21 皆でクリスマスイブ!
「で、どこへ行きたいんだ?」
別荘に着くやいなや、虎太郎君と翔君が期待を込めた笑顔でこちらを見てくる。
今さら口からでまかせとは言えない。
「あの、皆でクリスマスイブを過ごしたいなと思って……」
助けを求めるように龍一郎君を見る。お願い!
龍一郎君はわかったと言うように頷いた。
「愛梨花ちゃんが虎太郎君と翔君がいないと寂しいと言うから」
イヤイヤ、言ってないから。焦って顔と手をブンブン振った。
2人ともそんな事は聞いてないらしくどや顔だ。
「よし!これから一緒にいてやる」
「僕達で良ければね虎太郎!」
ガックリと肩を落とした。2人にまとわりつかれる未来しか見えない。周りの女子が怖い。
ポンポンと肩を叩かれて顔を上げると雪二郎君が笑ってた。
「そうだ、後でもみの木の踊り見せて!」
「良いね、僕が伴奏するよ!」
龍一郎君が雪二郎君の肩を叩いた。龍一郎君ピアノ弾けるの?凄いね
私が感心していると、雪二郎君がちょっと悔しそうな顔をする。
「雪二郎様は私達と踊りませんか?1人足りないから」
「おお、良いぞ、一緒にやろう」
虎太郎君が雪二郎君の手を引っ張った。翔君も頷いている。
雪二郎君は頭をかきながら出来るかな?なんてつぶやいている。
出来るでしょ!幼稚園児の踊りなんだから!
別荘のグランドピアノがあるホールに案内された。吹き抜けの天井に階段があってミュージカルの舞台みたいだ。
早速、龍一郎君がピアノを弾く。音が反響して聞こえてくる。皆で聖夜を合唱した。クリスマスって感じで素敵!
龍一郎君のピアノはどんなアレンジでもこなせて凄かった。ずっと聴いていたいと言ったら”良いよ”だってすてき!女の子は皆イチコロだと思う。
虎太郎君と翔君は夜にご両親がお迎えに来るみたいだ。またもみの木の踊りを見せると虎太郎君と翔君が張り切っている。そんなに好きだったの?知らなかった。
虎太郎君と翔君が吹き抜けのある階段でグリコをしている。パワーが有り余っているね君達!
そう言えば、翔君のお家はその後どうなったのかな?
聞けないよね……元気そうだから大丈夫かな?
「愛梨花ちゃん母様がケーキ買ってくるって!」
携帯電話を片手に虎太郎君が向こうで叫んでいる。
どうやら予定を変更して皆でクリスマスイブを過ごすことになったみたいだ。
東郷寺のお祖父様も携帯電話でお話をされていた。
今日は皆で一緒にディナーだって!やったあ!皆で賑やかにご飯なんて素敵!
うかれて、ホールのすみで万歳していたら龍一郎君に笑われた。こっち見ないで!
お祖父様にディナーの前に汗を流しておいでと言われて、皆で温泉に行くことになった。
お風呂は中庭を挟んで向こう側で、露天風呂になっているらしい。
足跡が新しい雪ですぐに消えてしまう。虎太郎君と翔君は濡れるのも構わず中庭を走り回っていた。
虎太郎君が私の手も引っ張って行こうとするから、雪二郎君の影に隠れた。
やだもん!大人だから、私!
きっと露天風呂は雪がかぶっている。
雪見温泉なんてすてき!と、喜んでいたらお風呂の前で固まった。
えっ?女子1人?混浴?
無神経虎太郎君が私の手を引っ張った。
「はやくおいでよ!」
行くわけないでしょ!顔から火が出るかと思うくらい赤い。
中身32歳なんだから!知らないと思うけど。
龍一郎君が私の頭にポンと手を置いた。
「愛梨花ちゃん大丈夫だよ。女子の方にはスパがついているからスタッフもいるし、アロマオイルマッサージもしてくれるよ」
「アロマオイルマッサージ!」
前世でもしたことない。オイルを背中に塗られてトロトロになってみたい!
初アロマオイルマッサージ!その前に温泉も楽しむよ!
露天風呂は高い塀を挟んで男子の方とつながっているらしくて虎太郎君と翔君のはしゃぐ声が聞こえてきていた。
こちらに向かって名前を呼ばないで欲しいんだけど。誰もいないけど恥ずかしいから……
無視してサッサとアロマオイルマッサージに向かった。
幼稚園児には付き合いきれないから。
アロマオイルマッサージは気持ちよくて寝落ちした。気がついたら終わってた。
今度はお母様と来たいな!東郷寺様のおばさまでも良いな!
1人ではもったいないからねっ!
「また来ます!」
元気よく外に出たら皆が待っていてくれた。
あっ!虎太郎君と翔君フルーツ牛乳飲んでる!良いなぁ
「もうすぐご飯だよ」
龍一郎君に頭をポンポンされた。がまんだね!
コテージまで戻ると、高島がつぅーと寄ってきた。何かあったかな?
「お嬢様、少しお話が聞きたいのですが」
これは、あれか、犯人の件だね。私は頷くと高島とリビングの隅に行った。
「ツリーに置かれていたのは、爆弾でした。ただ女子高校生とお嬢様の供述が違うと、いんけん銀縁メガネが言うので詳しく教えてもらえますか?」
ほとんどの事は東郷寺様にお伝えしてある。ただ女子高校生の知らない情報まで出してしまったからか……
「えっと、良く覚えていないからわからないのだけど……」
困ったときのうつむきだ。女優してます。
高島がぎゅうっとハグをしてくれた。
「そうですよね!5歳の子に整合性も何もあったもんじゃありません!教えてくれただけで感謝してもらわないと!」
それから私の頭を、ポンポンと頭を叩いてから
「行ってきます。安心していて下さい!」
そう言って出かけた。ごめん高島。クリスマスイブなのに……
明日は高島とご飯食べよう!心に決めた瞬間だった。