18 銀世界!
ホテルのスイートルームであの後皆が来た頃には夢の中、うつらうつらしているうちに、いつの間にか自宅に戻り気がついたら朝だった。
「愛梨花ちゃん、おはよう」
龍一郎君と目が合った?
「ん?お、おはようございます」
一瞬自分が何処にいるのかわからず目を瞬いた。自分の部屋だよね?
「あっ、ごめんね、昨日のこと謝りたくて早く来たんだ」
部屋に掛っている時計に目をやるとまだ七時半だ。
「でも昨日は龍一郎様のせいじゃないですから」
眠い目をこすりながら話していると龍一郎君が笑った。
来るの早すぎでしょ!頬が膨らんでいたみたいだ。
「ごめん、ごめん下で待っているから」
手を振りながら出て行った。乙女の部屋に気軽に入ってくるのではない!
千鶴に手伝って貰って急いで支度をすると食堂へ行った。
「昨日は先に会場を出て行ったと聞いたから心配していたんだよ」
龍一郎君が私に駆け寄って頭に手を置いた。
「ごめんなさい、会場の雰囲気に気後れしてしまって……」
「そうだよね、あの会場は僕でもイヤだな」
雪二郎君が向こうの席で笑いながら言う。2人とも小さい頃から大変だね。昨日はさながら、猛獣のおりに投げ込まれたえさの気分だったろうにね。
大勢で朝食を取るのは今世では初めてで昨日の疲れがとんでいった。
つくづく月光院に家は寂しい家なのだと感じてしまった。
愛梨花の両親は娘を愛してはいた。
ただ夫婦仲がぎくしゃくしていて、それぞれが家庭よりも仕事へ重きを置いてしまった。
子供にはベビーシッターや家庭教師を雇えばそれで済ませて、自身の都合の良いときだけ可愛がり愛情をお金で与えていた。
そんなことをしていたら、ほんとダメ人間しか育たないのに。
両親はもう出勤してしまっているし、お兄様は挨拶だけして私とは入れ違いにお部屋に入られてしまった。この後本邸の方へ行くらしい。
お兄様との関係もこれから築いて行かないといけない。
愛梨花が生まれて直ぐに母親は産後鬱で育児放棄していた。
愛梨花は夜泣きがひどくてお兄様は寝られなかった。愛梨花はお屋敷での部屋を一番奥へと移されてしまう。
離乳食が始まると、かんしゃく持ちですぐに食卓をひっくり返すものだから、いつの間にか食事は1人で取るようになった。
高熱で前世を思い出す前はこんな感じだから、周りにいるのは使用人だけ、幼稚園でも友達なんて出来なかった。
小説の中では、気分屋の超我が儘なお嬢様。
でも私はそうはならない。
来年こそは家族そろってのクリスマス!目標に頑張る。
昨日の騒動のおかげで龍一郎君のご両親は直ぐには来れなくなってしまったらしい。たいしたことでは無いからと、子供達には詳細は教えてくれない。
東郷寺のお祖父様と龍一郎君と雪二郎君の3人と私とお祖父様。今日はこのメンバーで軽井沢へ行くそうだ。もちろん運転手は高島。
「うちの車は後から両親が来るから月光院様の車で一緒に行くことにしたんだよ」
龍一郎君が説明してくれた。
「うちは、お祖父様しか行かないの?」
お祖父様が手招きしている。
「私だけではイヤかな?」
「皆が、寂しくないかなと思って…」
私がお祖父様に駆け寄ると、お祖父様が私の頭に手を置いた。
「愛梨花が寂しくは無いのか?」
思わず笑いながら首を振った。それはない。
そんなに家族と親しくないぞ
「いつもの事だから、平気!」
「そうか……」
お祖父様はそう言うと頭を撫でてくれた。
「マシュマロ焼こうね」
雪二郎君がここにおいでと隣の椅子を叩いた。
「そり遊びも出来るよ」
龍一郎君も言う
「そり遊びやりたい!」
楽しみが増えた。龍一郎君も雪二郎君も元気で何よりだ。
家族やお屋敷の人達へのクリスマスプレゼントとクリスマスカードを寺森にまとめて渡した。
お父様のには高島が買ってくれた”クリスマスキャロル”の絵本と、呪いのカード、もといクリスマスカードもつけた。
後で配って貰うんだ!
