第三十八話 オーガの村(2)
「おい!俺のかわいい家来が止めてくれって言ってるから殺すのは止めてやる。俺たちを村まで案内しろ!で、エーリカを生け贄に出す事を決めたヤツに会わせるんだ。話がある」
そう言って信長は、トライデントの穂先をオーガのリーダーらしき人物に向けた。
「シュテン様!このような奴らの言うことを聞く必要はありません!ドーレルが殺されたのですよ!ここで皆殺しにしてエーリカを取り戻しましょう!」
傍らのオーガがリーダーに詰め寄った。他のオーガ達も口々に信長達を殺すべきだと訴える。
「静かにしろ!先に殺そうとしたのはドーレルだ!そしてドーレルは一対一の戦に破れた!それだけだ!」
シュテンと呼ばれたリーダーのオーガが一喝した。すると、それまで騒いでいたオーガ達が静まりかえる。
「信長と言ったか?お前達は何故エーリカを連れている。ケートゥ様に捧げられたはずだ。まさか、逃げ出してきたのか?」
シュテンも持っていた片刃の剣を信長に向けて問い質した。エーリカは覚悟を持って祭壇に上がったはずだ。それが逃げてくるなど考えられない。
「ああん?ケートゥは俺たちが退治してやったよ!それでエーリカを救い出してやったんだ。文句あるか?それでよぉ、俺の家来になったエーリカを生け贄に出したヤツと話がしたいんだ。わかるか?別に殺し合いに来たわけじゃ無い。は・な・し・に来たんだよ」
信長はシュテンを睨んで口角を上げた。とても凶悪な顔をしている。
「信長様は殺してやるって言ってたよね?」
「ああ、言ってたな。これ以上無いくらいに言ってた」
信長達の後ろで、坊丸や蘭丸達がひそひそと話をしている。
「バカな!ケートゥ様を人族が倒せるはずは無い!我々オーガ族でも太刀打ちできないのだ。それに、もし本当にケートゥ様が倒されたなら、この森の魔素が濃くなりすぎて住めなくなるぞ!」
「ああ、ケートゥのやつもそんな事を言っていたな。88年ごとにオーガ族の子供を喰らって魔素を結晶化するってよ。だから言ってやったんだ。同族の弱いヤツを生け贄に出すような連中は滅びればいいってな!」
それを聞いたシュテンは眉間にしわを寄せて下唇を噛んだ。確かに信長の言うとおりだ。族長が決めたとはいえ、それに逆らうことをせずにこのエーリカを生け贄に出したのは他でもない、俺たち全員なのだ。しかし、それは苦渋の決断だった。族長は88年前の儀式を見たことがあると言っていた。この儀式で生け贄になることは、一族を守るための誇り高きお役目なのだと。88年前も、生け贄になった少女は誇りを持って自ら進んで洞窟に入っていったのだと。だから、悲しむことは無いのだと。
しかし、それは詭弁だ。この森でしか生きていけない俺たちは、魔物が増えすぎると対抗できなくなる。だから、村で親の居ない子供や混血の子供を生け贄に差し出すのだ。
このことに、若手戦士のリーダーであるシュテンは忸怩たる思いを持っていた。
「ケートゥ様を倒したのであれば、俺たちで判断の出来ることじゃない。族長の判断を仰ごう。お前ら、付いてくるがいい」
信長達が本当にケートゥを倒したとは思っていないが、ドーレルを一撃で倒したことも間違いない。確かに、こいつらは強い。それに、言っていることは正論だ。だから、何が正しいのか、族長と話をさせて見極めたい。シュテンはそう思ったのだ。
「おお、助かるぜ。でもよぉ、仲間を殺された復讐を村でしようってんじゃないよな?そうだとしたら、本当にお前ら皆殺しにするぜ」
「ふっ、その心配は無い。我々は誇り高き戦士だ。戦いで負けたからと言って恨みを持つようなことは無い。戦こそ真理。強き者が勝つのは道理だ。我々は強き者に従う民族だ」
「ほう、強いヤツに従うのか。じゃあ、俺様に従ってもらおうか。それが道理なんだろ?」
「ふっ、それは族長に勝ってから言うんだな。族長は伝説の戦士だ。お前らごときが勝てる相手ではない」




