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70 白い壁はきらい。


 届いたパフェは3つあったから3人でパフェタイムとなった。さすがなんでもお見通しの龍一郎君だ。


 でもお店で食べられないのは残念だった。龍一郎君の話では、なんでもフルーツパフェが有名なパーラーだって。メニューを見て、色々自分で選ぶところからやってみたい。


 「お店にも行ってみたいな」

 「今度行こうね」


 うふっ、龍一郎君が誘ってくれる。私は頷くと、疑問に思っていた事を聞いてみる。


 「あのぉ~、私は何故病院に居るの?」


 龍一郎君と高島が顔を見合わせて固まった。んっ?これは何か私に言えない事がある?


 「愛梨花ちゃんはどこまで覚えているの?」


 これはお医者様にも聞かれた。


 「ブティックで試着室に戻ろうとして、階段を降りた?」

 「その後は迷子になっていたんだけれど、覚えている?」


 迷子?何故?私は首を振った。


 頭でもぶつけたのだろうか?お医者様は大丈夫って言ってたけれど。思わず頭に手をやった。


 「皆、心配して探したんだ。倒れているのを見つけたから、病院にいるんだよ」


 あのお店で迷子になる?無いよね。何か隠しているんだろうか?幼稚園の書庫みたいに閉じ込められたとか?


 龍一郎君の気遣う様な眼差しと目が合った。心配をかけていたんだと思った。今はあまり色々聞かない方が良いのかも知れないな。


 「龍一郎君の家に早く帰りたい。今日帰れる?」

 「先生の許可が出ればね」

 「病院に居るのは、もういやなの。一人ぼっちだし、許可が出れば良いのね」


 ベッドの脇にあるナースコールを押した。隣で高島が慌てた顔をしている。枕元のスピーカーから看護師さんの声が聞こえた。


 ”はい、ナースステーションです。どうされましたか?”

 「退院します」

 ”はいっ?少しお待ち下さい”


 「え、愛梨花ちゃん勝手に押したらダメだよ」


 龍一郎君が私からナースコールを取りあげた。


 しばらくするといつものお医者様と看護師さんが病室にやって来た。お祖父様はいなかった。しめしめ。


 「どうしましたか?」

 「そろそろ帰ろうと思うの」


 先生はおやっと言うように龍一郎君をみた。


 「病室にいると不安になるみたいで、帰りたいと」


 おお、龍一郎君が味方になってくれる。ここは女優を発揮せねば。頑張って俯いて泣きそうな感じを出してみた。


 「そ、そうなんです。白い壁がお化けみたいで怖くて……」

 「壁が、ですか……」

 「そうなの。迫ってきて……」


 そう言いながら両手で自分を抱きしめてブルッと震えてみた。するとベッドの脇から腕が伸びてきてフワッと身体が浮いた。高島が私を抱き上げている。


 「お嬢様、大丈夫です。自分が守りますから」


 オイオイ、君がだまされてどうするんだ。

 確かに、昔から敵を欺くには味方からと言うよ、でもね~~~


 龍一郎君に視線を投げれば向こうをむいて肩をふるわせていた。笑われています。


 先生は看護師さんに体温と血圧のチェックを指示していた。何故か小さい子のように高島の膝の上で先生の聴診器をあてられている。もう直ぐ小学生なんですけれど。


 先生は大きくため息をつくとしばらく何かを考えていた。


 「まあ、今日は精神的にも疲れていると思うから、慣れた所の方が良いかな。体調に変化があれば直ぐに言うように。良いね」


 龍一郎君の顔を見れば”良かったね”と頷いてくれた。やったあ!帰れる。心の中でガッツポーズをとる。


 「月光院様にはこちらから連絡を入れておくから」

 「ありがとうございます」


 満面の笑顔で先生に笑いかけてしまった。先生は苦笑していた。


 しまった。最後の詰めが甘かった。とにかく帰らせてもらえた。良かった。


 東郷寺家へ着くともう夜だというのに、お祖父様達やお父様達男性陣は誰もいなかった。お母様達と雪二郎君に虎太郎君が大量のお洋服と共に待っていた。なんでもブティックからお詫びに頂いた物だそうだ。誰が着るのかな?


 「愛梨花ちゃん、もう大丈夫?心配したよ」


 私の顔を見るなり虎太郎君が飛びついてきた。


 「お腹すいたでしょう。ご飯にしましょうね」


 皆の顔を見るとホッとして涙が出てきた。


 「あらあら」

 

 虎太郎君のお母様がぎゅうっとハグしてくれた。虎太郎君のお母様の声も涙ぐんでいる。


 「お腹すいたの」


 やっとそれだけ言った。


 皆が暖かかくて、嬉しかった。

 

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