皆喜んでくれると良いな!!!
♢ ♢ ♢
ヒャッホー!
目の前に広がる一面の銀世界!!!
すてき!
今日はクリスマスイブ!
ホワイトクリスマス!
テンションMAX!
東郷寺様の別荘はレンガ造りの洋館でやはり大きい。エントランスにはスタッフが勢揃いしてお出迎え。
わぉーー!!!
私が固まって立ち止まっていると、龍一郎君が笑いながら手を引いてくれた。心の声が漏れていた?
「こっちだよ」
入り口には大きなクリスマスツリーが飾ってあって、入ると大きな暖炉が囲炉裏みたいに真ん中にあった。
まさか、ここでマシュマロ焼かないよね……
思わず半目で雪二郎君を見てしまった。
普段は海外からのお客様をご招待したり、ちょっとしたコンベンションにも使われているんだって。凄い。
もはや別荘とは呼べない……
案内されたのは離れになっているコテージ風の建物で部屋の中は緑のリースに上品なパステルカラーでクリスマスデコレーションがされていた。もちろんクリスマスツリーと暖炉がある。
吹き抜けになっている建物は、一階にはリビングルームでキッチンも着いている。二階は寝室とバスルーム真ん中の階段から下が見下ろせるようになっている。
リビングルームの窓からテラスに出られてそのまま中庭へ降りられるようになっている。
(絵本の中みたい)
「お祖父様達は温泉に入るみたいだけど愛梨花ちゃんはどうする?」
お部屋に用意されたお茶を飲みながら龍一郎君がきいてきた。
お茶請けに和菓子とチョコレートまである。
お祖父様達は露天風呂に早速行ってしまった。せっかちだね。
「お庭出られるの?」
お口の中は今チョコレートで忙しい。
「雪合戦しようか?」
雪二郎君に言われて頷いた。
「そう言えば、虎太郎君と翔君は明日うちにくるよ」
げっ、もう来るの。顔が引きつった。
「あれ?仲良しじゃ無いの?」
「えっ、まぁまぁですかね」
「ふ~ん、そうなの?」
意外そうに、雪二郎君に聞かれた。
「男の子の遊びにはついて行けないと言うか……高いところから飛び降りたり、ブランコ目一杯漕いだり1番イヤなのは髪の毛の匂いかぐの!」
一斉にみなでお茶を吹き出した。
そうでしょう!ありえない!前世は犬に違いない。虎太郎君来たら雪ぶつけちゃうよ!
「犬の生まれ変わりだと思うわ!」
私が大まじめで言うと皆笑い転げた。本当なのに!
「わかった、わかったよ。彼らは僕が面倒見るから、愛梨花ちゃんは雪二郎といてね」
龍一郎君が笑いながら言う。
雪二郎君の方を見ると親指を上げていた。サムアップね!良かった。
龍一郎君と雪二郎君それに高島が加わって雪合戦。
私と高島チーム、東郷寺兄弟チームで始めたはずだったんだけど、ふたを開けてみれば、皆で高島に雪玉をぶつけていた。
怪獣退治となった。哀れ高島。
それから部屋に入って皆にクリスマスプレゼントとクリスマスカードを渡した。
高島には緑の靴下に怪獣が火を吐いてるものをあげたのでまさにぴったりだった。
龍一郎君と雪二郎君、それに東郷寺のお祖父様にはハンカチとクリスマスカード。
「愛梨花ちゃんにクリスマスプレゼントを用意していなかった。ごめん」
龍一郎君が申し訳なさそうに言う。気にしなくて良いのに。
「この間、お花貰いました。凄く嬉しかったので、ほんの気持ちです」
「ごめんね、僕も用意していないや」
雪二郎君が困ったように笑いながら言う。
「プレゼントを選ぶの好きなので」
「ショッピングモールに行ってみませんか?」
珍しく高島が口を挟んだ。自分も貰っただけなので気が引けたのかも。
いつもなら行きたいと思うのに何か引っかかる。
何だろう?