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23 高島 正道


 今日初めてクリスマスプレゼントを貰った。


 大事に机の上に置いてある。いつでも目に入るようにだ。


 可愛らしい女性からのプレゼント。クリスマスカードつき。


 もったいなくて開けられない。


 今日は1日、頬が緩みっぱなしだった。


 忙しかった1日をベッドに寝転んで思い返す。


 部屋の天井を見上げてふと昔が思い浮かんだ。


 自宅の天井には、色々と決意を書いて貼っていたな。


 寝る時、起きた時、確認すると夢が叶うと聞いたから。


 父は警察官だった。


 母は看護師でオレは一人息子だ。


 忙しい両親、父は殆ど家にいなかった。たまに休みが取れると父と二人で旅行に行った。


 その時は母が旅のしおりを作ってくれてバスの時間までバッチリと計画されていた。


 ランチを取る店やメニューに駅弁まで決まっていた。


 しかしいつも父と二人計画通りには進まなかった。


 家に帰ると母に感想を聞かれて上手く答えられない。


 そんな僕達に母は笑っていた。


 父の影響で空手や柔道、剣道と武道は一通りやった。


 表彰状を貰って父に見せるのが嬉しかった。


 高校に入る前の春休みに父が亡くなった。殉職だった。


 通り魔に刺されてしまった。犯人は相手は誰でも良い、むしゃくしゃしていたと言っていた。


 悲しみをこらえて皆に挨拶をする母が印象的だった。


 皆が帰り静かになった会場で線香を消さないように番をしていた。母もずうっと起きていた。


 父の同僚がポツポツと話す思い出話に耳を傾けた。


 母がいつかそんな事が起きるかも知れないと覚悟はしていたんだと、その時に初めて知った。


 高校を卒業して警察官を目指すことにしたとき、母は何も言わなかった。


 ただ苦笑して父の墓前で手を合わせていた。


 不思議な事に、警察学校では色々な事が難なくこなせた。


 いつも父の背中を見ていたからだろうか?


 教官の中には父を知っている人も多かったと思う。暖かく見守られていた気がした。


 要人警護を任されるようになると母が時々電話してくるようになった。心配なんだと思った。


 仕事にも大分慣れてきたと思っていた頃、ある日、同僚が亡くなった。狙撃だ。


 要人をかばったオレは重傷を負った。


 病室で気がついて母の姿を目にした時に、父の葬儀の時の母の姿と重なった。


 いつの間にか年老いてやつれて見えた。


 目が合うと”良かった良かった”とただ泣いていた。


 ごめん心配ばかりかけた。


 もうこの仕事は辞めようと心に決めた。


 もう昔の夢は叶えたんだ。


 母をひとりぼっちにはさせたくはなかった。


 リハビリをかねてのんびりと実家で過ごしているときに今の仕事を紹介された。


 今度幼稚園に上がるお嬢様の運転手件警護だ。


 最初、給料の額にビックリした。こんなに貰って良いのか?


 母が乗り気だったので取りあえずやってみることにした。


 月光院家に行くと広大なお屋敷に圧倒された。


 初めて会ったお嬢様はとても小さくて大きな目をしたお人形さんみたいだった。


 挨拶をしても反応が無くて本当にお人形かと思った。


 気に入らないことがあると何でもぶちまけてしまうから拾うのが大変だった。


 お金持ちのお嬢様ってこんなに我が儘なのか?最初は驚いた。


 いつも一人で登園されていてご両親が一緒な事は珍しかった。


 執事やメイドがいるから良いのか?庶民育ちのオレにはわからない。


 オレの両親も共稼ぎだったがもう少し交流があったぞ。家が広すぎるのか?


 そのうちに家族との交流が無い事が不憫に思えてきた。


 癇癪もちで我が儘。そうでもしないと誰も振り向いてくれない。そんな気持ちが伝わってきた。


 元々女性とはあまり縁が無かった。自分は顔が良い方では無い事は知っている。学生時代は女性と付き合った事も無かった。


 社会人になると、付き合いで合コンとかにも何度か顔を出した。


 たまに筋肉に惹かれたのか、付き合ってくれと言われることがあった。


 デートというやつも何回かした。”女性は我が儘な方が可愛い”なんていう友人もいたがオレはイヤだった。


 待ち合わせに中々来ないから心配して電話してみれば、”今シャワー浴びていたの”だと、冗談じゃ無い。こちらもそれほど暇では無い。


 いつしか仕事に夢中になり、女性とは縁が無いまま30歳になろうとしている。


 そこに降ってわいたように、この見かけ天使の小悪魔ちゃんだ。オレはつくづく女性には縁が無いと思った。


 そのお嬢様が病気を経て妙に大人びた。以前の記憶が無いという。


 癇癪は無くなり静かに周りを観察していた。前とは違い顔に表情が出てきた。


 クルクル変わる表情に目が離せない。


 我が儘と言うか……突拍子も無い事を言ったり、トラブルや事件に自ら飛び込んでいく。


 危なっかしくて目が離せない。


 守って差し上げなければ。


 おまけに、子供らしくオレに甘えてくる。これはたまらない。最近は頬の筋肉が緩みっぱなしだ。


 父性って奴が芽生えてしまった!?


 残りの人生全て捧げます!そんな感情がわいてくる。初めてで戸惑っている。


 ”女性の我が儘が可愛い”今ならその言葉わかる気がする。


 寝る前に挨拶がしたいなんて可愛いじゃないか。眉尻がどこまでも下がってしまう。


 火の用心がしたいから水鉄砲を探してくれなんて、子供の発想は面白い。


 お嬢様の手のひらの上で転がされている気さえする。


 それが心地よい自分にビックリだ。


 オレにはマゾの気質があったのか?


 驚かされる事ばかりの毎日。


 振り回されるばかりの毎日。


 まだまだ人生何があるかわからない。


 最近はお嬢様の周りに虫も飛び周り出した。


 害虫を駆除しながらこれからも仕事に精を出します。



 

                     高島 正道 29歳の冬


 

 高島の年齢を修正しました。長く元気に活躍して欲しかったので。

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