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第四十話 オーガの村(4)

「そんなの認めないわ!」


 オーガの男達の後ろから声がした。若い女の声だ。


「お父様は、一族を守るために苦渋の決断をされたのよ!それを・・・お父様を侮辱した言葉、取り消せ!」


 女はオーガの男達の上を飛び越えて、信長にめがけ太刀を振り下ろした。その剣速は族長と呼ばれたオーガの剣速よりも速い。


 ガキン!


 蘭丸が信長の前に出て女の剣撃を絶仙剣で受け止める。


「お父様の剣を・・よくもっ!」


 170センチくらいのスラッとした女は、そのしなやかな肢体をうまく使い一度後ろに跳んで勢いを付け、体勢を低くして蘭丸の足を狙う。


 蘭丸はそれをほんの少しだけジャンプをして躱し、女の背中に回し蹴りを喰らわせた。回し蹴りを受けた女は、自分自身の勢いとも相まって激しく前方に転げる。そして蘭丸は女の所に素早く駆けより、剣を握っている右手を蹴り上げた。


 女が持っていた剣はくるくると宙を舞う。


 女は上体を起こし、蘭丸を睨んだ。オーガの実年齢は不明だが、年の頃は17歳くらいに見え、明るいブラウンヘアに紫紺の瞳をもった美少女だ。


「お父様は苦悩していたのよ!一族を守るために、仕方なく・・・・うううぅぅ・・・」


 オーガの女はその場で泣き崩れてしまった。大粒の涙がぼたぼたと地面を濡らす。


「自分たちが生き残るために弱いヤツを生け贄に出したんだろ?だから許してくれってか?」


 女の前に信長が歩み寄った。


「じゃあ、俺たちも同じだな。俺たちがこの世界を支配するために、弱っちいお前のオヤジを殺したんだ。そしてオーガ族を手に入れた。弱いヤツを切り捨てるようなヤツはなぁ、より強いヤツから切り捨てられても文句は言えねぇんだよ!俺はなぁ、家来になったやつを見捨てたりはしねぇ!どんな敵でもぶっ飛ばしてやる!」


「・・・・お父様・・・・」


 シュテン達オーガ族の戦士も、信長の言葉に耳を傾けていた。族長は強かった。そして、一族を守るためにあらゆる努力を惜しまなかった。しかし、88年ごとに訪れる“お役目”だけは、避けて通ることが出来なかったのだ。どうしようも無かった。そして一族の中で、人族の母親を持つ混血のエーリカがお役目に選ばれたのだ。エーリカの両親はすでに他界しており、エーリカが死んでも悲しむ者が少なかったから。そして、自分たちはそれに納得したのだ。


 しかし、それは信長にとっては卑怯者のする事なのだろう。運命にあらがうことを放棄し、本来守らなければならない一族の弱き者を生け贄に出すなど、誇り高きオーガ族のすることでは無いのだ。


 族長の娘にシュテンが近づき、その肩にそっと手を乗せる。


「ソーラ、族長は誇り高き戦士だ。その族長が全力を出して負けたのだ。その戦を汚すものではない。我らは強き者に従うのが掟だ」


「シュテン・・・ううううぅぅぅ・・・」


 ブオオオオォォォーーー!ブオオオオォォォーーー!



 突然、村の反対側からホラ貝を吹くような音が聞こえてきた。それは、何度も何度もこだました。


「何だ!敵襲か!?」


 シュテンは立ち上がり、オーガの戦士達に向かって叫ぶ。そして、一人のオーガが駆けよってきた。


「村の北側から魔物の大軍です!物見櫓の見張りが発見しました!グレイブベアやオークも多数います!あと、10分ほどで来ます!」


 ※時間や距離の単位はスキルで自動翻訳されている


「まさか、ケートゥ様の影響がこんなにも早く現れたというのか?」


 シュテンはその報告に眉根を寄せて渋い顔をした。ケートゥ様が信長達に倒されてから半日ほどしか経っていないはずだ。それなのに、もう魔物の大軍が押し寄せてきたと言うことだろうか。


「おい、ケートゥ、お前が槍になっちまったから魔物があふれてきたのか?」


 ケートゥはすでに槍の形に戻って信長の手の中にあった。


『さきほど我が龍体に顕現したからであろう。その濃密な魔素に影響されて暴れておるのじゃ』


「そうなのか?じゃあ、迂闊にお前を使えないじゃないか」


『この森はレイラインの結節点があるからのぉ。そのせいで魔物も多く住んでおる。だが、魔物の居ない場所であれば我が顕現しても問題なかろう』


 ※レイライン 魔力の地脈


「なるほどな。まあ、どちらにしてもこの周辺の魔物は一掃してやらないとな」


 魔物の襲来を受けて、シュテンはオーガの戦士達に指示を出していた。


「女子供は族長の家に集めろ!戦えるものは武器を持って戦え!」


「おい、シュテン。こういうときの戦い方は決めているのか?」


 信長はシュテンの指示がどうにも抽象的で的を射ていないように思えたのだ。


「いえ、我らは皆戦士です。自らが戦いたいように戦います」


 その言葉を聞いて信長はちょっとした頭痛を覚えた。いくら個々の能力が高くても、組織的に動かないのであれば1+1は2にもならないのだ。


「おいシュテン!すぐに戦える者をここに集めろ!そして俺たちの指示に従え!あとガラシャ!女子供を族長の家に入れて守ってやれ!」


「わかったわ、信長くん!」


 ガラシャは戦えない女子供と一緒に族長の家に入った。そして氷魔法で家の周りに氷壁を作っていく。


 空気中の水分を凝結させて氷を作ると、水分を失った空気は体積が減ってしまう。それを埋めるために水分を含んだ空気が流れ込んでくるので、無尽蔵に水分を取り出すことが出来るのだ。


 そして、分厚い氷のドームで族長の家を封じる事が出来た。ドームの中は、氷魔法とは逆に温魔法で暖めている。これで、女子供の安全は確保できた。


「あんな強力な魔法が使えるのか?」


 オーガの戦士達はその様子を見て驚愕した。人族がこんな魔法を使えるなど聞いたことが無かったのだ。


「よし、じゃあ男達を四つのグループに分けろ!それを蘭丸、坊丸、力丸、シュテン、お前達が率いるんだ!そして戦うときは二人一組で必ず戦え!俺はあの氷のドームの上から指示を出す!わかったか!」


「わ、私も戦う!」


 そこへ族長の娘ソーラが剣を持って駆けよってきた。


「私も戦うわ!みんなを、弱き者を守りたい!」


 ソーラはまっすぐに信長を見る。その目にはもう復讐の炎は無かった。ただ、一族を守りたいという純粋な気持ちだけが見て取れた。


「わかった。ソーラだったか?お前は蘭丸の隊に入れ!お前のオヤジを打ち負かした男の強さを間近で見るんだな!」



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― 新着の感想 ―
オーガ族は、戦いにおいて互いの連携も取らず、力任せに突っ込む脳筋集団だということが判明した。
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