望郷
学校から帰り、自室のドアを開ける。
すると、ベッドの横にある小さなテーブルの上、無造作に円筒形に巻かれた紙が置かれていた。
それは蝋で封印された手紙だった。
シーリングワックスに刻印されているのは……見慣れた我が家の家紋。
俺は震える指で、シーリングワックスを丁寧に剥がし手紙を広げる。
読めるようになった文字。
父さんからだ。
お元気ですか?
私たちは元気です。
お前が皇王陛下の元でお役に立っているとは聞いているが、無理をしていないか?
私たちの事は気にしなくていいから、自分の体を第一に考えてほしい。
何気ない言葉から始まった手紙。
初めて見る父さんの文字。
ああ、だめだ。
せっかくキッチリと固めて心のずっと奥にしまったものが、
ざわざわと動き出した。
あらゆる感情をしまい込んだ心の奥の、
そのまたずっと奥にある場所。
俺が作り出す奇天烈な発明品の数々を、驚きと感動を持って利用してくれる使用人たち。
少し抜けてはいるが、俺の成長をやさしく見守っていてくれた父母。
心の拠り所として大事にしつつも、
それに縋ると自制が効かなくなる。
そんな気がして普段は見ないようにしていた感情と記憶。
それらが一気にうずき出す。
決して痛い訳ではないが、この感情があふれ出すと取り返しがつかなくなることだけがわかる。
でも、続きを読みたい。
父さんの言葉を噛みしめたい……
だが、情けないことに目の前が滲んで続きが読めない。
気が付くと、俺はその場に膝から崩れ落ちていた。
大粒の涙が頬を伝う。
その涙で手紙が濡れてしまわぬよう、俺は手紙を胸元でぎゅっと抱きしめる。
それからしばらくの間、俺は気持ちを落ち着かせるためその場でじっと蹲っていた。
すると、
バン!
と、大きな音がして、俺はベッドの方へ弾き飛ばされる。
どうやら勢いよく蹴り飛ばされたようだ。
俺を蹴り飛ばした人物の方に目をやると、
俺が最初に皇王と間違えた男、
サウル・ハワード卿
皇王親衛隊の隊長であり、
いつも俺の事を目の敵にする、非常にいけ好かない奴だ。
こいつが戦闘術の授業を担当しているせいで、俺が授業に参加できない。
ってか、全てちぐはぐなんだよな。
親衛隊隊長でしょ?
なんでガキ達に稽古つけてんのさ?
そんなこともっと下っ端にさせろよ。暇なの?
と、こいつの事を考え始めたらセンチメンタルな気分が萎え、むしろ怒りが湧いてきた。
ああ、むしろありがとう。
俺は、涙を拭きながら床から立ち上がる。
脇腹に鋭い痛みが走るが、即座に治癒をかける。
って、今の蹴りで、たぶんアバラ折れてたよね。流石容赦ないね。
ただ、視線を合わせると奴は激昂するので、その場でうつむき気味に尋ねる。
「なぜあなたがここに居るんですか?」
努めて冷静に、丁寧に聞いたつもりだったが、やっぱり激昂した。なんだよ。気を使って損したな。まあいいや。
こんな大人にはなりたくない。
奴の喚いている内容を要約すると、
俺がめそめそしながらうづくまっていて、仕事をしろと守銭奴老婆が呼びかけても答えなかったため外の使用人に報告したそうだ。
で、その報告を受けて……
いやいや、親衛隊隊長なんすよね?
暇なの?やっぱり。暇なのか!?
とりあえず仕事をこなせって事らしい。
へいへい。わかりましたよ。やればいいんでしょ。やれば。
俺がいつも通り金銀財宝をその場に出すと、ハワード卿はぶつぶつと小言を呟きながら部屋から出て行った。




