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眉目秀麗な副隊長

ジンが率いる傭兵団のお仕事は多岐に渡っていた。

本来傭兵とは国に属さない兵のことで、金銭などの利益により雇われて戦争に参加する者達のことをいう。

今は結界を越えてくる悪魔が増えてきているので、その討伐に駆り出されることがほとんどだ。


傭兵になるのは世間からはみ出た荒くれ者共が多いので、住民からは怖がられる存在だ。

ジンも最初は威圧感のある見た目から警戒されていたようだが、今ではフィージャの住民からとても信頼されており、近隣の街からも頼りにされていた。


関係が良好なのはいいことだが、そのせいでジンの元には様々な依頼が舞い込んでくる。

崩落した山道の修復だったり喧嘩の仲裁だったり、果ては畑の収穫のお手伝いまで……

ジンはそれらの頼みを嫌がるどころか快く引き受けていた。

バーバラさんがなんでも屋と呆れたように言っていたのが分かった気がした。


私もそんな雑務のような仕事をこなしながら、ジンから剣術を学んでいた。

剣術なんて力任せに振り回せばいいもんだと思っていたのだが、考えが甘かった。


「踏み込みが弱い。もっと指の付け根を意識してみろ。」

「今度はタイミングが合ってない。そんなんじゃ先に相手に切られて終わりだぞ?」


そんなことを言われたって何度やっても上手くいかない。不器用すぎて段々と自分にイライラしてきた。

ジンの指導も意外と厳しいし……


「ねえジン、あの時放ってた天地を切り裂く必殺技はどうやるの?」

こんな小難しい技より、私にはあれくらいの大技の方が合ってると思う。


「あれか?あれは空間切りといって、こいつがあって為せる技なんだ。」


そう言うとジンは腰に差した何本かの刀剣の中から、一番大きいのを引き抜いて見せた。

特別な装飾も宝石も付いていない、質素でゴツゴツとした白い刀剣だった。

こんなのであのすごい技が出せるとは驚きだ。

剣士だった父の形見らしい。


「ちょっと振ってみるか?」

「いいの?」


受け取った瞬間、支えきれずに剣先が地面に突き刺さった。重いなんてもんじゃない!

持ち上げようと悪戦苦闘する私を見てジンは笑った。

なんでジンに軽々と持ち上げられるものが、私だと地面から浮かせることもできないわけ?!


「もしかしてこれって魔剣なのっ?」

「ああそうだ。どうやら俺はそいつに気に入られているらしい。」


魔石もそうだが、魔剣も己が仕える持ち主を自ら選ぶ。より強い血統の者を好むのだ。

だったら私が気に入られないなんておかしいっ!

だって私、こう見えて魔王なんだよ?こいつ、全然分かってないんじゃないの!!ムキーっ!



「ジンさん、失礼します。」



ルッキーが訓練中の私達の元へとやってきた。


「パウロさんが戻られたようです。報告書があるようなので、今から取りに行ってきますね。」


パウロとは副隊長のことだ。

別件で王都にいると聞いてはいたが、ようやく帰ってきたようだ。

ジンは向かおうとしたルッキーを呼び止めた。


「パウロのところには俺が行く。モモにも紹介しておきたいから付いてこい。」


パウロさんは攻撃魔法に防御魔法、治癒魔法や結界まで張れる人間界でトップレベルの魔法士だ。

私もどんな人なのかと気になっていた。







パウロさんの住む家は街を見下ろす険しい崖の上にそびえ立っていた。

白いレンガの外壁に石瓦の青い屋根……お城といっても過言ではないほどの壮大な建物だ。あまりのデカさに呆けてしまった。


「パウロはこの地方一帯を治めるウォルバラ公爵の当主だからな。」


あの王様とも遠縁ながらも血縁関係があり、普段は王都にある屋敷で公務の仕事をしているらしい。

そんなにも地位のある偉い人がなぜ傭兵団としてジンの下で働いているのだろうか……?

不思議に思いジンに尋ねてみたら、幼なじみだからなとだけ返ってきた。

人間の熱い友情というものなのだろうか?よく分からん。


対応してくれたメイドが中庭へと案内してくれた。

たくさんの花々や果樹が生い茂り、大理石でできた神々の彫刻や噴水が置かれた煌びやかな庭にはため息が出た。

中央にあるガゼボの椅子に、紅茶を飲みながら書物を読んでいる人影が見えた。

光沢のある上質な布を緩やかに身にまとい、白金の長い髪を結い上げたその人はとても端正な顔立ちをしていた。



すごく……綺麗な(ひと)──────────



私達に気づくと、まるで花が咲くようにフワリと微笑んだ。

その漂う色香に思わずドキりとしてしまった。


「副隊長って女性の方だったんですね。」

「いや、パウロは男だが?」


えっ、男?!ウソでしょ!!

