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第三十七話 オーガの村(1)

「このトライデント(三叉槍)の威力はすさまじいな」


 洞窟から出た信長達は、相変わらず襲ってくる魔物を撃退しながらオーガの村を目指す。先ほどまでと違うのは、エーリカが増えていることとトライデントを持っていることだ。


 トライデントの使い方は自然と伝わってきた。魔力を込めて突けば、前方10mくらいまで目に見えない刺突が繰り出される。振り回しても、やはり10mくらいの範囲で斬撃を飛ばすことが出来る。持っている魔力のほとんどを消費するが、ケートゥ(黄金の三頭竜)を召喚して使役することも出来るらしい。さらに不要なときは槍は自然に消えて、必要だと思ったときに現れる。大きさもある程度変化させることが出来るのだ。


 このトライデントを得たことで、魔物との戦がずいぶんと楽になった。


「信長様、囲まれましたね」


「ああ、ビンビンと殺気を感じるな。20人くらいか?」


 オーガの村に近づくと、木の上や陰から、激しい殺気を感じるようになった。その数は20から30くらいだ。明らかに魔物とは違う。


「おい、エーリカ。この殺気を感じているか?こいつらはオーガ族か?」


 信長はすぐ後ろを付いて歩いているエーリカに問いかける。


「はい、信長様。オーガ族の戦士達です」


 エーリカの話によるとオーガ族は強靱な肉体を持っており、さらに身体強化魔法を使うことが出来るらしい。攻撃魔法や治癒魔法はある程度使えるが、エルフや魔族ほどのレベルに到達することは出来ないそうだ。


「おい!オーガ族のヘタレども!こそこそとネズミのように隠れているのはわかってるんだ!とっとと姿を見せやがれ!」


 信長は大声でオーガ達を挑発する。そして、凶悪な笑みを浮かべて周りを一瞥した。


「お前らは人族か?なぜエーリカを連れている?何をしにきた?」


 茂みの中から声がして、ぞくぞくとオーガ族の男達が出てきた。その数は二十数名にもおよぶ。背丈は1.8メートルから2メートル近い大柄な者ばかりで、額からは2本もしくは1本の角が生えていた。


「お前らがオーガ族か?自分たちの命惜しさに少女を生け贄に出すヘタレだそうだな。俺様がお仕置きをしてやろうと思ってな。お前ら!そこにケツ出して並べ!気合いの入ったケリを入れてやンよ!」


「小僧!人族の分際で生意気な!」


 信長の身長は175センチほどなので、大柄なオーガ族からすると低身長の小僧に見えてしまう。その人族の小僧に罵倒されることは、オーガ族の戦士として許容できるものではなかった。


 そして、一人のオーガが巨大な斧を振りかざして信長に斬りかかった。


「やめろ!ドーレル!まだ殺すな!」


 一人のオーガが静止しようとした。身長は190センチくらいのスラッとした男だ。赤い散切り頭に2本の黒い角が生えている。どうやらこのオーガ達のリーダーのようだ。


 しかしその制止も聞かず、ドーレルと呼ばれたオーガは信長に向けて斧を振り下ろす。身長2メートルの巨体が振り上げた斧だ。高さ2.5メートルから振り下ろされる斧にはすさまじいエネルギーが乗っている。まともに喰らえば信長の体は真っ二つになるだろう。


「遅え」


 信長は軽いステップで斧を躱し、ドーレルの懐に入る。そして少し前屈みになっているドーレルの顔をめがけて右手を突き上げた。


 その右手は拳では無く、人差し指と中指を突き出していた。そして、信長の指はドーレルの両目に、正確に突き刺さった。


「死ね!」


 次の瞬間、ドーレルの頭が爆散してしまった。そして、ドーレルはゆっくりと前に倒れる。


 信長は指から魔力を流し込み、頭の中の水分を瞬時に加熱したのだ。一瞬にして100度を超えた脳内の水分は水蒸気爆発を起こし、頭を内側から爆散させた。


「ドーレル!よくもっ!」


 オーガ族の男達は殺気立ち、一斉に信長に襲いかかろうとする。


「死にたいヤツはかかってこいよ!まとめて”なます切り”にしてやるぜ!」


 信長はトライデントを取り出し蘭丸達も剣を抜く。オーガ族にはエルフ族が着ていた封魔の鎧のような物もなさそうだ。魔法が効くのであれば、この程度の人数なら瞬時に倒せるだろう。


「信長様!やめてください!村のみんなを殺さないで!・・ください・・おねがいです・・」


 エーリカが信長とオーガ達の間に割って入った。そして、顔をくしゃくしゃにして泣いている。


「おい、エーリカ、こいつらはお前を生け贄に出したんだろ?こんな連中、生かしておく価値は無いと思うんだが」


 信長はキョトンとした顔でエーリカを見る。本当にエーリカの行動が理解できなかった。自分を殺そうとした村の連中を庇うなど、信長にとっては不合理そのものだ。そして、襲いかかろうとしていたオーガ達も動きを止めた。エーリカが巻き添えで死んでしまったら、新しい生け贄を出さなければならない。年端もいかない子供を生け贄になど、やはり出したくはないのだ。


「それでも・・殺さないでください・・村のみんなは・・・人族との混血の私をいままで育ててくれたんです・・ドーレルも・・・時々は挨拶もしてたんです・・・」


 エーリカは必死で信長の腕にしがみついていた。その体は恐怖と悲しみでガクガクと震えている。まるで生まれたばかりの子鹿のようだった。



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