第十九話 人族の奴隷
「“狩猟用の奴隷”だと?」
「ああ、そうだ!イーシ王国から狩猟用として献上された奴隷だ!そうじゃない奴隷を狩猟に使うわけがないだろう!何か勘違いしているようだな。今ならその勘違いを許してやるぞ!」
このエルフ族のアーチャーという男の話では、“人狩り”に使うのは、イーシ王国から献上された“人狩り用”の奴隷のみと言う事だった。労働用の奴隷や愛玩用の奴隷を狩りに使うような事はないらしい。
「愛玩用の奴隷もいるのか?」
「あ、ああ、人族でも見た目の良いのが時々いるからな。ペットにすることがあるんだ」
信長達は、その話を聞いてだんだんと胸くそが悪くなってきた。
「狩った奴隷はどうするんだ?まさか食ったりはしないんだろう?」
「ば、ばかな!言葉を話す動物を食ったりするわけはないだろう!エルフ族をなんだと思っているんだ!剥製にしたり加工して革製品やアクセサリーにするんだよ!ちゃんと、無駄なく使っているんだぞ!」
地球においても1800年代までは奴隷貿易があり、このエルフ達と同じような状況だった。オーストラリアでは、先住民であるアボリジニをスポーツハンティングとして狩りを楽しんでいた。そして、狩られたアボリジニは、剥製にされて飾られる事もあったのだ。
「ほう、剥製か。それはさぞかし立派な物だろう。是非とも見てみたいな。それはどこに行けば見られるんだ?」
「あ、ああ、この近くならボードレー伯爵邸に行けば飾ってある。ここから2kmほど北に行ったところだ。下賤な人族のお前達にも、特別に見られるように手配してやろう。だから、この足をどけろ!」
そういった世界と言えばそれまでなのかも知れないが、それでも無抵抗の子供が弓で射殺されるこの現状は受け入れがたかった。さらに、本来人族を保護しなければならないイーシ王国が、その安全保障の為に奴隷を献上している事にも憤りを感じてしまう。
“長島の一向宗を皆殺しにしたが、現場ではこのようなことが行われていたのだろうな”
1574年の長島一向一揆で女子供を含めた一揆勢3万人以上を虐殺した織田信長であったが、決して人殺しを楽しむためではなかった。ただし、末端の兵士においては、人殺しを楽しんでいた者が居ないとは言い切れない。
「いろいろと教えてくれて助かったぜ。感謝する。じゃあ、開放してやろうか。あの世で南無阿弥陀仏でも唱えていろ」
そう言って信長は、手に持っていた剣の先をアーチャーの胸に押し当てた。そして少しずつ力を入れていく。
「や、やめろ!許してくれ!頼む!なあ、お前、いえ、あ、あなたは勘違いしているですよ!だから、や、止めて・・・おねが・・・・ぐふっ・・・・」
胸を貫かれたアーチャーは、口と鼻から赤黒い血をあふれさせて手足をばたばたと動かしていたが、しばらくするとその動きも止まってしまった。見開いたままの目は、信長に激しい憎悪を向けていた。
”こんな連中でも流れている血は赤いんだな”
「子供はどうだ?生きているか?」
信長は、力丸の方を振り返って見る。力丸には子供の手当を命じていたのだが、治療用の道具も薬も無い。矢の刺さった場所が悪ければ、助ける事は難しいだろう。
「信長様。申し訳ありません。矢は心臓を貫いており、残念ですが・・・」
「そうか・・・・しかし、想像以上に酷い世界だな」
エーフ帝国まで連れてきてくれた行商人も“人族に人権は無い”と言っていたが、まさか人族のスポーツハンティングが行われているとは予想外だった。
――――
信長達は切り伏せたエルフ達の装備品を確認した。役に立ちそうな物はいただいていく為だ。
「信長様。エルフ達の持っている剣は、かなりの業物のようです」
蘭丸は、倒れているエルフの腰から一振の剣を抜き取って掲げてみる。美しい装飾が施されているが儀礼用の剣というわけでは無く、刀身の厚みも十分に有って殺傷能力は高そうだった。
それを中段に構えた蘭丸は、太さ10センチほどの木に振り下ろす。するとヒュンと風を切る音と共に、その木はゆっくりと倒れてしまった。
「両刃の直刀ですが、両側に刃文も入っています。作り方は日本刀に近いようですね」
「よし、剣と馬が手に入ったから、そのボードレー伯爵の屋敷とやらに行ってみるか。行くぞ!」
信長はエルフ達が乗っていた馬にまたがった。そして手綱を引く。
「の、信長様!ガラシャの事を忘れています・・・・」
「あ・・・・」




