表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/113

7 幼稚園


 退院しました。


 取りあえず懸念事項はお祖父様達にお願いしちゃった。

 一泣きしたらスッキリさわやか。


 明日からいよいよ幼稚園です。久しぶりというか初めて……

 覚えていないけど大丈夫かなぁ?お母様に言ったら心配しなくていいって。


 光の星幼稚園はセレブが通う有名幼稚園。


 実は制服が凝っていて可愛いの。多分有名デザイナーのなんだろうな。


 濃いグレーのジャンパースカートで生地に赤色の糸が入っていて、白のシャツに女の子はワインレッドと濃いグレーの斜めストライプのネクタイ。男の子は紺色とグレーのストライプのネクタイなんだって。上着はブレザータイプのジャケットでウエストが絞られている。そしてベレー帽。鞄は紺色のリュック型だ。


 テンション上がっちゃう。お姉様はいじめっ子成敗しちゃうよ!


 ワクワクしながら幼稚園に着くと、そこはホテルのように入り口まですっと車が入った。警備員さんも立っていて幼稚園の雰囲気では無い。


 一見何の変哲も無い四角い建物だけど中に入ってアングリと口を開けて固まってしまった。


 エントランスホールは吹き抜けになっていて中はガラス張りのスケルトン。

 中庭を囲むような四角い建物になっている。柱は木の形で葉っぱが多い茂っている。机と椅子は切り株とキノコだ。


 まるで森に迷い込んだ小人さん。


 (何ここ、可愛い……)


 お母様にポンと背中を叩かれて我に返った。


 「お教室はわかる?」


 私は首を振る。

 お母様はバラ組と書かれた教室の前で先生に私を引き渡すとさっさと仕事に向かった。


 担任の先生は20代後半の女性で有香子先生。ストレートのロングヘアを後ろで1つに結んでいる。私が何も覚えていないのを聞いてるみたいで席まで案内してくれた。


 一通り説明を受けた後、席に着いた。

 今さら学ぶことも無いなぁと思いつつ1日クラスの様子を眺めていた。いくつかのグループが出来ているみたいで、それぞれが休み時間になると誘い合って遊びに出て行く。


 何となくチラチラ視線は来るんだけども、誰も声を掛けてこない?


 お互い様子見?


 9月の末からお休みしてるから忘れられてしまっているのかな?


 それとも私、もしかしてお友達いなかった?


 あっと言う間にお昼になり給食も終わると帰る前には、おやつの時間。

 ここで焼いているクッキーが紅茶と共に出てきた。


 えっ、嬉しいかも!ちょっと沈んでた気分も上がっちゃう。


 おやつの後は帰宅する子もいれば、引き続き幼稚園で開催されているピアノやバイオリン、お絵かき教室などのお稽古に行く子もいた。希望すれば習えるらしい。


 私も何か習っていたのかなぁ……お教室でポツンとしていると、先生がお迎えの人が来るまでは好きにしていて良いとの事で図書室で本を読むことにした。


 図書室は中2階にあってテラスから中庭にも降りられる。

 大きな窓からはお日様の光が木漏れ日になり差し込んでいた。床に映る光がゆらゆらしている。のんびりとした午後の一時だ。


 読み終わった本を戻そうとして、奥の机にいるおかっぱ頭の女の子が気になった。本のページがずっと同じままだったから。


 どうしたのかな?そう思って、隣に座ると声を掛けた。


 「初めまして、私は月光院愛梨花です。あなたとは同じクラス?」


 私が言うとその子はちょっと驚いたように私を見た。


 「先生が愛梨花ちゃんは何も覚えていないって言ってたけど本当なんだ!」


 先生は園児達にお話ししてくれてたらしい。


 「忘れてしまってごめんなさい」


 本当に覚えて無くてごまかせないもの。


 「私は春野すみれ。思い出せない?」


 私は首を傾げた。聞き覚えはある。


 「春野すみれちゃん?もしかしてお父様は歯医者さん?」

 「覚えている?」


 すみれちゃんが期待を込めた瞳でこちらを見る。

 私は首を振る。覚えているわけでは無い。でも春野さんは小説に出てきた。


 お家が歯医者で3姉妹。1番上のお姉様がたしか15歳。国立付属中学に行っているのだけど付属高校進学が難しくノイローゼになってしまい自宅に火を付けて火事になるんだ。悪い友達に唆されて放火してしまうんだった。

 丁度12月で年末なのに大変だとお母様方が寄付を集める。そんなエピソードがあった。


 まだ11月初め、火事にはなっていないはず。


 「すみれちゃんのお姉様と私のお兄様は同い年?」

 「2番目の姉の事?中学生だから違うと思うけど」


 そうか違うのか、少しでも仲良くなってお姉様の情報をチェックしたいんだけどなぁ。


 「あの……お友達になってくれたりする?」

 「えっ?」


 すみれちゃんは意外な事を聞かれたみたいで驚いた様子だ。

 私達仲良く無かったのかな?小説ではそこまで細かく書いていなかったから。


 「色々忘れてしまったし……」


 しどろもどろの言い訳をする。


 「私の事嫌いでしょう?トロイとか言ってた」


 やだ、そんな事を言ってたんだ。まずいわ。


 「ごめんなさい。そんな事を言ってたのね、もう2度と言わないわ許してくれる?」


 私が謝るとすみれちゃんは笑いながら手を振った。


 「いいよ、前のことだから」

 「ありがとう」


 ところで私、いじめっ子だったの?聞くに聞けない……


 それから数日、幼稚園のお昼休みはすみれちゃんと過ごしている。


 他の子達は誰も近づいてこない。ん~お友達いなかったのかなぁ~


 最近よく過ごしている場所は中庭の角にある小さなお家だ。

 丸太小屋風で中には木で出来た机に椅子、キッチンセットや食器などのおままごとセットが置いてある。

 こんな小さなお家が幼稚園の中に何カ所かあって、ここは誰も来ないのでお気に入りだ。

 森の小人になった気分。


 「ねぇ、すみれちゃん、私って前は誰と遊んでいたの?お友達いたの?」


 私が気になっていることを聞くとすみれちゃんは困ったように笑った。


 すみれちゃんは今まで私とはあまり話した事が無かったんだそう。よく知らないから、と何度も念を押された。

 きっと良い話じゃ無いな、自分のことを聞くのは少し勇気がいる。


 以前の私はお洋服が汚れるからイヤだと園庭には出ないでホールにいることが多かったと言う。

 お友達と言うか取り巻きみたいな子がいて、良く呼びつけては色々やらせていたらしい……すみれちゃんは遠慮がちに言う。


 私、一体何をやらせていたんだ?


 幼稚園生でそれって、将来怖いんですけど……それにしても誰も声を掛けて来ないなんて……


 すみれちゃんの話によると、多分皆いつ呼び出しが来るのかとビクビクしているんじゃ無いかって。


 え~~~私、番長じゃありません!過去の自分の行いに、知らない事とは言え頭を抱えたくなった。


 皆が昔の事を忘れてくれるまで静かに大人しくしていようっと。


 私は小心物なの。


 そう言ったらすみれちゃん、笑い転げてた。何故?





 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