第六十一話 対ドワーフ戦(6)
「しかしラードフ将軍、ではどうするのじゃ?補給が無いとすれば、持ってあと二週間。帰りの事も考えねばならぬ。空腹で戦は出来ぬぞ。それに、あのオーガの娘、あの破壊力でフェーリーメドウズだと言いよった。もしゲイティメドウズを撃たれたら防ぎようが無い」
ラードフにも老師にも、補給が見込めないと言うことの危険性は十分にわかっている。重傷を負った兵もまだ後送できていない。そうすると、手当をする包帯や医薬品が全く足りないのだ。ある程度の準備はしていたが、短期間でこれほど多くの重傷者を出すなど想定外だった。
「老師、魔法で城門を破壊できますか?それが可能なら、老師が破壊してくれた城門をめがけて4万の兵を突撃させます。敵は5000程度。国境の砦にも兵を回しているので少なくなっているはず。それに、あのような巨大魔法を何発も撃つことなど出来るはずがありません。あのオーガの魔法で300人が死傷しました。しかし、数万の内の300人です。万が一何発か撃たれても全滅することはありません。必ず突破できます」
老師はしばし目を閉じて考えを巡らす。確かに国家の期待を背負って出兵したにもかかわらず、大損害だけ出しておめおめと逃げ帰ることなど出来ない。
「わかりました、将軍。やりましょう。ただし、わしの上級魔法ゲイティメドウズは支援の魔道士を含めて300メートルまで近づかなければ効果が無い。何としてもそこまで前線を進めてくだされ」
「ありがとうございます!老師!」
――――
翌日
「全軍突撃!ひるむな!何としても老師が詠唱するだけの時間を作るのだ!」
「「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
ドワーフ兵達は、盾を二枚重ねにして突進を開始した。人族の爆発攻撃から身を守るために、鎧の外に野営用の寝袋をくくりつけている者もいる。ドワーフの戦士達は、突き進む。そして砦の中から爆発する何かが投射され、ドワーフ軍の中で爆発が起こり始めた。しかし、今度はだれもひるまない。己の勇気一つを友として、ドワーフの誇りを守るために振り向く事は決して無い。
老師と魔道士数人が屈強なドワーフに囲まれて前進する。周りでは止めどなく爆発が起きているが、なんとか砦に近づきつつあった。
ドワーフ軍の最前線は、砦まで300mまで迫っていた。そして、老師達はその後ろ300m位をすすんでいる。まずはオーガの小娘に魔法を撃たせて魔力切れにさせるのだ。そうすれば、勝機が見えてくる。
「魔力反応じゃ!連中、魔法を撃ってくるぞ!防御態勢をとれ!」
魔力の集中を感じて、老師は周りの兵に警戒を促した。オーガの娘が魔法を放てば、前線の数百人が消し飛ぶだろう。しかし、こうするしか勝ち目が無いのだ。
「すまぬ。お前達・・・な、なんだと!?巨大な魔力反応が複数じゃと!?まさか、まさか・・・」
「「「「フェーリーメドウズーーーー!」」」」
砦の上の5人の術者からフェーリーメドウズが放たれた。それは中級魔法のはずだが、老師達が知るレベルの魔法ではなかった。そして、前線の5カ所で大爆発が発生する。
「あ、あんな魔道士が5人も居るというのか・・・、ば、ばかな、もう魔力が集中しているだと?」
迫り来る数万の大軍に対して、信長達はエーリカだけでは無く蘭丸、坊丸、力丸、ガラシャも同時にフェーリーメドウズを放つことを選択した。エーリカ達の魔法の射程距離は約500mと、普通の術者より100mから200mほど長い。それでも限界があるためドワーフが300mに近づくまで待っていたのだ。
そして、魔力切れを起こさない程度に3回の発射を行った。
「ラードフ将軍!ラードフ将軍はどこじゃ!」
ゲイティメドウズの詠唱準備をしていた老師達の近くでも爆発が起こり、魔道士のほとんどがやられてしまった。術式を組み立てる支援の魔道士がいなければ、老師も上級魔法を撃つことは出来ない。
「三回目の爆発に巻き込まれてラードフ将軍は行方不明です!」
「次席指揮官はどこじゃ!」
「わ、わかりません、前線は大混乱です!」
「何という事じゃ、わかった、お前で良い!全軍後退の命令を出せ!このままでは全滅するぞ!」
――――
「信長様、ドワーフ軍が撤退していきます!」
「ふん、口ほどにも無いな。では、連中が射程距離から出るまで迫撃砲を撃ち続けろ!二度と我が領に手出しできぬと教えてやれ!」
――――
「おーい、こっちのドワーフは息があるぞ!」
ドワーフ軍が撤退した後、散らばっている死体を片付ける作業を始めた。着ていた鎧や甲などの鉄製品は全部はぎ取ってから死体を積み上げ、油をかけて燃やした。
息のあるドワーフは回収して、オーガの女達が治癒魔法をかけて回った。エーリカやガラシャほどでは無いが、この1年の訓練によって、オーガ族も治癒魔法がかなり上達していたのだ。
そして、一人の将官が信長の前に連れてこられた。
「お前が総大将のラードフというヤツか」
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