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いざ、人間界へ


「ルッキー、あった?」

「こっちにはな〜い。向こうも探してみる。」


遠くから声がしてきて意識が目覚めた。

ぼんやりとした頭で瞼を開けると、折れた木の枝の間から眩しいほどの木漏れ日が差し込んできた。

ここはどこで、私はなぜこんな草むらの上で寝転がっているのだろうか……



「起きたか?」

「きゃあ───────っ!!」



視界の端から現れた毛むくじゃらのムキムキ大男に叫んでしまった。


「ちょっとジン!女の子を脅かしてんじゃないの!」

「ジンさん、彼女とは僕が話しますから離れてください。」


少年が勇者と私の間に割って入ってきてニッコリと微笑んだ。

ビックリした……殺されるかと思った。


「僕の名前はルキア。みんなからはルッキーって呼ばれてるんだ。さっきのはジンさんで、あっちにいるお姉さんがバーバラさん。」


ジンは剣士。バーバラさんは魔法士で、ルッキーも魔法士なのだがヒーラー専門なのだという。

ベルセベトに切られた首の傷が綺麗に治っていたのでルッキーにお礼を言った。


「君の名前はなんていうの?」

「モ、モモ……です。」


正確にはモモファージャ・ロフォカレル・デーモン・キングとなるのだが、魔王だと丸わかりなので黙っておこう……



「モモか。いい名だ。」



離れていったはずのジンが耳元でボソッと呟いたので、思わずひぃい!っと叫んでしまった。


「ジンさん、今のその姿じゃ無理ですって。彼女は僕に任せて向こうを探して来てください。」


ジンは少し不貞たような表情をするとのしのしと歩いていった。

悪い人ではないのだろうけれど、あの見た目は心臓に悪い。

にしてもさっきから一体なにを探しているのだろうか。

改めて辺りを見渡すと、先程の凄まじい攻撃によりなぎ倒された木々の残骸が四方八方に散らばっており、その真ん中にベルセベトであろう無惨な亡骸が横たわっていた。



「あ〜実はね、魔王が持つと言われている魔石を探してるんだよ。黒曜石(こくようせき)みたいな色で拳大の特大サイズらしいんだけど、モモちゃん見たことある?」



それ今……私の鞄の中に入ってます。


「あれがないと王様のいるお城に戻れないんだよね〜。」

「そう…なんですか……いろいろ大変ですね。」


どうしよう。

正体がバレる前に一刻も早く勇者一行とは分かれたい。けど魔石が見つからなきゃいつまで経ってもこの場が収まりそうにない……

もう鞄から出して渡しちゃう?

でもなんで私が持ってんだって話になるだろうし……


─────────そうだっ!



