19 ショッピングモールは危険?
何かが引っかかる。何だろう?
小説のお話も大分変わってきてしまっている。
本来ならこの時期には誰も軽井沢には来ていない。
虎太郎君と翔君はハワイ、東郷寺家は喪中で龍一郎君は引きこもっているはずだし、雪二郎君はもう存在していなかった。
クリスマスに愛梨花は自宅で1人寂しく豪華なクリスマスツリーを眺めていたに違いない。
だから、もし何かがあるとしたら、話のメインストーリーとしてではなくて、ちょっと触れられているくらいだったはず。
ショッピングモールのトイレで立てこもって考えてしまった。
何だったけ?まさかお父様がハニートラップ中なのを目撃するとか?
あり得るだけに怖いぞ!
ガヤガヤと賑やかな話し声が聞こえ人がトイレに入ってきた。このキャピキャピ感は女子高校生かな。
隣のトイレから人が出ると手を洗いながら友達と話し出した。
「ねぇ、ねぇ、さっきのおじさんやばくない?」
「あっ、プレゼントを置くように頼まれた奴?」
「そう、1万円くれたんだけど」
「まじ!良いなぁ」
トイレの中で聞き耳をたてていたんだけど、この話読んだ。これだ!思い出した。
ハニーじゃなくてボムの方だった。
急いでトイレを出ると髪を金髪に染めたミニスカートのお姉様方に詰め寄った。
「すみません、聞きたいことがあります」
「やだ、迷子?」
1人がリップクリームを塗り直しながらこちらを見た。派手な化粧にジャラジャラとさがるピアスをしている。
「違います。えっと。今宝探しゲームやっていて、今のお話詳しく教えてください」
「へぇ、この子やけにしっかりしてるじゃない」
もう1人が私の髪を自分の指にクルクルと巻き付けた。こちらは髪にリボンを巻き込んで編み込んでいた。
「未来やめなよ、子供からかうの」
「紙袋に入っているプレゼントを探しているのですが、そのプレゼントはどこに置いたのですか?」
聞きたいことをサッサと聞いてしまう。時間あまりないかも知れないしね。
2人は安堵した表情を浮かべた。お金返してと言われるのかとでも思ってた?
「何だ、そう言うこと、サンタのいる広場にあるクリスマスツリーの下よ」
ジャラジャラピアスがトイレの脇の窓から下を指さした。
「あそこにあるクリスマスツリーの下よ」
「あの、紙袋は青と白の縞模様ですか?」
「ええ、そうよ」
「ねぇ、未来みてみな!ちょっと、さっきのあいつまだあの辺にいるよ」
ジャラジャラピアスに言われて、未来と呼ばれたもう1人が窓の外を見ると、その先にはグレーのパーカーを頭からかぶった、ちょっとポッチャリした男の人がたたずんでいた。
顔はマスクでよく見えない。こいつが犯人だ!確か小説ではアニメオタクだった。
ジョーカーとか言う奴のSNSメッセージを受けて犯行に及んだとか書いてあった。
ジョーカーは誰だ?って探すのがはやったような気がするんだ……
隣の女子高校生がもう1人を突っついた。
「早く行こう!何かヤバイ感じがするんだよね……」
お姉様方その感は当たっています。感心しながら聞いていると
「ねえ、この子まじ可愛くない?お人形みたいだし」
「あんたも、1人でうろうろしていると危ないよ。気をつけて早く帰りな!」
見た目いけいけの高校生に心配されてしまった。
「お姉様方こそ可愛いので変なおじさんに引っかからないように気をつけてください」
「やだぁ! 幼稚園児に心配されるってないから」
2人は私の頭を交互に撫でると”頑張ってね”と言って出て行った。
さて、これからどうしよう。
やっぱり、困った時の高島頼りだ。
トイレの前でうろうろしている高島に駆け寄った。高島に回りくどいのは通じない。
「高島、次の2つのうちから選んで」
高島はまたか!と言うように頭に手を置いた。
「①相談に乗る②相談に乗らない」
高島はモジャモジャの眉尻を八の字に下げた。
「①以外の選択は無いに等しいじゃ無いですか?」
「ふ~ん。面白そうだね。僕が乗ってあげるよ」
落ち着いた話し方に振り向くと、いつの間にか龍一郎君と雪二郎君が来ていた。
トイレで聞いた話として、サンタさん広場のクリスマスツリーの下に爆弾の入った袋が置かれたことを話した。
「本当だとしたら大変だな」
龍一郎君が腕を組みながら考え込んだ。
「高島、お祖父様に相談してみて」
高島は頷くと携帯電話を取り出した。
「僕は父にかけてみるよ」
龍一郎君が電話をしている間に雪二郎君が横に来て背中をポンポンとしてくれた。驚いて顔を上げると
「大丈夫だよ」
とニッコリ微笑んでくれた。優しい。
電話を切ると龍一郎君が私の手を取った。
「後は任せて直ぐに帰るようにだって、行くよ」
急いで行こうとする私達を高島が呼び止めた。
「お嬢様、虎太郎君と翔君がサンタさん広場に行ってると西園寺様が……」
龍一郎君と顔を見合わせた。まずい、探さなきゃ!
「私探してくる!」
急いで走り出そうとした私の手が強く握られた。
「僕が行こう」
そう言って龍一郎君があっと言う間に走り出した。慌てて後を追う。雪二郎君も一緒に来てる。
えっ!ダメでしょう。跡取り息子が!どうせ私はどうでも良いんだから!爆発までは多分1時間は余裕があるはず。でも急がなきゃ!
慌てすぎて足がもつれて転びそうになった。後ろから高島が抱き上げてくれた。
「取りあえず広場まで行きましょう。見つからなければ帰りますよ」
高島の珍しく真剣な顔を見た。キリッとしたモジャモジャの眉毛に、吹き出しそうになるのをこらえて頷いた。
(珍しい物を見た気がする……)
広場に行くと龍一郎君が向こうから手を振っていた。2人を見つけたみたいだ。
サンタさんと写真を撮ろうとしている列に2人が並んでいた。
「あっ愛梨花ちゃんもきてたのか?」
虎太郎君と翔君がこちらに向かって手を振ってきた。2人だけで来たわけじゃ無いよね?大人はいないの?私の疑問に答えるべく龍一郎君が護衛は電話が入って今外しているよ、と教えてくれた。それから少し困ったように2人を見て
「写真撮るまで行かないと言うんだけどね」
両手を上げた。お手上げね!了解。それならお任せあれ。この場合虎太郎君が動けば翔君は着いてくるはず。ターゲットを虎太郎君に絞った。
虎太郎君の右手を両手で包み込んだ。虎太郎君はいきなり手を捕まれて驚いたみたいだ。
「どうしても一緒に行きたいところがあるの」
下から覗き込むように虎太郎君の顔を見る。それからじっと見つめた。
ダメかな?心なしか虎太郎君の顔が赤い。
虎太郎君は私から逃れるように視線を外すと翔君に話しかけた。
「仕方ない行くか、翔どうする?」
翔君は笑いをこらえながら頷いた。
「行こう。愛梨花ちゃんこれでいいのかな?」
げっ、こいつにはやっぱりバレてる。
お姉様方に鍛えられているからお見通しか……とにかくここを離れるよ。
「愛梨花ちゃん、やり過ぎだよ」
龍一郎君にコツンと頭を叩かれた。ペロッと舌を出した。すみません。