第六十話 対ドワーフ戦(5)
「敵の本陣は見つからなかったか」
「申し訳ありません、信長様。敵の総大将を見つけることは出来ませんでしたが、エーリカの魔法と会わせて1000人くらいは斃すことができたはずです」
「そうか。総大将を討ち取ってそのまま撤退されたら、俺たちの恐ろしさが理解できないだろうからな。十分な戦果だ。ゆっくり休め」
シュテン達は朝方まで行き当たりばったりに動いて総大将を探したらしい。まあ、6万の軍隊から本陣を探すのはそもそも至難の業だろう。しかも、ドワーフ軍はパニックを起こして前線基地に逃げ帰っているので、ドワーフ軍内でも混乱して本陣の位置がわかっていない可能性もある。
「さて、ワランソの町に居ることはわかってはいるが、そこを戦場にすると町が焼かれてしまうからな。それは避けたい。ということで坊丸、力丸、お前達は1000の兵を率いて国境の砦を落とせ。補給路が断たれたと知ったら連中の取れる手段は二つだけだ。逃げ帰るか、もしくは背水の陣でこの砦を落とすか。兵は神速を尊ぶという。すぐにかかれ!」
――――
国境の砦とこの第三砦との間には、ドワーフ軍が前線基地にしているワランソの町がある。当然ワランソの町を通るわけにはいかないので大きく迂回するのだが。これを歩いて行軍していては何日もかかってしまう。しかし、それを1日で行軍できる秘密兵器を準備していたのだ。
名付けて「銀輪部隊」
そう、自転車を配備した部隊である。
この1年間で、町や砦を結ぶ街道は最低限ぬかるみにならないよう砂利や真砂土を敷いている。その為、迂回したとしても国境の砦まで1日で到着できるのだ。
坊丸と力丸に率いられた人族兵1000名は、最低限の水と食料を背嚢に入れて自転車にまたがった。そして、背中には一挺の5発装弾ボルトアクション小銃を担いでいる。
現時点において、アンジュン辺境伯領には1000挺の小銃がある。それを全て力丸と坊丸の部隊に持たせた。攻めるとき、やはり携行できる対人兵器というのは役に立つのだ。
坊丸達は、日の暮れる直前になんとか国境の砦にたどり着くことができた。
「兄上、連中はここが襲われるとは思ってもいないみたいですね。砦の上に20人ほどの歩哨がいるだけで、あとは兵舎で寝ています。おそらく500人と言ったところですね」
※坊丸は力丸の兄
日が暮れて夜になるのを待って、坊丸達は砦の見えるところに前進した。自転車はもちろん近くの林に隠してある。
「じゃあやるか。指示したとおり、一気にやるぞ!」
1000名の兵士は兵舎が見える位置に伏せて小銃を構えた。暗闇に紛れるように、顔には炭を塗っている。月明かりが多少あるが、よほど目の良い獣人族でなければ発見するには難しいだろう。
そして、力丸が手榴弾を兵舎に向かって投げつけた。
――――――
ドーーン!
「何だ!敵襲か!?」
「爆裂魔石です!おそらく敵襲!」
「総員起こせ!!」
500人のドワーフ兵達はベッドから飛び起き、自分の戦斧や剣を持って兵舎から駆け出てきた。敵がすぐそこまで迫っているようなら鎧や甲を着ける時間などない。すぐに外に出て応戦しなければならないのだ。
パンパンパン
「うぉぉぉぉぉ!」
「何だ!?この破裂音は!?」
「ラダン隊長!石か鉄のつぶてです!当たった場所がえぐられています!盾や鎧も役に立ちません!」
「なんだと!鉄の盾を貫くというのか!?全員砦に逃げ込め!!」
国境の砦は確かに石造りではあるのだが、ドワーフから攻められないように防御面はバート連邦の方を向いている。それに対して兵舎があるのはアンジュン辺境伯領側だ。その為、坊丸達の居るアンジュン辺境伯側への防御力は皆無なのだ。
砦に逃げ込もうとするドワーフたちに対して、坊丸達の兵は余裕を持って狙いを付けることが出来た。まるで射撃訓練をしているような感覚だった。
そして15名ほどを捕虜にして、残りは全て殺害することに成功する。
「お前が隊長か?油断しすぎだろ?人族を甘く見るなよ。それと、生きて帰りたかったら言うことを聞け。アンジュン辺境伯様はバート連邦との戦争を望んではいない。おとなしく兵を引いて賠償金を支払えば許してやる。それをワランソの町にいるお前達の主力に伝えろ。どちらにしてもお前達はもう補給も無いのだ。勝ち目は無い」
15人の内、10人を解放してワランソの町の主力に向かわせた。そして、もしも主力に向かわず本国に逃げ帰った場合、裏切ったことを残りの5人を使って本国に伝えさせると言ってある。これで確実にワランソの主力の所まで行くだろう。
――――
「バカな!国境の砦が落とされただと!」
シュテン達の夜襲の混乱から、なんとか部隊と指揮命令系統を立て直したばかりの所に、信じられない報告を受けて、ラードフ将軍はテーブルを思いっきり拳で叩いた。テーブルはラードフ将軍の拳に耐えることが出来ず、無残に砕け散る。
「ラードフ将軍、後背の砦が落とされたことを兵が知ったら浮き足立ちますぞ。そうなればもう勝ち目はありません。理解の出来ない魔法や新兵器を奴らは持っております。一度本国に帰還して体制を立て直すべきですじゃ」
「老師、それはわかります。しかし、6万の兵を持って5000の人族に負けたなど、ドワーフ族の歴史が始まって以来の失態。それを受け入れろと・・。しかも連中は賠償金を要求してきてる!そんなことを受け入れることは出来ん!」