使節団
せっせと武器防具、戦闘方法について考える日々が続く。
投擲機……って、逆か。こっちが攻められる側だもんね。攻城戦なら意味あるんだろうけど。
周囲が畑に囲まれたこんな屋敷だとどう守ったもんかなぁ。
あ、防塁作ればいいのか!?
俺作れるもんね。やればできる子だもの。
ってなわけで、チョチョイと意識を集中して屋敷の周りに防塁を作ってみる。
もぞもぞと地面が盛り上がり、見る見る……ってほど早くも無いな。まあ、人力で作るよりはよほど早いけどさぁ。
10分ほど意識を集中して幅3m、高さ2m、長さ5mほどの防塁が出来上がる。
いや、これあと何m作るのさ?
屋敷自体はそこまで大きくはないけど、使用人の家も守ってあげたいし……
周囲を囲うとなると……やっぱり数kmは必要だよね。
ん~。
と悩んでる時にハタと気づく。
別に防塁である必要ないな。壁で良いか。俺の作り出す物質最強だし。
言葉としては陳腐だが、言葉に偽りはない。
薄くても丈夫な防壁になるだろう。
体積が小さければもっと早く作れるはずだ。そうすればより長い距離、広い面積を囲うことが出来る。
そうと決まれば一気に作るぜ!
せっせと壁づくり。
厚みは2cm強と言ったところだが、流石は俺が創る最強物質。燃えない、溶けない、撓まない、傷つかない。いやはや。我ながら恐ろしい物質っすな。
壁の断面形状は「ρ」みたいになっている。外側に向かって丸く張り出しがあり、表面はなめらかで引っ掛かりがない。鉤縄対策も万全だ。
外から梯子をかけられたらどうするのかって?
大丈夫ですよ旦那。
高さが8mほどありますからね。壁頂上も半径3mの円筒形状ですから、梯子をかけた位置から頂点を超えるところまで飛び越えないと中には入れません。
足場の悪い梯子のてっぺんから、立ち幅跳びで3mはきついっしょ?たぶん武器防具含めて数10キロのおもりを背負ってる訳でしょうしね。
加えて、滑り台よりつるっつるですからね。たとえ飛び越えたとしても、とたんに高さ8mから転落ですよ。我ながら結構エグいと思うね。
そんな防壁も、体積自体は小さいのでじゃんじゃん作れる。
毎秒5mくらいの勢いで作れるから、お手製三輪車でのんびり走りながら屋敷の周囲に防壁を巡らせて行く。
そんなことしてたら、どんどん生成速度が上がってきたよ。俺、成長してるね。
で、しばらく防壁を作ってたら、敷地の端の方に大きな岩があった。
高さ5mくらいだろうか。
邪魔だなぁ。
良いや。突っ切っちゃえ!
俺の行く手を遮ることは出来ないのさ!
ってなもんで。
岩の中央部分を突っ切ってから……また気づく。
やっちゃった。
ダメじゃん。この岩、足場になるからよじ登りやすくなるじゃん。
考え無しってのはこういう事か。そう言う意味では成長してないなぁ。
などと嘆きつつ、一旦生成した壁を消す。
ゴトン!
と、大きな音がする。
岩の中央部に出来た「ρ」型の切れ目。その中央に残された岩の円筒が下に落ちる音だった。
ありゃ。
岩の真ん中切断出来ちゃったね。
岩の真ん中を自作物質で貫通させると、そこの岩は無くなってるんだね。
お!?
これ使えば、自作物以外の切断とか消去が簡単にできるんじゃない?
試しにやってみるか。
薄めの板を岩の中腹を貫通するように生成する。
なんだかゲームのバグみたいだな。岩の真ん中を白いポリゴンが貫いてる。シュールですな。
で、そのポリゴンを消してみる。
っと?
あれ?切れてる?
キレてない?俺(岩)を切れさせたら大したもんってことなの?
いや。あ、一応切れてるな。切断部が薄すぎてよくわからんかったが。
水平に斬ったからわかりにくいな。
今度は斜めにポリゴンを生成する。地面に対して45度くらいで。
やはり岩を貫通するポリゴン。今度は斜めに貫いてる。
で、それを消してみると……
ズズズズズゥゥゥ!!!
おわ。切断面から上の岩がずり落ちてきた!!
キレる。切れるよコレ。
そっから楽しくなっちゃって、岩を切り刻んで遊んじゃった。
ポリゴンを出しては消し。出しては消しを繰り返す。
そのたびに切断される大岩。最後は小さな欠片になっちゃった。
でも、練習の成果はありました。ポリゴンの生成と消去が異常に早くなった。
今や、ポリゴン生成が見えないほど。ほとんど一瞬でどんなものでも両断できます。
これこそ最強じゃね?
レーザー切断機なんて目じゃないよ。何でも切れるからね。どんな厚みでも。
いやはや。すげースゲー。
と、自画自賛しながら敷地を一周するころ、
なにやら使用人たちが集まって騒いでいる。
どしたの?おっちゃん。
使用人たちの人込みをかき分け前に出ると、身なりの良いおっさん達が馬車を引いてこちらに向かってきている。
父さん母さん大慌て。使用人たちもわたわたし始める。
どうやら、それは領主からの使節団だったらしい。
ありゃ。防壁づくり(正確には切断作業)に夢中になって、外を警戒するの忘れてた。
てへぺろ。
ってか、今までの作業全部無駄か。とほほ。
すると、使用人のおっちゃんが俺の方に駆け寄って来る。
父さん母さんの指示で工房に隠れるようにってさ。
おっちゃんに連れられて工房へと押し込められる。
まあ、なんやかんやで父さん母さん交渉上手いみたいだし。任せてみるかぁ。
……
でもねぇ……
興味が湧いて仕方ない。
こっそり工房を抜け出し、客間に通された使節団を観察する。
さてさて、どんな奴らかと覗いてみれば、なにやら気のよさそうなおっさんばかり。
領主恐るるに足らず!
と、思ったら見つかっちゃった。
やべ!
慌てふためく父さん母さん。
まあ、落ち着きなさい。こんな輩に慌てても仕方ないですよ。ね?
ってなもんで、焦りを隠して、ゆっくりと扉の隙間からおっさん達へと近づく。
にこやかに挨拶すると、使節団の中で一番位の高そうなおっちゃんが手招きする。
終始父さん母さんは恐縮しっぱなしだ。
なるほど。随分えらいおっちゃんと見える。
まあ、俺に興味を持ったんだな。それは致し方ない事でしょう。
なんせ悪い気がしないもんだから、そのおっちゃんの所へと近づく。
しげしげと眺められてから、いくつか質問された。
どんな能力なのか?
モノを作れるんですよ。そりゃもう。いろんなものを。
どんなものでもか?
ええ、そりゃなんでも。何なら出しましょうか?ってなもんですよ。
そっから、金銀財宝出してやりましたさ。
おっちゃん驚いたなんてもんじゃないね。いや~。良いリアクションだ。そう言うの好きよ。いいね。素直に驚きを表現できるのは好感度高いよ。
なんだか、おっちゃん悩み始めちゃった。
でもね。俺もちゃんと交渉するよ。
ウチの父さん母さんに手出ししないでね。って。
えらいっしょ?
あ~。大丈夫。わかりましたと。おっちゃんが言う。なるほど。物分かりが良いね。
しばらくするとおっちゃんたちは俺が出した金銀財宝を持ってホクホク顔で帰っていきましたよ。
なんだ。そんなにビビることなかったじゃん。