第三十五話 黄金の三頭竜(3)
「あのブレスに当たったら一発で蒸発しちまうな。ありゃ、魔法の一種か?それとも科学的な何かか?」
キングヒドラと少し距離をとって体制を整える。あのブレス攻撃を連続でされると勝ち目はなさそうだが、キングヒドラはまだ第二射を撃ってこない。
「あのブレスの連射は出来ないようですね。しかし、岩を溶かすほどの高温ということは、プラズマか陽電子などかも知れません。おそらく、口の中で魔力によってエネルギーを錬成し放出しているのかと。口から出た後は、魔力のようなものは感じませんでした」
今の攻撃を見た力丸は、一瞬で科学的魔法的な考察をする。さすがは力丸だ。
「しかし、ちまちまと鱗の隙間を狙っていても倒せそうにはないな。覚えたばかりのあれを使ってみる。蘭丸達は詠唱の時間を稼いでくれ!」
「承知しました!」
蘭丸達は3人がそれぞれ予測のできない剣筋でキングヒドラに斬りつける。さっき鱗の隙間に剣を刺されたばかりなので、キングヒドラも慎重になっているようだ。
「・・・・七つの魂を捧げ煉獄の扉が今開かれん。フェーリーメドウズーーー!!!」
『人族の分際で中級の火魔法だと?こざかしい。しかし、中級魔法では我の鱗を打ち抜くことなど出来ぬ。・・・ん?何だと!?』
詠唱をしている信長の両手には、青白く輝く火球が生じていた。そして、詠唱が終わったと同時に、その火球は音速を超える速度でキングヒドラに迫ってきたのだ。
『ま、まずい!!!』
キングヒドラはその魔法の危険性を一瞬にして判断した。あれは危険だ。明らかに中級魔法のエネルギー量を超えていて、あれをまともに喰らってはただですみそうに無い。
その青白い光球を避けようとしたのだが、足が氷で固められていて一瞬遅れてしまった。ただの水が固まっただけの氷だ。力を入れればすぐに砕けると思っていたことが裏目に出てしまったのだ。ほんの一瞬、その遅れがキングヒドラにダメージを負わせることになった。
「アギャアアアァァァァァァァーーー!」
その光球はキングヒドラの一つの首をかすめていた。そして、そのかすめた部分の鱗がはがれて下の肉が露出している。
「あれだけのエネルギーをぶつけてもこの程度のダメージしか与えられないのかよ!」
魔導書で覚えた中級の火魔法に、信長は自分なりの工夫をしていたのだ。この「フェリーメドウズ」の魔法はてのひらに火球を作って打ち出す魔法だ。ラノベやアニメにあるファイヤーボールのような魔法なのだが、信長はその火球の中心にある分子の振動をさらに加速させ、プラズマ化させることに成功したのだ。おそらく中心温度は1万度以上。そのプラズマを「フェリードウズ」の魔法によって凝縮し打ち出したのだ。
これによって、ただ単に魔法を詠唱した時の何倍もの威力を獲得していた。
「だが、全く効かないというわけじゃなさそうだな。もう一度行くぞ!」
信長は再度魔法の詠唱に入った。そして、その時間を稼ぐために蘭丸達は剣を振り下ろす。
『なめるなぁ!人族!』
キングヒドラの叫びは、信長達の頭の中にはっきりと聞こえた。音声では無い。テレパシーのような超感覚で伝わってきたのだ。
そして、キングヒドラの翼の端から、何枚もの鱗が信長達に跳んできた。
蘭丸達はその跳んできた鱗を剣でたたき落とす。信長も詠唱を中断して鱗を避けた。
しかし、
「あぶねぇ!」
鱗の一枚が緑色の髪の少女に向かっていったのだ。
信長は少女を抱きかかえて避けようとする。しかし、一寸遅い。
「信長くん!」
ガラシャはとっさに氷魔法で信長の背中に氷壁を作った。しかし、その程度では鱗による攻撃を防ぐことは出来なかった。
キングヒドラの鱗は信長の右肩を貫いて岩に突き刺さった。そして。傷口からは真っ赤な血が噴き出す。
「く、くっそお!奇形のトカゲの分際でよくも俺様に傷を付けてくれたな!おっと、嬢ちゃん、怪我は無いか?あの岩の陰にでも隠れていろ。すぐに終わらせてやるからな」
信長の血で髪の毛を真っ赤に染めた少女は、小さくコクンと頷いて岩の陰に隠れた。それを見た信長は、親指を上げてウインクをする。
「おいっ!トカゲ野郎!ここからはタイマン勝負だ!正々堂々と戦えよ!俺様もお前を真っ二つにしてやるからよぉ!覚悟しな!」
『ふっ、こざかしい。ひ弱な人族に何が出来る。我のブレスを受けるがいい』
今度もキングヒドラの声が頭の中に響いた。やはり、かなりの知性を持っている生物のようだ。そして、ブレスを使うことは、信長の望むところだった。
キングヒドラはブレスを吐くために大きく口を開けた。そして、口の中に光の球が形成される。
だが、信長はその瞬間を待っていたのだ。
「これでも喰らえ!」
信長は懐から出した木製の筒をキングヒドラの口の中に投げ入れた。そして、その筒に対して魔法で温度を上げた。
ドーーーン!
その筒はキングヒドラの口の中で大爆発を起こした。そして、その爆発による煙が晴れたとき、キングヒドラは首を一つ失っていた。
そして、信長はその一瞬の隙を逃さない。
「鱗は頑丈そうだが、それ以外の所はどうなんだろうなぁ!」
信長はキングヒドラに向かって駆け出し「フェリーメドウズ」の詠唱を始める。信長はジャンプして吹き飛んだ首の切り口に両手を突っ込んで詠唱を完了させた。
「・・・・七つの魂を捧げ煉獄の扉が今開かれん。フェーリーメドウズーーー!!!ぶっ飛びやがれ!トカゲ野郎!」




