28 ターゲットはお兄様
クリスマスも終わって家に帰ってきた。
私は、のんびりとアフターヌーンティーをとっている。
柔らかい午後の光がレースのカーテンごしに入ってきてる。
大好きなアップルティーを飲みながらレモンのマドレーヌをつまむ。
優雅だ。
月光院家にはティールームがある。
ミントグリーンの絨毯にチェリーレッドのアンティーク調の家具。
まるで海外にいるみたい。
本棚にはお気に入りの本を置いた。
内緒だけど色々読めるの。
字はへたくそなんだけど読むのは平気。前世の知恵だねフフフ……
何だかいっきに私の周りは静かになった。
すみれちゃんはオーストラリア。
東郷寺家はご一家でしばらくは軽井沢に滞在中。
虎太郎君と翔君は行きたくないとごねながらハワイへと旅だった。
贅沢な奴らめ!行きたくないって、何なの!
我が家はお正月の準備もあって早々に帰ってきた。
年始は分家一同挨拶に本家に集まるからお祖父様は忙しい。
愛梨花の年末年始はひとりぼっちだ。
ほんと、性格ゆがむよね……小説の中の愛梨花ちゃんに同情してしまう。
しかし、私はこんなことにはめげない!中身32歳だからね。
よし!今のうちに家族の絆を強めよう。
クリスマスに貰ったテディベアをギュッと抱きしめた。
最近はいつもこの子と一緒だ。
一番の問題はお兄様。
完全に避けられているから。
テディベアの頭に顔を埋めて考えを巡らせる。
お兄様の塾も家庭教師も、年末年始はお休みになっている。
ずっと本家にいるわけにもいかずお部屋にいるのだ。
これはチャンス到来とみた。
お兄様にロックオン。
”男は胃袋を掴むんだよ”というのは前世でのおばあちゃんの教えだ。
まずはお兄様の好きな物をリサーチしなきゃ。
優雅にお茶を飲んでいる場合では無いな。
急いで残りのマドレーヌを頬張るとメモ帳を片手に厨房へ。
色々聞いてみると、お兄様は特にお食事にはこだわりがないらしい。
ふむ、これは難しいぞ。
ちょうどお兄様もお茶の時間。
お兄様へお茶や軽食を運ぶ係に名乗り出た。
お茶菓子は私の得意なクッキー。
レパートリーは増やすから少し待っていてね!
こだわりがないなら何でも食べるはず、フフフ……
いけない、つい悪い笑顔が出てしまう。
頬を両手でパンパンと叩く。
気合いを入れていざお兄様の部屋へ。
ワゴンをガラガラと押してお兄様の部屋をノックした。
返事を聞かずにさっさとドアを開けて中に入る。
「あっ、返事を聞いてから入ってくれ」
読んでいた本から顔を上げたお兄様と目が合った。
「ごきげんよう」
まずは挨拶から。
お兄様は一瞬固まって目を瞬くと、片手で目をこすった。
幻ではありませんよ。心の中で言って、ニッコリと微笑んだ。
「どうした、何かようかな?」
「お茶のご用意です」
ティーカップに紅茶を注ぐ。
「本日の茶葉はアッサムのセカンドフラッシュ金芽入りです。ミルクとレモンどちらになさいますか?」
前世は紅茶好きだったので詳しいぞ!
「いつものレモンで。って言うか、君は何を企んでいるのかな?」
私はサイドテーブルにお茶を用意すると、隣のカウチに腰掛けた。
「お見通しですか?ただお兄様との交流がしたいだけです。色々忘れてしまったので……」
私は自分用に用意した、蜂蜜入りミルクティーを飲みながらお答えする。
「上手いこと龍一郎達に取り入ってるみたいだけど、僕は、だまされないよ」
私はそれには答えず、ふう~と一息つくとお兄様に聞いた。
「年末はいつもどのように過ごしていたの?」
「10歳以上の子供達は、大晦日の夜から本家に集まるから僕もいないよ」
「小さい子供達は?」
「兄弟であれば、小学生以上なら一緒に来る子もいるけど、幼稚園生はいないね。子供は早く寝ないと」
そう指摘されてちょっとむっとした。
私だって年末のイベントは楽しみたい。でも本家は楽しそうじゃ無いから遠慮しておこう。
「元旦はご挨拶に行くの?」
「そうだよ、子供達は午前中に初詣を済ませるんだ。午後からは親戚達が挨拶に来るから忙しいよ」
「初詣は皆でいくの?」
「家族ごとに行くんだよ」
「着物は着るの?」
お兄様はティーカップを手に取るとお茶を飲んだ。
「何もかも忘れてしまったんだね。まあ僕も小さい頃の事は覚えていないけどね」
あきれたように言うとクッキーをつまむ。
私が作ったものだ。フフフ……
少しずつお近づきになっていこう。
そろそろ潮時かな?
最初からグイグイいくのはダメなタイプだとみた。
「お兄様ありがとう。お夕飯は何時ですか?聞いて来るように頼まれたの」
お兄様はギョッとしたように私を見る。
感が良いみたいだ。
その予想は、当たっていますよお兄様。
いつ、どこで食べようと、もれなく私が付いてきます。
ニッコリと微笑んだ。