「私も探すのお手伝いしますっ!」



まだ無理しちゃダメだよとルッキーからは止められたが、助けてくれたお礼ですと言って捜索に加わった。

さりげなくさりげな〜く。偶然見つけたふりをして渡せばいいのだ。

近くにあった岩の下に素早く魔石を潜り込ませ、ヒョイと持ち上げた。



「わーっ。なんかここに埋もれてるのってさっき言ってた魔石に似てないですかー?」



私の呼びかけに振り向いた三人が、ギョッとした顔で固まった。

完璧な作戦だと思ったのだけれど、ちょっとわざとらしかったかな。


「モモちゃん……なんでそんなに力持ちなの?」

「普通じゃないわ。あなた、まさかとは思うけど……」


ルッキーとバーバラさんが警戒するように身構えた。

どうやら人間は自分の背丈ほどの岩を持ち上げることは出来ないらしい。

不味い……これはやらかしてしまったかも知れない。

ジンが落ち着けと言って二人を制した。


「魔界では稀に重力が場所により変動する。細腕で大岩を持ち上げたとしてもなんら怪しむことではない。」


そうなの……?そんな話初めて聞いたんだけど。


ジンは私の手から岩を奪うと、人差し指ひとつで軽々と遠くへと投げ捨てた。

重力なんて関係ない。とんでもないパワーだ。

二人から疑っちゃってごめんねと謝られた。とりあえずはまたジンの勘違いのおかげで難を逃れられたようだ。

ジンは岩の下で埋もれていた魔石を拾いあげると、バーバラさんに投げ渡した。


「どうだバーバラ。これがそうか?」

「うんうん、古文書に書いてた通り古代文字でKINGって彫ってある。間違いないわ!」


本物なのは当たり前だ。魔王である私が自らそこに置いたのだから。

歴代の魔王が何千年も大事に受け継いできた魔石を渡すのは忍びないが仕方がない。命の方が大事だ。

じゃあこれで失礼しますと去ろうとしたら、ジンに道を塞がれた。


「おまえも一緒に城までこい。」

「ええっ私も?なんで??」


「用事が終わったら家まで送ってやる。俺が。」

「いえそんなっ、結構です!」

どうにかしてくぐり抜けようとしていたらバーバラさんもやって来た。


「女の子ひとりじゃ危ないし、人間界へどうやって戻るつもりなの?」


ええまあ確かに、ごもっともな意見だ……




でも私、魔王なんですけど!!







魔界と人間界の間には何千年もの間、境目と呼ばれる結界が設けられてきた。


お互いに相手の世界には干渉するなかれ。

昔むかしの悪魔と人間とで取り決めた協定だ。


だが双方で境目を守る役割を担っていくはずだったのに、人間側は二百年前から結界を維持することをしなくなった。

そのせいか、完全に二つの世界を分離しているはずの結界に(ひず)みが生じるようになってしまった。


歪みをつたい、悪魔が人間界に入り込んで悪さをすることがしばしばあった。

魔王であった父はこれらの不届き者を厳しく取り締まり処罰してきた。

でも人間の王はこの歪みを利用し、魔王を倒そうと勇者を魔王城へ送り込んでくるようになった。



本当に……勝手すぎる。





「う〜んとねぇ……あっラッキー!あの辺にちょうど大きなのが開きそうだ。皆んな、僕に付いてきて。」


ルッキーは探知魔法というのを発動させ、歪みがいつどこでどんな大きさで開くのかを探った。

そんな特殊な魔法があったとは驚きだ。


魔界と人間界を隔てる結界というと石で出来た頑丈な壁のようなものを想像するかも知れないが、実際は大気が濃密に圧縮された分厚くて硬い層なのである。

これは大気を操ることのできる魔王の魔石により造られたものだ。


層は不透明なものなので向こう側の景色を見ることは出来ない。

歪みとは大気の乱れにより生じる風穴のことだ。

歪みを目視するのは困難で、目を凝らしてみてようやく微かに揺らいでいるのが分かる程度だ。

直径2mほどの穴を悠々と抜けながら、人間とは新しく魔法を生み出すことが出来るのだなあと関心した。


「やっぱり人間界の空気は美味しいわね〜!」


到着すると、バーバラさんは大きく伸びをしてそう言った。

そうかな……味なんてないような気がする。


にしても来てしまった。

魔王である私が人間界に。

大丈夫なのか、これ……?




歩いたら三日ほどかかる距離らしいが、途中でお城からの使者が馬車で迎えにきてくれた。

王都は城壁と呼ばれる壁の中に教会や商店や住居がひしめき合うようにして造られていた。とても華やかな街だ。


馬車に乗ったまま門を潜ると、道にそってたくさんの人間達が偉業を成し遂げた勇者一行を垂れ幕や大歓声で出迎えてくれた。

まさかその倒したとされる魔王が勇者一行と共に馬車に乗り込んでいるとは夢にも思わないだろう。

小さな子が元気一杯に手を振る姿を見て胸がチクリと傷んだ。


城に着くとすぐさま王様への謁見を許された。

私が会うのは不味いと思いここで待ってると言ったのだけれど……


「魔王の魔石を見つけられたのはおまえの功績だ。堂々としていろ。」

そう言ってジンが離してくれなくて引きずられるようにして連れていかれた。

別に恐縮してるわけじゃないのに!てか、なんなのこいつの馬鹿力は!!



