14 終わりよければすべてよし!
10人でお祖父様達のなじみの料亭で会席料理を食べることになった。東郷寺家3人月光院家3人、西園寺家2人、花巻家2人だ。
料亭の離れで東屋みたいな個室に案内された。
掘りごたつ式のテーブルが2つあって真ん中には囲炉裏がある。大きな丸い窓からは日本庭園が絵画のように見えた。
夜にはライトアップもされるみたい。素敵!
お料理が違うらしく大人5人と子供5人でテーブルが別れた。
翔君のお父様と虎太郎君のお母様が楽しそうにお話ししている。
小説では、お二人は御兄弟でとても仲が良い事になっていた。元々は4人兄弟で上に年の離れたお兄様とお姉様がいらっしゃって、それぞれが不幸な事故と病気で亡くなってしまう。年の近いお二人が残された。それもありご家族の絆が強いご家族だ。二人はご両親の愛を一身に受けてすくすくと育った。その分人を疑うことを知らずだまされてしまう。
小説では翔君のお母様と虎太郎君のお母様が仲が悪いことになっていた。
虎太郎君のお母様は大好きなお兄様をなかばだまして、できちゃった結婚に持って行かれたのが、今だに許せないみたい。
結婚してからはお兄様を尻に敷いていて、上の女の子2人だけを可愛がり、翔君はほったらかしなのがますます許せないみたいだ。
妙に鋭い翔君が苦手で生意気だと手を上げてしまう。ストレスのはけ口になっていく。悪循環だった。
翔君のお母様は姉妹に、人生は旦那で決まると説いていて、小さい頃からいかに男を捕まえるかを教えていたのだから、末恐ろしや。
それはどうやら本当の事みたいで翔君がこっそりと”母さんと虎太郎の母親仲悪いから”と冷めた口調で教えてくれた。
子供に苦労を掛けて、いかんせよ!
食事も一通り出てくると、クリスマスの過ごし方の話になった。私が去年どうしていたのかは知らないので聞き役にまわっている。
東郷寺家は去年、その前の年におばあさまを亡くされたお祖父様の療養もかねて、クリスマスからお正月までハワイに行かれたそうだ。今年はやっぱり日本の温泉が良い、と言うお祖父様の希望もあり軽井沢の別荘に行くそうだ。
ホワイトクリスマス。良いなぁ。
西園寺家は虎太郎君が大きくなってきたので、昨年はオーストラリア、今年はハワイで花巻家と合流する予定みたい。別行動になると思うよ。と翔君。苦労するね。
「愛梨花ちゃんはどうするの?」
龍一郎君に聞かれたけど首を傾げてしまう。知らないんだな、それが。
「お祖父様が良ければご一緒にと言ってたよ」
と雪二郎君が笑顔で言う。
えっ!嬉しいかも!憧れのホワイトクリスマス!
「暖炉あるの?」
「あるよ。マシュマロ焼くと美味しいんだよ」
雪二郎君が説明してくれる。楽しそう!
「行きたいな。お母様に聞いて見る」
「あっ、お前が行くならオレも行く。なっ翔、行くだろ」
「行けるものならね」
龍一郎君はちょっとあきれた顔で
「君達ハワイだろう?」
その時バタバタと渡り廊下に足音が響いたかと思うといきなり部屋のドアが開けられた。
「あなた!急に予定の変更ってどう言うことなの!!!クリスマス会を見たら直ぐにこちらに来るって言ってましたわよね!」
鬼の形相で派手なおばさまが現れた。思わず翔君の顔を見る。
(あれ、うちの母親)小声で言う。わぁ凄いね!
