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6 お祖父様達


 正直子供の事などあまり興味は無かった。


 今までの人生は仕事一筋だ。


 子供の教育などは教師の仕事だと思っていた。

 そのせいなのか子供達はぼんくら揃いだ。女の尻ばかり追いかけておる。


 流石にこれではいけないと思い孫の教育は厳しくした。

 

 おかげで孫は怖がって誰も寄りつかない。


 次男の所は、長男は優秀だが娘は我が儘だと聞いていた。どうせ女子は嫁に行くのだから関係ないだろうと気にとめなかった。


 ある日幼馴染みの東郷寺から礼を言われた。何でも孫が誘拐犯を上げるのに一役買ったという。


 そんな子も居たのか、どの子か聞いて見れば一番小さい孫では無いか。何かの間違いかと思った。まだ五歳の子に何が出来よう。


 見舞に行くというから一緒に行ってみる事にした。


 (どれどれ、どんな顔か見てみよう)


 そんな軽い気持ちだった。ところがとんでもない事を言いおった。自分が産院で取り違えられたなどと。

 今時あり得るはずが無かろう。そこいらの病院とは違い特別な病院だ。管理も行き届いているのだから。ましてや赤子本人にわかるはずなど有るまい。


 しかし話を聞いて見ると筋は通っている。すでに誘拐があっただけに、夢だと簡単に片付ける訳にもいかず東郷寺と相談の上調べてみる事にした。こういう事は後になるほど取り返しが付かなくなるのは事実だからな。


 愛梨花は聞き及んでいたのとは違い、聡明な子であった。真っ直ぐで勇気があり他人を思いやる心を持っている。今回の事も、もし血がつながっていないなら、自分は場違いなのではないかとの懸念からだった。


 (さてとこれからどうするかな……)


 見舞い帰りの車中は二人とも言葉が無い。


 「万が一血がつながっていないからと月光院家を追い出すのであれば、うちの戸籍に入れよう」


 隣で東郷寺が腕を組みながらとんでもないことを言ってきた。


 「いいや、何があろうと愛梨花は月光院の子だ」


 慌てた。そんなことは考えていない。


 「だがあの夫婦には言えないだろう?」


 確かに次男夫婦はプライドばかりが高く、目先の物事にとらわれやすい。

 

 事実であれば受け止めるのは難しいだろう。


 我々に相談した愛梨花は人を見る目も確かなようだ。手放すことなど出来るはずも無い。


 「事実がどうあれ、愛梨花の居場所は譲らないぞ。そのための手は打たねばならないな」


 そう言えばこの間、相続税対策で孫を1人養子に迎える話が出ていたな。弁護士に手配させておくか。


 「そうか、ならば出来る事は何でもしよう。将来、東郷寺家に貰うかも知れないからな」


 東郷寺が笑いながら言う。


 「そう易々とやらんぞ」


 旧友の肩を叩いた。

 昔から気に入らない奴だった。何でも張り合った。だが一番頼りになる事は変わらない。


 生涯の友、そんな言葉が頭をよぎった。


 「久々に昔話がしたいな」

 「ああ、そうだな」


 学生時代に行った居酒屋が懐かしい。今夜は飲み明かそう。



   ・・・・・♢・・・・・♢・・・・・♢・・・・・


 

 「お祖父様、ただ今戻りました」


 玄関から孫達が元気よく駆け寄ってきた。

 昨日は誘拐されたと聞いて、肝を冷やした。


 「無事で何よりだ」


 二人の頭を撫でてやる。


 「お祖父様は月光院様をご存じでしょうか?」


 龍一郎が何か言いたそうだ。


 「知っておる。一緒に掠われた子であったか?」


 確かそう報告を受けている。その子の護衛が通報してくれて無事であったと


 「齋藤は大丈夫?」


 雪二郎が心配そうに聞いてきた。


 「一命は取り留めたが、まだICUに入っているから見舞いは難しいな。そんな事よりも、ゆっくりしなさい」

 「愛梨花ちゃんが助けてくれたんだ。まだ入院しているからお見舞いに行っても良いでしょうか?」

 「兄様、僕も行く!」


 雪二郎が龍一郎の袖を引っ張った。


 「そうかそうか。では母に相談しなさい見舞いは手配はしておこう」


 そうは言った。


 確かに言った。


 数日後、やけに屋敷が静かな事が気になった。

 ここの所、孫二人の姿を見かけない。

 執事の君島に聞いて見ると、見舞いに行っていると言う。毎日学校から直行して夕食を食べてから帰って来るとの事だ。


 ん?見舞いの度が過ぎるのでは無いか?


 早速帰ってきた龍一郎を捕まえた。


 「月光院の娘はどうだ?」

 「可愛いですよ」


 嬉しそうに言う。

 違う、そう言う事を聞いているのでは無い。


 「具合はどうなのだ?」

 「お祖父様、その質問はお医者様にすべきかと」


 何だか生意気なやつだ。話がかみ合わない。


 「元気なのか、どうなんだ」

 「元気そうですが、今日もデザート2個食べてましたよ」


 龍一郎が階段を駆け上がっていく。


 「それは食いしん坊なだけでは?」


 聞いてないな浮かれおって、デザート2個ではよくわからないでは無いか。

 これは自分で行くしかないな。久しぶりに月光院に会うか……


           ♢   ♢   ♢


 

 ………目の前で月光院の孫娘が泣いている。自分が本当の子では無いというのだ。取り違えられたのを夢で見たと。

 まだ五歳だから子供の戯言で済むはずなのだが……


 誘拐も夢で見たと言っていた。何処まで本当かはわからないが調べてみる必要はあるだろう。


 小さいのに他人を思いやる心を持っている。大きな瞳には意志の強さを秘めていた。月光院にはもったいないのでは無いか?龍一郎達も気に入ってるようだった。


 うちの子にするか……

 隣の月光院を見るが……そう簡単には手放してはくれないな。

 まあ良い、何かあればいつでも家で引き取ろう。そう心に決めた。


 まだじいじいは役に立ちそうだ。この先の人生が楽しみになった。


 月光院が今夜は飲み明かそうと誘ってきた。

 久しぶりだな。

 まだまだお前には負けないぞ。

 

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