17 東郷寺 龍一郎
彼女と初めて会ったのは誘拐されている最中だ。
車に乗った途端身体が重くなり意識だけが覚醒していた。
隣で雪二郎が倒れているのに小さな女の子がシャンと座っていた。誰だ?
携帯電話をスカートの影に上手く押し隠して、堂々と犯人とやり取りをしていた。
最初幻かと思った。女の子なんているはずが無い。
夜の街のライトが反射して女の子がキラキラ光っているようにも見えた。天使がいるとしたらこんな感じなのか……そんな事をぼんやりと考えているうちに意識が遠のいた。
次に気がついたときには救急隊員や大人に弟と囲まれていた。皆無事だったんだ。あの子は?
探すと直ぐ近くで救急隊員に抱えられていた。
目が合ったと思ったら直ぐにそらされた!
何故だ!
ところで君は誰だ!
その疑問は直ぐに判明した。
母が泣きながら駆けつけてきたのだ。
月光院家の護衛が通報してくれたおかげで助かったと運転手も襲われていたが重傷で済んだと泣きじゃくっていた。
護衛が?あの子じゃ無くて?
護衛なんていたのか?
病院のベッドで考え込んでいると次々と疑問が生じた。
「ねえ、兄様あの小さい女の子誰か知ってる?可愛かったね。いつの間に車に乗ったんだろう?」
隣のベッドで退屈そうに本を見ながら弟が聞いてきた。
「後で見舞いに行くか?」
僕達は明日には帰って良いと言われているからあの子も明日には帰れるんじゃないか?と思っていた。
ところが病室の札は面会謝絶?
どう言うことだ?
母が”心配は無いみたいだけどついでに色々検査するらしいのよ”と教えてくれた。
大丈夫なのか?おい、小っこいの!
責任は無いが、いろいろ気になり退院してからも毎日見舞いに行く事にした。
小さいのに騒がしくなく洞察力がある。静かに本を読みながら僕達兄弟を観察しているようでもある。
年上に見守られている気すらした。変な感じだ。
和気藹々と囲む夕食は楽しいひとときとなった。
デザートばかり食べて大丈夫なのか?いつもイチゴのデザート頼んでいるな。
好き嫌いはダメだよ!
コロコロ変わる表情に目が離せない。
小さな口に大きなイチゴを頬張って目を白黒させている。
ゆっくり食べなきゃダメだよ!
ああ……こんな日も悪くない。
いつもこうなのかと教室で兄の貴志に聞いて見れば、妹とは交流が無いと言う。
もったいない話だ。
そう言えば1度も見舞いに来てはいなかったな。
詮索は止めておこう。色々あるのだろう。
お祖父様もことのほか愛梨花ちゃんが気に入ったみたいだ。
このまま交流を続けて行けばいつか大きくなったら……
ふっ、笑えるな、あの子はまだ5歳じゃないか、先のことはわからない。
だけどこの出会いを大切にしていこう。
向こうで雪二郎が呼んでいる。
えっ?愛梨花ちゃんがどうしたって?
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