「よくぞやってくれた。勇敢なる勇者達よ。」



ああ、とうとう来ちゃったよ王様の元に。

本当に大丈夫なのかなこれ……


通された謁見の間には見上げるほど高い位置に作られた上段に王様と王妃が座っており、その下でこうべを垂れる私達を挟むようにして鎧兵がズラリと並んでいた。


父は立派な角と大きな黒い羽があってその姿は威厳に満ちており見るものを圧倒した。

しかし人間界の王はニコニコというかヘラヘラとしていて顔にしまりがなく、体型もブヨブヨしていた。好きなものを好きなだけ食べているのだろうか……?

王妃の方は気品があって美しいだけに、なんだか残念な気がした。


魔王の魔石を受け取った王様は大層上機嫌な様子で、魔王である私が目の前にいるのに気にも留めていないようだ。

バレるんじゃないかとビクビクしていた自分がアホらしくなった。


「皆にはたんまりと褒美を与えよう。勇者ジンよ、望みとあらば我が娘も与えようぞ?」

「ちょっとあなた、いきなり何を言い出すの?!」


王妃が慌てふためいて王様を静止した。

そりゃそうだ。自分の娘をこんな毛むくじゃらで筋肉ムッキムキな大男なんかと結婚させたくはないだろう。


結局は褒美目当てで私を倒しにきたんだよね……

分かってはいたけれど、なんとも言えないやるせない気持ちになった。




「国王陛下。お言葉ですが私は褒美が欲しいわけではありません。私の仲間を、解放して頂きたいのです。」





──────────仲間?


どういうこと……?


「ああ……我が第一兵団に怪我を負わせたならず者どもか。」


王様がさっきまでのご機嫌な表情とは打って変わって渋い顔つきになった。

しばらく考えた後、先頭にいた鎧兵に向かって解放してやれと一言指示を出した。


「なんでもやると言うておるのにそれが望みとわな。全く、欲がない男よのお。」


ジンはホッとしたようにありがとうございますと礼を言うと、深々と頭を下げたのだった。







「さあ今夜はお祝いのパーティよ!会場中の男共を魅了させてやるわよん♡」


バーバラさんが体をくねらせながら私に向かってウインクをした。

商人達が持ってきた大量のドレスや貴金属を前にウッキウキである。王妃からの計らいにより好きなものを頂いても良いらしい。


「あの、バーバラさん。さっきジンが言ってた仲間ってなんなんですか?」

「ああ、あれね。ジンは傭兵団の隊長なのよ。モモちゃんはどのドレスにする?」


「いえあのっ…傭兵って、なんですか?」

「雇われ兵って意味なんだけど、ジンの場合は困ってる人を助けるなんでも屋って感じね。あいつ人が良いから。」


ルッキーもそこの隊員らしい。

隊員にはわけありな人が多く、家族も行くあてもなくてジンを頼って自然と集まったのだという。

バーバラさんも元はそこに所属していたが、妊娠を機に脱退したらしい。


「えっ、バーバラさんて三人もお子さんがいるんですか?!」

「そうよ〜。だからジンには付いて来るなって止められたんだけど、かつての仲間が絞首刑になるかもってのにじっとしてられないじゃない?」


魔王城に挑みに来た勇者一行が、瀕死の状態で逃げ帰っただとか全滅したとかいう噂は何度も耳にしたことがあった。

自分の方が死ぬかも知れないってのに、なんて人達だ。



人間には……


こういう者達がいるのだな────────





「モモちゃんこのドレスどう?これも似合ってるわあ〜。いいわね若いって!」


選んでくれるのはどれもこれも際どいデザインのものばかりだった。

これはちゃんと自分で選ばないととんでもないことになりそうだ。




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