翔君のお父様は月光院のお祖父様と東郷寺のお祖父様がいらっしゃるのでこれはまずいと立ち上がった。
「薫子、落ち着いて、外で話そう。ここはまずい」
慌てておばさまに駆け寄ると背中に手を置く。おばさまはそれを振り切って翔君の方へやって来た。何だかまずい雰囲気だ。
「あなたがまた我が儘を言ったんでは無くて?」
そう言うと手を振りかざした。翔君はいつものことみたいで目をギュッとつぶった。ダメでしょう。子供叩いたらいけない。濡れ衣だし。
思わず翔君の前に出てしまった。32歳の私。身体は5歳だった。もろに頬を打たれると横にすっ飛んでしまった。
「キャー愛梨花ちゃん!!!」
お母様の悲鳴が聞こえた。痛い。頬を触ると血が出ていた。指輪で切ったみたいだ。
龍一郎君が抱き留めてくれた。おかげで他はどこも打っていない。
泣こうかどうしようか迷っていると、龍一郎君が口を開いた。
「おばさん、DVですよね。雪二郎、アイシングがあるか聞いて」
大人が皆、固まっている仲次々と指示を出していく。まだ11歳なのに誰よりも冷静だ。
やっと固まっていたお母様が我に返って、貰ってきますと部屋を出て行った。
「ちょっとあなた何なの!いきなり出てきて、私を悪者にする気?」
ほっぺがヒリヒリして目に涙が溜まっている。
そんな子供に何を言うんだこのおばさまは、許しがたし。
怒りで唇がぷるぷるして上手く喋れない。
私は龍一郎君の腕の中から顔をあげるとおばさまに向き直った。
「きょう、わ、わたしは、い、いしょうがなくて、でもしょうくんは、大丈夫ってしんぱいしてくれて、やさしいのに、な、なんでぶつの……」
「愛梨花こちらに来なさい」
いつのまにかお祖父様が抱き上げてくれた。
「花巻家は月光院を敵に回す気なのかな?」
「申し訳ありません」
翔君の父様が深々と頭を下げる。
「薫子、お前も謝りなさい」
「なんで私が!悪いのはあなたでしょう!それに月光院だなんて聞いていないし……」
おばさまは、急に体裁を気にしだしてしどろもどろになってきてた。
ここぞとばかりにお祖父様に言いつけた。
「あのおばさま翔君いじめてるの。しょ、翔君におしりあざあるよ」
それを聞いた翔君のお父様が翔君を手招きをした。
「翔こちらに来てパンツ脱ぎなさい」
翔君が私を驚いた様に見ながら焦って言う。
「ちょ、ちょっとここじゃあ無理、って言うか、どこでも無理」
「お前いつ翔のしり見たんだ!」
虎太郎君ここで食いつくの止めて。ややこしくなるから。
小説では母親から折檻を受けていた翔君。虐待は家族の1番弱いものに向かう。
「虐待は見えない部分にすると言います。確認するべきです」
龍一郎君がキッパリと言う。よくぞ言ってくれました。その通りです。
翔君のお父様は翔君を捕まえるとパンツを剥いだ。ご愁傷様、翔君。
お尻にはあざがあったらしい。見てないからわからないけど、翔君のお父様が絶句していた。
「お祖父様信じて」
泣き声になってしまった。
「花巻君、奥方と良く話し合うべきだな。それまでは西園寺さんの所に翔君を預けてはどうか?私達の出る話では無いがな」
東郷寺のお祖父様が言うと翔君のお父様は頷いた。
都合が悪くなってだんまりを決め込んでいたおばさまを連れて帰られた。
「翔君、落ち着くまではしばらく我が家にいましょうね」
虎太郎君のお母様が言うと翔君はほっとしたように頷いた。”後で兄様に荷物持ってきて貰わないといけないわ”などとつぶやきながら何処かへ電話をしている。
お祖父様が私の頬に手を当てた。
「切れてるな」
「パフェ食べたら直る」
泣きながら言う。
アイシングを持ってきたお母様が頬に当ててくれた。
「愛梨花ちゃん我が儘言わないのよ」
「お祖父様、パフェ食べる」
涙が頬を伝わる。今日は頑張って5歳の私はもう限界だし。グズグズになってきた。
「今日は愛梨花ちゃんが頑張ったから良いんじゃ無いかな?頼んでやったらどうだ」
東郷寺のお祖父様に言われてお母様が渋々頷いた。
「皆でパフェ食べたい。私だけはイヤ」
「そうか、そうしよう」
お祖父様の一言で、仲居さんが来て、抹茶とほうじ茶どちらのパフェが良いですか?なんて聞いてきた。
お母様と虎太郎君のお母様はどちらも美味しそうね!なんて嬉しそうに話している。
さっきまで渋っていたのは、どこのだれですかね?もう!
隣で美味しそうにほうじ茶のパフェを食べている翔君を見て、良かったな、と思う。
小説ではこんなに早く事が明らかにならなかった。誰も信じる事など出来ないまま大きくなっていく翔君。
女性に対しては激しい嫌悪感を抱き利用していく人生を選んだ。小さい頃のトラウマが原因としてあったんだ。少しでも暖かい人生を送って欲しい。
ところで翔君はほうじ茶派なんだね。ちなみに私は抹茶派。虎太郎君も抹茶だ。
虎太郎君が、お前いつしり見たんだとうるさい。
”カン”とだけ言っておいた。見てないし!
翔君は目を合わさない。見てないよ!
先ほどから、ぷにぷにのわらび餅が、私のフォークをイヤがって逃げまわっている。観念せよ!
ちなみに、いちごはのってるよ!
パフェの力は偉大で、さっきまでの気まずい雰囲気が嘘のように無くなっている。
良かった。
終わりよければすべてよし!




