「そんな事より、お嬢様早く買わないと遅くなりますよ」


 いけない、いけないミッションこなさないと。

 高島には、あんまんと肉まんを買って貰うようにお願いした。公園のブランコで食べるんだ。

 高島は怪訝な顔をしながら買ってくれた。


 「お嬢様、幼稚園の宿題はありましたか?」

 「ううん。何だったか思い出せなくて……」


 困ったようにうつむいた。女優してます。


 「思い出せるまで近くの公園に行っても良い?」

 「いやぁもう真っ暗ですからお化けが出ますよ」


 おいおい普通信じないでしょ!でもそれに乗ってあげようじゃないですか。


 「えっ?本当?みたい!みたい!」


 キラキラの笑顔で見上げると、高島はしまった!と言う顔をしたけど手遅れだもん。お嬢様の手のひらの上だよ。フフフ……


 「あっ、今はいないかも知れませんよ」


 慌てて手を振る。遅いんだな気がつくのが君。

 何だかんだ言いながらも結局高島が居るから安心だわと言う私の一言で気をよくして公園に連れてきてくれた。


 ブランコの方に向かう高島を尻目に、私は一目散で反対側の中学生の集団へ突撃する。何だか不穏な感じだ。

 「いまさら行きませんは無いんじゃねえ?」


 怒鳴り声が聞こえた。金髪の女の子があやめ様と覚しき人を蹴った。


 やだ、リンチとかになっちゃう。私は焦ってあやめ様に飛びついた。


 あやめ様は驚いたように私を見る。


 「何だあ?このガキは」


 金髪頭に後ろからムンズと捕まれてあっと言う間にはがされた。砂利の上にころがされていると


 「こらあ!お前ら何してる!!!」


 ドスのきいた怒鳴り声がしてびびって振り向いたら、向こうから高島が猛スピードで走ってくる。

 おお声でかい。私は必死であやめ様の足にしがみついた。


 「やべえ、行くぞ」


 くもの子を散らすようにちりぢりに子供達が走り去って行った。


 「お嬢様、大丈夫ですか?」


 駆けつけた高島に抱き上げられて、洋服に付いた泥を払って貰った。


 「こちらは?」


 私を抱いたまま、しゃがみ込んでいたあやめ様に手を貸すと立たせてくれた。


 「お友達のお姉様であやめ様」


 高島に降ろして貰ってあやめ様にご挨拶をする。


 「初めまして、月光院愛梨花です。すみれちゃんにいつもお世話になっています」

 「すみれのお友達?こんな時間に何しているの?」


 イヤイヤあなたも同じじゃ無いですかね?私は少なくとも護衛付いてますけど。私があきれていると、


 「君は中学生だよね?君こそこんな所で何をしているのかな?」


 高島が突っ込んでくれた。

 その時キィーッと自転車のブレーキの音がして振り向くと先ほど会ったお巡りさんがこちらを見ていた。


 「何かありましたか?中学生がこちらから走って逃げて来ましたが」

 「大丈夫です。お嬢様が転んだだけなんで」


 高島がそう言って片手をあげればお巡りさんも片手をあげて去って行く。友達っぽくて良い感じ。


 「帰りますよ」


 逃がしませんよという感じで抱き上げられて私も観念した。お膝すりむいてヒリヒリするしね。


 「あやめ様も送ってあげて、もう遅いから」

 「そうですね、あいつらが待ち伏せしているとも限らないですからね」


 あやめ様は迷っていたみたいだけど高島に即されて車に乗ってくれた。すみれちゃんの家の近くに車を止めてあやめお姉様がお家に入るのを見届けると高島が何か言いたそうにこちらを見た。

 まずい、何か話をそらさなければ……


 「高島肉まんとあんまんは?」


 高島は上着のポケットから袋を取り出した。ペチャンコになってる。つぶれてるよ!


 「それあげるね」


 高島は袋を一瞥するとさっさと横に置いた。


 「お嬢様そんなことより何故あやめ様があの公園にいると?」


 高島が低い声でとがめるように言う。普段穏やかなだけに怖いんだけど。


 「幼稚園ですみれちゃんが公園にいると言ってたから、いるかな?と思って」

 「これからは、先に言って下さい。危ないじゃ無いですか」


 うわっ!珍しく高島がお説教モードに入った。

 ここは、すかさず膝小僧をめくる。


 「血が出て痛いの!」


 目に涙をためて下から高島を見上げる。首もこてんと傾けて。


 「お嬢様!怪我をしているじゃ無いですか!病院に行きます」


 高島が私の膝小僧に目をとめると慌てて前を向いて車を発車させた。

 急発進危ないから、違うから、病院行くレベルじゃ無いから。


 「お家に早く帰りたいの」


 高島の首に後部座席から抱きつくと、ようやく落ち着いて家に向かってくれた。


 「運転中は危ないから止めて下さい」


 何故か耳まで赤くなりながら言ってた。首しめちゃったかな?ごめんなさい。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