69 龍一郎
愛梨花ちゃんと出会ってからは実に色々な事があった。
一言では言い表せない。
愛梨花ちゃんは巻き込まれ体質とでも言うのだろうか?周りでは次々と事件が起こっていく。
お人形の様に可愛らしくて小動物のように愛らしい。それでいて洞察力に優れていて思慮深い。わずか6歳の女の子がだ。信じられない気持ちで日々過ごしている。
いつの間にか愛梨花ちゃんの事ばかりを考えて、一緒にいれば目で追ってしまう。目が離せないんだ。
それなのに1人で試着室に行かせてしまった。安全だと思い込んでいたんだ。
中々戻ってこないからお店の人に聞いて見れば、試着室には案内していないという。母様達は急におろおろして父様達に電話をかけていた。
僕はいても立ってもいられず、取りあえず防犯カメラを見させてもらった。通用口に黒塗りの車がつけられて子供が連れ込まれている様子が確認できた。
まずい。誘拐じゃないか。背筋が寒くなりいっきに青ざめた。
人生で初めて後悔の念が押し寄せてきた。何故一緒に行かなかったのかと……
違う、今一番大事なのは感傷に浸る事じゃ無い。愛梨花ちゃんならきっと次々と手を打っていくんだ。しっかりしなきゃ。
顔を上げると防犯カメラの映像を見ながら、ポケットから携帯を取りだした。手の震えが止まらない。なんとか携帯を操作してお祖父様に連絡をした。
警察が来るまで待機することになった。5分もかからなかったのかも知れないがもの凄く長く感じた。まるで時間が止まったみたいだった。
最初に駆けつけたお巡りさんは頼りにならなかった。いつもの刑事さんとはえらく違うぞ。防犯カメラの映像を見るように言ったのに、”上司が来ないと・・・・・”
はあっ?時間との闘いじゃ無いのか?大丈夫か日本の警察。無性に腹が立った。
案の定彼らが防犯カメラの映像を確認したときに、その映像は残っていなかった。どのカメラにも問題の時刻の映像はなかった。
映像を見た僕が車のナンバープレートを覚えていたので、父様がそれをいつもの刑事さんに伝えた。僕達兄弟が誘拐されそうになった時からお世話になっている刑事さんだ。高島先生とも仲が良いみたいだ。
頼りない警察には任せられない。そう思い、高島先生に連絡を取る。
携帯電話から落ち着いた低い声が聞こえてくると、涙が出そうになった。泣いている場合なんかじゃないんだ。
慌てた声の高島先生が愛梨花ちゃんがどんな髪飾りを付けていたか聞いてきた。
んっ?どう言う事だ?高島先生が心配のあまり壊れたか……
すると高島先生が愛梨花ちゃんのリボンにGPSをつけていたことがわかった。さすがだ!
今日はそのリボンをつけていたかって?それは一体どんなリボンなんだ?わからない。すると携帯でGPSの移動を確認してくれた。
”GPSの移動が確認出来た!”電話の向こうから興奮した声が聞こえた。
良かった!これで早く解決できるかも知れない。少しだけどホッとした。でもまだ油断は禁物だ。愛梨花ちゃんが戻って元気な笑顔を見るまでは安心できない。
東郷寺、西園寺、月光院と動けば警察どころか、軍や国までも動かせそうだ、とは思っていた。
あっという間に空港、港、主要幹線道路が封鎖されて検問が敷かれたと、お祖父様から連絡をもらった時は、正直そこまでとは思っていなかった。
ウソだろ?僕もビックリだ。国民も何が起こっているのかと思っているに違いない。
警察の特殊部隊がGPSで示された屋敷に行ってみればそこはもぬけの殻で、愛梨花ちゃんが倒れていたらしい。
犯人は誘拐したのに何で愛梨花ちゃんを連れて行かなかった?
何か事情があったのか?疑問が残る。
僕達は連絡を受けて直ぐに病院へ行った。母様達は安心して泣きじゃくっていた。人は安心する方が涙が出るんだね。
大人数だと愛梨花ちゃんも驚くからと僕と月光院様以外は家に帰らされた。
これは妥当な判断だと思う。泣きじゃくる母様達を見たら逆に驚くよな、世界の終わりが来たのかと思うかも知れない。
雪二郎と虎太郎には愛梨花ちゃんが体調不良で今日は病院に泊まることになったと伝えたみたいだ。
こんな事になっても愛梨花ちゃんの家族は何も知らされず、逆に知ったからと言って何かをする訳でも無いらしい。保護者はお祖父様に代わっていらっしゃるからお任せなんだそうだ。
複雑な家庭環境だな、貴志がもう少ししっかりすれば良いようにも思う。
病室で見た愛梨花ちゃんは、あどけない寝顔で頼りなかった。守ってあげないといけない。心から強い思いがわいてきた。こんなに小さいんだ。顔なんて僕の手のひらぐらいじゃないか。小さな手を握りしめてそう思う。
雪二郎とは違う。雪二郎も可愛い弟だ。兄として守ってやりたいとも思うが、導かねばという思いもある。男同士だからだろうか?
愛梨花ちゃんは守らなければという思いの方が強い。小さな女の子だからだろうか?
父様や虎太郎の父様は警察やお店との事情徴収に行ってしまった。なんでも公に出来ない事があるらしい。
父様がこっそり教えてくれたのは、今回、日本を訪問中の王族が関係しているかもとのことだった。国際問題が絡んでいるからとてもセンシティブな事案だと言っていた。
愛梨花ちゃんは何だってそんな事に巻き込まれているんだ。
何はともあれ無事で良かった。
目覚めた愛梨花ちゃんは何も覚えてはいなかった。犯人の手がかりは無くなってしまうかも知れないが、僕はその方が良かったと思った。
怖い思いなんてして欲しくなかった。覚えていないなら、何も知らないならその方がいいんだ。
高島先生がやって来て愛梨花ちゃんの手のひらの上で転がされている。ちなみに高島先生は僕の空手の師匠で愛梨花ちゃんの運転手だ。
愛梨花ちゃんはおじさまキラーなのか。少なくとも高島先生は愛梨花ちゃんにメロメロだ。僕をはじき飛ばして抱き上げていた。そう言えば我が家のお祖父様もメロメロになっている。皆、小さい子が好きなのか?
めずらしく愛梨花ちゃんが泣いてパフェを欲しがった。病院を抜け出そうかと思ったが、さすがにそれはまずいと思いなおした。デリバリーを頼んだ。愛梨花ちゃんと行こうと思っていたお店のだ。
愛梨花ちゃんがパフェを食べる姿はとっても可愛い。
まもなくデリバリーが届く。
一緒に食べれば最高に美味しいと思う。




