47 乙女の事情
遊園地はあれからシステムメンテナンスのためにしばらくお休みとなるらしかった。
高島が言うには、トイレでの事は、やっぱり誘拐で間違いなかったそうだ。
私達が遊園地のサービスセンターを出た後、子供がいなくなったと飛び込んできた女性がいて。大騒ぎになったらしい。
高島が先に陰険メガネに写真と一緒に情報を送った。
陰険メガネは直ぐに遊園地の出入り口を封鎖したらしい。
陰険メガネは意外にも行動が早くて優秀なんだ。
何でも遊園地の出入り口が封鎖されて警察のチェックが入ったため、犯人は子供を置いて逃げたとの事だ。
犯人逮捕には至らなかったけど携帯があるから時間の問題だと言ってた。
良かった。
家ではお祖父様がもう幼稚園には行かなくて良いと言うのだ。
幼稚園の対応がよほど腹に据えかねたらしい。
”ふんっ、あんな幼稚園なんて一捻りだ”何て呟くお祖父様は嫌いだ。
すみれちゃんと会えなくなるのはイヤだし、書庫の本はまだまだ読みたい。
幼稚園に行けないならお祖父様とはご飯を食べないと言ったら、あっさりと来週からいけることになった。
お祖父様もチョロい。
今日はお祖父様とお夕飯を食べている。
「どうも愛梨花はトラブルに巻き込まれやすいな。お祓いでも行くか?」
真面目な顔でじっと見られて、視線を外す。
だいたい私はトラブルを全部回避しています。
よく考えてみて下さいお祖父様!
巻き込まれているのではなく解決しているんです。
言いたい。でも言えない。
私は知らんぷりしてデザートを食べる。今日はアップルパイにバニラアイスが添えてある。
お祓いなんて行きたくない。
足しびれそうだし、疲れそう。
そんな事よりもバレンタインデーに向けけて女子は忙しい。
お祖父様には自分の仕事をして欲しい。
「愛梨花?聞いているか?」
黙っていたらお祖父様がデザートのお皿を引っ張った。
顔を上げると悲しそうな顔をしている。
仕方ない。
「忙しいから行きたくなの」
「何が忙しいのか?」
お祖父様にバレンタインデーの話をしてもしかたがないしね。
「乙女の事情」
デザートのお皿を取り返して、口いっぱいにアップルパイを頬張った。
これ以上きいても無駄です。
お祖父様はおかしそうに笑った。
「その顔で乙女とはな」
むっ、失礼な!
もう口きかないし!
アップルパイのお皿をお祖父様から1番遠い席にずらした。椅子を降りると席を移動する。
お祖父様が慌てて椅子を引っ張った。
もう遅いもん
「悪かったパフェでも食べに行くか」
んっ?パフェ!
「パフェ食べる」
乙女はパフェが大好き!
もう夜の八時になるのにお祖父様はパフェを食べに連れてきてくれた。
お母様がいたら頭から角が出てるよね。幼稚園児は寝る時間だし。
やって来たのは、お祖父様と初めてディナーを食べた眺めの良いレストラン。
入り口には相変わらずのお子様はご遠慮下さいと出ている。
大丈夫?不安になってお祖父様の服を掴んだ。
ムーディな店内はカップルが多い。
お祖父様が眺めの良い窓際の席を選んだ。夜景が綺麗!
目立たないコーナーの席は丁度カウンターの影に隠れていて周りからは見えなかった。
お店の人が気を遣ってくれたのかな?
私はもちろんパフェ、お祖父様はワインとチーズにピクルスをオーダーした。
お祖父様に店員さんが何か小声でささやいた。
んっ?何だろう?
お祖父様はあきれたように笑った。
「わしらの事は言うでない」
店員さんは頷くと行ってしまった。
「お祖父様?どうしたの?」
「あっ、イヤ、知り合いが居ると言ってただけじゃ。会う気はないのでな」
いつになくモゴモゴ言うお祖父様が何だか怪しい。
「おっ、愛梨花、向こうにタワーが見えるぞ」
えっ?人の意識をそらせようとしている。ますます怪しい。
やたらと水を飲むし、後ろめたい事のある人の行動だ。
前世では大学で行動心理学も学んでいる。
大きな窓ガラスが店内の光を反射して鏡のようなっていた。
窓に映っている店内にある人物を見つけた。
ははん、これか、お祖父様が心配していたのは。
そこには女性と二人でワイングラスを傾けているお父様がいた。
女性は長い髪を肩まで下ろしていて30歳位だろうか。
お父様ったらまさかそのままホテルのお部屋に行くのでは?
