第四十六話 アンジュン辺境伯 ブザーン砦(1)
この四ヶ月の間に、坊丸と力丸を使ってアンジュン辺境伯の事を調べさせた。領民は200万人くらいで、常備兵力は4000人程度。そのほか、男子には17歳から19歳までの三年間、軍隊経験が義務づけられているらしい。思ったより近代的なシステムを採用している。
「だいたい200万石の大大名と言ったところか」
※戦国時代から江戸時代までの“石”の単位は、おおむね人間一人が1年間に消費する米の量であったため、200万人の人口ということはだいたい200万石の石高ということになる。
「はい、信長様。イーシ国王の重鎮で有り、辺境領では最大兵力を持っております」
神聖エーフ帝国に貢いだ奴隷5000人の内、250人はこのアンジュン辺境伯領から送られたらしい。税金は六公四民で、生産高の6割を納めている。また、隣のイーボチヤ伯爵とは、国境にある川の中州の領有を巡ってたびたび国境紛争が発生している。
「ますます日本の戦国時代のような世界だな。民衆からは慕われているのか?」
「イーボチヤ伯爵と紛争を抱えているため税金は高めに設定されており、昨今の兵役の強化もあって民衆の不満は高まっております。また、最近では下級役人の横暴や賄賂の要求が露骨になっているようで、さらに民衆の心は離れつつあります」
この森と領地を接しているため、魔物が森から出てこないように砦が設置されている。そして、その砦を越えたら領主城まで障害はほとんど無い。
「こっち側は魔物の森だからな。他の領国や他国からの侵攻は無いと思っているのだろう。好都合だ」
そして、魔物の森との境にあるブザーン砦に到着した。その砦は石垣を積んでいてかなり堅固な造りをしている。砦の上には4人ほどの兵士が見えた。その兵士達はこちらに気づいたらしく、慌ただしく動き始めた。事前の調査では、この砦に200人くらいの兵士が常駐しているらしい。
「じゃあエーリカ、あの城門を魔法でぶっ飛ばせ。遠慮はいらねぇ。やっちまえ!」
「はい!信長様!」
「ちょおっと待ったぁ!!!」
そのやりとりを聞いていたガラシャが、信長の肩をがっしり掴んで叫んだ。
「なんだよ、ガラシャ?なんか文句あるのか?お前もこの戦争、同意しただろ?」
アンジュン辺境伯を攻略するに当たって、人族の兵士が多く死ぬであろう事はガラシャにも説明した。奴隷を差し出すような状況を変えるためには、ある程度の犠牲は仕方が無いことだと理解を得ていたはずだ。
「そ、それはそうだけど、エーリカちゃんに一発目を撃たせることは無いんじゃない?フェーリーメドウズを使ったら、あそこにいる人たち死んじゃうよ!エーリカちゃんに人殺しをさせる気?」
ガラシャは大まじめな顔で信長に抗議をする。その抗議を聞いて信長は頭痛がしてきた。
「あのなぁ、ガラシャ。俺たちが生きてるこの世界は、そんなこと言ってるような甘っちょろい所じゃないんだよ!お前も知ってるだろ?殺らなきゃ殺られるんだよ!」
「で、でも・・・」
「あのぉ、信長様・・・・」
と、そこに坊丸が割り込んできた。
「なんだ?坊丸?」
「言い争うのもよろしいのですが、敵のバリスタがこちらを向いております」
※バリスタ 巨大な据え付け型の弓
次の瞬間、バリスタから巨大な矢が放たれ、信長のすぐ脇を通って地面に突き刺さった。
――――
「隊長!武装した集団が森から出てきました!およそ100!」
ブザーン砦を守っている兵士が森から出てきた信長達を視認し、隊長に報告をした。距離が400メートルくらいあるので種族はわからないが、皆鎧を着ていて手には剣を持っている。
「魔物の森から出てくるということはオーガ族か?完全武装で陣を組んでいるとなると仕掛けてくる気が満々だな。バリスタを準備しろ!準備でき次第、あの一番豪華な鎧を着ている男を撃て!それと、領主様に連絡を!」
そして、最初の一発目はブザーン砦から放たれた。
――――
「あっぶねー!早く言えよ!おい!ガラシャ!攻撃をされたぞ!もういいだろ!正当防衛ってやつだ!エーリカ、ぶっ放して俺たちを守るんだ!」
「はい!信長様!」
俺たちを守れと言われたエーリカは頬を赤らめて笑顔になった。信長から頼られたことが心底嬉しいのだ。
「・・・・七つの魂を捧げ煉獄の扉が今開かれん。フェーリーメドウズーーー!!!」
エーリカが呪文の詠唱を終えると、その掌から青白く輝く光球が放たれて城門に着弾した。そしてその光球は持てるエネルギーを全て解放し、巨大な爆発を引き起こす。
「よし!城門を破壊したぞ!相手はたった200人ほどだ!全軍突撃!」