しまった……私ってば、本人にも聞こえるようになんて失礼なことを!!


「気にしなくていいよ。私は顔が美しいから、初対面ではよく間違われるんだ。」


いきなりプロポーズをされたことが何度もあったらしい。

てか、自分で自分を美しいとか言っちゃうんだ……

メイドが私とジンの分の紅茶とラズベリーパイを用意してくれた。ありがたく頂こうとしたら、パウロさんが興味深げに私のことを見つめてきた。


「ふ〜ん…この子が新しく入った隊員か。良かったねえジン、可愛らしい伴侶が見つかって。」


伴侶ってなんだ?

ジンに聞こうとしたら、紅茶を吹き出して盛大にむせていた。


「皆んなそう言っているよ。一緒に住んでるんだろ?」

「成り行きでそうなっただけで、部屋も別々だし単なる同居人だ!」


あの日バーバラさんに赤ちゃんは生まれなかった。

ジンに言われて次の日にはバーバラさんの家に戻ったのだけれど、一晩同じベッドで寝たことを話したらバーバラさんはジンの家へとすっ飛んで行った。

ちゃんと責任取りなさいよとバーバラさんから散々責められたようで、結局私はジンの家で世話になっている。


「私はくっついて寝たいんですけど(温かいから)、ジンはダメだって怒るんです。」

「モモっ!誤解を招くようなことを言うな!」


「ジンは酷いね〜。じゃあ私のところにくるかい?一晩中可愛がってあげるよ。」

「パウロっ!モモに変なことをしたら許さんぞ!!」


公爵なのにちっとも偉そうじゃないんだな。

上下や身分の損得なしに親しげに会話をする二人はどこか子供っぽく見えた。

昔からよほど仲が良かったのだろう……



「それで、報告とはなんだ?」



ジンからそう切り出されて、パウロさんの表情が曇った。どうやらあまりいい話ではなさそうだ。


「先日王様が舞踏会を開いてね。全く、あそこだけは別世界だね。どこの地方も悪魔が増えていて舞踏会どころじゃないのにと嘆いていたよ。」


そう言うと地方を治める貴族達からの情報をまとめた報告書をジンに手渡した。

特に結界に隣接している街の被害は想像を絶するものらしく、悪魔のみならず人間による犯罪も増えていて無法地帯と化しているようだった。


パウロさんが治めるこの地方も結界からはそう離れてはいない。

それでも今のところ平穏を保っていられるのは、ジンが率いる傭兵団のおかげなのだろう。


「王様はこれらの街に兵を派遣していないのか?」

「すると思うかい?あの王様が。」


王様は国の全兵力を王都を囲むようにぐるりと配置しているのだという……

そして精鋭中の精鋭、第一兵団にいたっては24時間体制で自分の警護につかせているのだそうな。

つまり、自分のいる王都以外はどうなってもいいということだ。

それがトップに立つ者が考えることなのだろうか……


お互いに境目を守る役割を担っていたはずだった。

人間側にだって結界を修復させる力はあるのになぜしようとしないのか。なぜいつもいつもこちらに丸投げなのかが全くもって理解出来ない。



「自分さえよければいいだなんて、王様は随分と卑怯者なんですね。」



苛立ちがつい口に出てしまった。

場がシーンと静まり返ってしまったけれど、私は事実を述べたまでだ。

パウロさんは紅茶を一口飲むと、ふぅとため息を漏らした。




「したいけどできない王様と、できるけどしない王様がいるんだよ。」




───────なにそれ……どういうこと?


パウロさんの意味深めいた言葉に戸惑っていると、ジンが勢いよく椅子から立ち上がった。


「邪魔したな。モモ、帰るぞ。」

「えっ?ジン、ちょっと待って。」


足早に去ろうとするジンを追いかけようとしたら、パウロさんに腕を掴まれ引き寄せられた。




「ジンのこと、頼むね。」




耳元でささやくようにそう言うと、私の目を見つめながら艶やかに微笑んだ。


その美しさにつられて思わずうなづいてしまったけれど……

頼むって一体、なにを───────?





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