ってか、いつの間にか日本に帰ってきてたの!!!
しかも、鼻の下伸ばして!
それに小説では、ハニートラップに引っかかたお父様とお母様の中が悪化して家庭崩壊のきっかけになるんだ。
自分は浮気しておいてお母様の浮気を疑うなんて言語道断。
許せません。
「お祖父様ごまかしてもダメです。お父様が絶賛浮気中です」
「ぶっ!!!」
お祖父様はグラスから飲んでいた水をふいた。慌ててナプキンで口を拭く。
「お祖父様、これから言う事を良く聞いて下さい」
お祖父様はナプキンで口を押さえながら私の作戦を黙って聞いてくれた。
これから私がお祖父様のことをパパと呼ぶこと、お父様の目の前に席を移動すること、以上。
「愛梨花、いつの間にそんな事を……何を考えているんじゃ……」
お祖父様は驚いた様に目を丸くすると頷くしかなかった。
店員さんを呼ぶと席を交換してもらう。私はお祖父様の手を引くと引っ張っていく。
「パパぁ、はやくw」
わざとらしく、いつもより甘い声を出してお祖父様を見上げると何故か赤くなったお祖父様がいた。
恥ずかしがっている場合じゃないんだけど。
お父様がギョッとした様にこちらを見たのを確認。
「パパぁ、ここは夜景が綺麗ね!」
お父様の正面のテーブル席に着きながら言う。
私からはバッチリお父様が見える。ふっふっふ!
「そ、そうだな」
お祖父様カミカミです。しっかりして、いつもの威厳は何処へ行った~~~
そこへ丁度ワインとおつまみにパフェが登場。
私はパフェの1番上のいちごをスプーンですくう。
「パパに1番美味しいところをあげるね!あ~んして」
そう言うとお祖父様にスプーンを差し出した。
ガタッと音がして向こう側のお父様が思わず立ち上がった。
突然席を立ったお父様に女性が驚いている。
「月光院様?どうかしましたか?」
女性に言われてお父様が慌てて座る。
「あっ、イヤ、パ、パフェが美味しそうだなと……」
「あら、子供みたい」
女性がおかしそうに笑った。たぶんお父様の耳には届いていない。
「おっ、美味いな、もう一口くれるか」
良いねぇ、お祖父様が乗ってきました。
「はい、あ~ん」
もう一口スプーンですくってあげた。
お父様がしきりにこちらを気にしている。ふふ、良い感じ。
「パパぁ、今日はここにお泊まりしたいなぁパパと寝るw」
「ぶっぶっ~~~う!!!」
向かいの席でお父様が赤ワインを噴いた。終わったね。
女性が引いている。
「部屋があるか聞いて見るか」
お祖父様が手を上げると、
「ダメだ!お泊まりなんて」
口をナプキンで押さえながらお父様が言った。
女性が驚いた様に固まった。
これはピンときた。狙っていたんだ。
「あ、あの、今日は体調が悪そうなのでここでおいとましますわ」
一緒にいた女性が急にしどろもどろに言い訳をすると急いで席を立った。
よし、やったあ!ざまあかんかんカッパのヘッ!
後ろ姿を見送った私はお祖父様とグーパンチを合わせた。
向こうからお父様が目を合わせてきたけどそっぽを向く。
一ヶ月は顔を見ていないから忘れたもん。
お父様は席を立つとこちらのテーブルにやって来た。
「お父様にもパフェくれるのかな?」
もう2口も減ったのだ。これ以上は無理。
無視を決め込んだ。知らない人だし。
「知らないおじさんとは口をきいたらダメだよ」
お祖父様が面白そうに言う。悪い笑顔だ。
私は頷くとお父様に背を向けた。
「愛梨花、ごめん」
お父様が私を抱き上げた。
やめてパフェが食べられないじゃん。ジタバタしたけど降ろしてくれない。
仕方ない許すか。
「お父様もパフェ食べましょうね」
そう言って微笑んでみた。
もちろん違うパフェをオーダーして下さいね。




